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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1616話 魂の在処

 ――命が惜しいのなら戦ってはいけない。

 前触れもなく告げられた予想外の宣告に、テミスとシズクは言葉を失って呆然とニコルの目を見返す事しかできなかった。

 冗談を言っているような表情ではない。

 しかし、理由も告げられず、ただ一方的に結論だけを告げられただけでは納得できるはずも無く。

 テミスは驚愕に吹き飛ばされた思考が、ゆっくりと我を取り戻していく最中、冷静さを保つべく大きく息を吸い込んだ。


「……元々、ワタシがギル坊からは受けていた頼み事は二つなんだ。一つは、キミ達がここへ来た理由でもある、ギル坊自身の薬を作る事。そしてもう一つは……テミスちゃん。死の淵から見事蘇ってみせたキミの容態を診る事だ」

「っ……!! ……続けてくれ。悪いが、相槌を打てるほど余裕はない」

「うん。解っている。大丈夫だとも。それに、戦えない……とはいってもごく一時的なものだ。このまま日常生活を送るだけならば、しばらくは命に別状は無い。多少、乙女にはあるまじき大喰らいになる程度かな」

「っ――」

「――待って下さい! 口を挟んで……ごめんなさい!! 私には良くわからないですけれど……テミスさんは大丈夫なんですよね!?」


 冗談を言っている場合ではないんだ!!

 肩を竦めて軽い口調で言葉を付け足したニコルに、テミスがそう叫びかけた時だった。

 堪りかねたかのようにテミスの傍らからシズクが身を乗り出すと、酷く不安げな表情で叫びをあげる。

 その冷静さを失った叫びは、ともすれば間違っているのかもしれない。

 否。当事者であるテミスが不安を叫ぶことなく堪えている以上、それを差し置いてシズクが声を上げるのはきっと間違いなのだろう。

 けれど……。

 シズクが声を上げてくれたお陰で、テミスは己が失いかけていた冷静さを取り戻す事ができていた。


「……大丈夫だシズク。まずは……兎も角まずはニコルの話を聞こう」

「っ……! テミス……さん……!! はい……! はいっ……!! ごめんなさい!! 私……!!!」

「良いんだ。ありがとう。ニコル……すまない。続けてくれ」

「ふっ……。わかった。テミスちゃん。今のキミは肉体から魂が剥がれかかっている状態なんだ。例えるのなら……そうだね、魔道具から魔石が抜けかかっている状態と言えばわかり易いかな……?」


 そう言葉を紡ぎながら、ニコルは傍らからランプのような形をした魔道具を取り上げると、その中心に据えられた魔石を指でグラグラと揺さぶってみせる。

 彼女からしてみれば、魂などという目に見えない概念を説明する為の、苦肉の策がこのたとえ話なのだろうが、魂の定義を理解するテミスには、その努力が何処か微笑ましく見えた。


「んん……参ったねどうも。キミの中に在るキミ自身の核とでも言えば伝わるだろうか。この辺りの事柄はどうにも説明が難しくて困るんだが……」

「……大丈夫だ。理解できている。つまり、魂が剥がれかけている事による弊害がこの異様な空腹感……否。飢餓感とでも言うべき感覚なのだな?」

「聞いていたよりも優秀だね。そう。原理は諸説あるのだけれど、生ける死者(アンデット)が生者を襲わんとする理由も似たようなものだとワタシは睨んでいる。魂の欠落を埋めるため、失ったモノを補わんとする肉体の意識無き意志。テミスちゃんの場合は、まだ剥がれかかっているだけだから、沢山の食事で補える訳だ」

「ハッ……連中のお仲間とは笑えんな。原因は……まぁ一つしか無いのだろうが……」

「いいや。二つだよ。ギル坊の蘇生魔法は成功した。本来なら、喚び戻された魂は放っておいても肉体に定着するものだ。けれどキミ、戻ってきて早々に無茶をしたろう? おおもとの原因はそれだよ。数日間の昏睡が証拠さ」

「っ……!!!」


 ともすれば、絶望に膝を付き咽び泣いてもおかしくはない程のニコルの宣告に、テミスはまるで他人事であるかの如く淡々と問いを繰り返した。

 それに合わせて、ニコルもまた問われた事柄に対して率直な言葉を以て答えを返し、その内容は途方もなく難解ながらも、諸々の事情を知り、傍らで固唾を飲んで話を聞いているシズクにも辛うじて理解できた。


昏睡(それ)があったかたこそ、ギル坊はワタシの元へキミを寄越したのだろうけれどね。なに……心配せずとも良いさ。剥がれかけているとはいっても、元はキッチリと収まっていたモノなんだ。治す事はできる。けれど、これ以上症状が進んでしまったら……つまり、魔力や闘気……即ち生命の力を激しく放出するような戦いをしたらその保証はできない。最悪、肉体から完全に魂が剥がれてしまう事もあり得るよ」


 ニコルはテミスやシズクを安心させるかのように穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと視線を合わせてみせると、肩を竦めて自らの胸に手を当てながら朗々と言い放ってみせる。

 その言葉はジスクに安堵を与えたのか、シズクはほっと気が抜けたかのように一つ息を吐くが、そのまま視線を再びテミスへと向けたニコルは、釘を刺すが如く少しだけ語気を強めて言葉を付け加えた。


「……わかった。私も流石に自ら死にに行くような真似は御免被る。せいぜい大人しくしているとするよ」

「そうです!! 今回ばかりは無理も無茶も禁止ですからね!! もしも荒事が必要とあらば私がッ!! この刀に誓って、露払いを務めてみせますッ!!!」

「フフ……頼もしい護衛じゃないか。それに関してはワタシも応援させて貰うよ。ま、床に縛り付けておかねばならない病人という訳では無い。全力さえ出さなければ、多少身体を動かす程度なら問題は無いよ。さぁ、お堅い話は終わりだ。食後のお茶と洒落込もうじゃないか」


 クスリと皮肉気な微笑みを浮かべて答えたテミスに、シズクが腰の刀を中程まで抜き放つと、強い意志の籠った言葉で凛とそう宣言して見せる。

 そんなシズクに柔らかな微笑みを向けた後。飄々とした態度でそう話を締めくくったのだった。

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