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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1659/2308

1602話  旧き家を訪ねて

 監視の目を撒いたテミス達は、念には念を入れて大きく迂回してから西へと向かうと、程なくして町の中心ほどの活気は無くなり、街路に寂れた気配が漂い始める。

 しかしそれでも、生活を営む人が居ない訳ではなく、そこかしこで煤けたままになっている薄汚れた建物の壁が、独特の雰囲気を醸し出していた。

 そんな街路を抜けた先。

 町の外縁部にほど近い場所に、その建物は堂々と聳え立っていた。

 これまでの町に立ち並んでいた建物とは異なった造りの洋館。

 しかし、元は大層立派であっただろう門扉は所々が崩れて機能を失い、壁にはツタが青々と生い茂っている。天井は辛うじて吹き飛んでこそいないものの、下から見上げただけで穴が開いているであろう事が容易に見て取れた。

 そのくせに、建物は全体を一度に視界へと納める事ができないほどに大きく、これほど老朽化が進んでいるのに、未だ倒壊する事無く建っているのが不思議に思える位だ。

 形容するのならばまさに、『古くてデカいボロボロの屋敷』そのもので。想定以上に、ルードが寄越した情報が正確だったという事実に、テミスは引き攣った笑みを浮かべながら眼前の屋敷を見上げた。


「ハハ……強烈だな……。私たちはこれから、ここへ足を踏み入れるのか……。とても正気だとは思えんな」

「一応……とても立派なお屋敷ですけれど……。本当にヒトが住めるのでしょうか……」


 錆歪んで半開きになった門の前で、足を止めたテミスが皮肉気に言葉を零すと、傍らのシズクが不安気に屋敷を見渡しながら眉を顰める。

 テミスとて、こんな事を言ってはいるが、ギルファーに滞在した折には崩れかけた廃屋を改造して拠点とし、見事に敵の目を欺いていた事をシズクは良く知っていた。

 あの時はほかに手段も無く、仕方が無かったとはいえ、眼前の屋敷はどこからどう見ても老朽化が進み、手の施しようが無いほど朽ち果てており、背の高い草が生い茂った庭に立ち並ぶ彫像など、最早原形すら留めてはいない。


「……我々とて追手のかかっている身。いつまでもこうしては居れん」


 優に数分。

 否。数十分であったかもしれない。

 呆然と屋敷の前で佇んだ後、テミスは気合を入れるかのように両手で自らの頬を叩き、眼前の錆朽ちた門へと手を伸ばした。

 そしてその手が触れた刹那。

 ――ぎぎぃぃぃぃぃ……ガッシャンッ!!! と。

 最初はテミスの加えた力に従って、酷い軋みをあげながら開いていった鉄の門扉だったが、突然グラリと傾いたかと思うと、派手な音を奏でながら外れて地面に崩れ落ちる。


「…………」

「…………」


 これには、流石の二人も言葉を失い、テミスに至っては門を開くべく前へと突き出した手を空中に留めたまま、新たに増えた彫像の如く硬直していた。


「なぁシズク……もういっそ、全部諦めて投げ出して、このままファントへ帰らないか?」

「なっ……!! 駄目ですよ!? 急に何を言い出すのですか!? 門を壊してしまった事は謝りましょう! ねっ……? 折角ここまで来たんですから頑張ってくださいっ!」

「…………。ハァ……。厭だなぁ……入り口の扉とか開けた途端に、崩れてこないだろうな……?」

「大丈夫ッ!! きっとッ!! 大丈夫ですよ!!」

「…………」


 まるで自棄を起こしたかのように、弱々しい声でテミスが口走ると、傍らのシズクは慌てふためきながらも励ましの言葉を口にして、テミスに先へと進むべく道を示す。

 けれど。シズクの足はテミスの数歩後ろから微動だにしておらず、苦笑いと共に明らかに根拠のない励ましを続けるシズクに、テミスは口を閉ざしてじっとりとした視線を向けた。


「…………。……。ハァァッ……。まぁ……仕方がない……か……。シズク。私の後ろから離れるなよ。もし崩れてきたら、一思いに私の月光斬で瓦礫の山へと変えてやる」

「っ……!! は、はいッ……!! 生き埋めになっときはお願いします!!」

「プッ……ははッ……!」


 萎えていく自らの気持ちを鼓舞するために、テミスは決意半分冗談半分でシズクに言葉をかけると、全霊の気合と共に足を踏み出して鬱蒼と様々な種類の草が生い茂る屋敷の庭い足を踏み入れる。

 その背に続いたシズクが生真面目に返した言葉に、テミスは堪え切れずに噴き出して笑いを零すと、僅かに軽くなった足取りで屋敷の前まで歩を刻んだ。

 そして。


「っ……! いくぞっ……!!」

「テミスさん……! そぉっと……やさしくですよっ……!!」


 ドアノッカーの設えられた大きな玄関扉の前へと辿り着いたテミスは、一度背後にピッタリと付いてきているシズクと目を合わせて言葉を交わした後、そろりとドアノッカーに手を伸ばしたのだった。

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