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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1594話 手心無き私闘

「行くぞォッ……!!!」


 猛々しくあげられたテミスの咆哮が、緊張で張りつめた室内の空気をビリビリと震わせた。

 同時に、巻き上がった埃の渦が放つ燐光が如き微弱な輝きを残して、大剣を構えていたテミスの姿が掻き消える。


「はっ……!? 消え……!?」

「…………」


 目にも留まらぬ迅さのテミスの動きを、周囲に集っていた男たちが捕らえられるはずも無く、刹那の間に彼等の間をどよめきが支配した。

 しかし次の瞬間。

 正眼の形で太刀を構えていたルードが頭上へ向けて一閃を振るうと、薄暗がりになっている頭上から襲い掛かったテミスの一撃とぶつかって鐘をついたような轟音をあげた。


「フッ……不意打ちたぁ随分と狡い真似するじゃないの」

「言ったはずだろ? 加減はしないと」

「そういえば……そうだったなぁッ……!」

「ッ……!!」


 跳び上がって斬りかかったテミスの強烈な一撃を防いだルードは、せせら笑いながら太刀を振るって肉薄したテミスを退かせると、そのまま前へと踏み込んで鋭い刺突を放つ。

 その刺突は、彼が持つ『雷光』の異名が示す通り、先程テミスが放った一撃よりも遥かに迅く、太刀の刃は辛うじて反応したテミスの頬を裂いて通り過ぎ、鍔をあてがう形でピタリと止まった。


「なら、俺も言っとくが……。そうやって遠慮してたら、サクッと殺しちまうぜ? せっかくこうしてやり合えるんだ。楽しもうじゃねぇの」

「……!!!!」


 テミスへと肉薄したルードは、浅く切り裂いた頬から血を流すテミスの耳へと唇を近付けると、凄味のある低い声で囁いた後、数歩後ろへと下がりながら刃を退く。

 その一方でテミスは、一時は自失したかの如く目を見開いて身体を硬直させていたが、ルードが構え直す頃には我を取り戻し、頬を伝う血を拭いながら大剣を構え直した。


「なっ? 俺だってまだまだヤるもんだろ? 俺達の仲だ。小手調べなんざいらねぇさ」.

「…………」


 そんなテミスに、ルードは爽やかな笑みと共に肩を竦めて問いかけると、構えた太刀で宙を薙いで正眼に構え直す。

 だが、テミスはルードに言葉を返す事は無く、ただ黙したままギラリと殺気の籠った瞳で睨み返した。

 今の一撃は、ルードからの警告だ。

 投げかけられた言葉の意味を正しく理解しているテミスは胸の中でそう呟くと、自らの中のギア(・・)を一段引き上げた。

 これは模擬戦ではなく、れっきとした殺し合いなのだ。

 ならば、相手が受け切れるであろう程度の力で打ち込むなど愚の骨頂で。

 殺意の籠らぬ初撃を受けたからこそ、ルードは返す太刀で私の頭蓋を貫けたものを、わざと躱させて全力で来いと告げたのだ。


「良いだろう……。お前がその気なら、こちらも応ずるしかあるまい」

「おぉ……良い眼だ。怖い怖い。やっぱ戦いってなぁこうじゃなくちゃぁ……」


 静かに溢れ出した濃密な殺意と共に、テミスがゆらりと構えを変えると、ルードは頬に一筋の汗を伝わせながら楽し気に軽口を叩く。

 しかし、目にも留まらぬ速さで戦いを繰り広げる当人達は兎も角、傍らに肩を並べた男たちはそうはいかなかった。

 男たちの一部は、既にテミス達の殺気に中てられて戦意を喪失し、その場にへ立ちこんで、ガタガタと震えながらもルードたちの方へと視線を向けている。

 残った者達も、先に抜き放ったシズクに応じてそれぞれに武器は抜いていたものの、もはや自分達の戦いどころではなく、構えすらせずにテミスとルードの戦いに魅入っていた。


「……。えぇ……っと……。これは……斬ってもいいの……でしょうか……」


 そんな男たちを前に、シズクは困り果てたように呟きを漏らすと、苦笑いを浮かべてやり場のなくなった抜身の刀を静かに構え続ける。

 今ならば、テミスに命じられた通り、彼等を無力化するのは容易い事だ。

 腕を落とすも足を斬るも思うがまま。けれど、構えてすらいない相手を斬るのは流石に良心が咎めるし、何よりたとえテミスが負けたとしても、シズクには彼等が元通りの気勢を取り戻す事は無いように思えた。


「オォッ……!!!」

「ははっ……!!」


 それ程までに、こんどは真っ向からの打ち合いを始めたテミス達の戦いは凄まじく、シズクはガキンバキンと響く激しい剣戟の音を聞きながら、美しさすら覚えてしまうこの戦いに目を奪われていた。

 だが……。


「おや……?」


 刀を構えたままテミス達の戦いへと意識を向けるシズクの視界の端を、一つの影がゆっくりとカウンターへ向けて横切っていく。

 その人影は、気配を消し、足音を殺してこそいるものの、紛れもなくセレナを襲わんとしていた男たちの内の一人で。


「……仕方ありませんね」


 口元に笑みを浮かべ、カウンターの奥で戦いを見守るセレナへとにじり寄る人影に、シズクは小さくため息を漏らしながら呟くと、携えた刀の刃をギラリと輝かせたのだった。

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