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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1593話 新旧相対して

 鬼気迫る表情と共に男たちの背後から飛び出してきた男は、相対するテミス達の顔を見止めるや否や鋭く息を呑むと、僅かに表情を歪めて姿勢を正す。

 一方でテミスもまた、カウンターへとその身を預けて余裕すた醸し出していた態度を一変させ、大剣の柄に番えていた手を固く握り締める。


「……ルード。まさか、お前がここに居るとはな。驚いたぞ」

「っ……! 嬢ちゃんこそ。てっきり帰ったものだとばかり思っていたが……待てよ……?」

「まぁ、そんな事はどうでもいい。さっさと手勢を纏めて帰るんだな。それとも、私たちとこの場でやり合う気だというのなら……話は別だが」

「ッ……!!!」

「あ……? 俺……なんで震えて……」


 ゆらり。と。

 静かに言葉を紡ぎながら戦闘態勢へと移行したテミスが、つい先ほどまでとは別人のような殺気を放ち始めると、殺気に中てられた周囲を取り囲む男たちがざわめき始めた。

 しかし、外野のさえずりには興味が無いとでも言わんばかりに、テミスの視線はただ男たちの真ん中に立つルードへと注がれていて。

 その傍らに立つシズクは、それだけで突如眼前に現れたこの男が強敵であると認識し、テミスの戦いの邪魔にならないように、じりじりとテミスから距離を取り始めた。


「あ~……そういう事か……。ったく……あの御方もてんで間の悪い人だ……。いや……それすらも織り込み済みって事かね……。なぁ、嬢ちゃん。お使い(・・・)なら後で俺が手伝ってやっから、今は退いちゃくれねぇか? こっちにも事情ってモンがあるんだよ」

「クス……お前ならば、私の答えなど訊かずとも判っているだろう? お前達の事情など知った事か。如何なる事情があれど、目の前で婦女子に乱暴を働こうとするような屑を見逃す道理など無しッ!! 退かんというのならば抜けよ。ただし……お前が相手だ。加減はできんぞ」

「ッ……!!」


 飄々と放たれたルードの言葉に、テミスは手にした大剣をずらりと抜き放ちながら言葉を返すと、漆黒に輝くブラックアダマンタイトの刀身を露わにして肩へと担ぎ上げる。

 それは紛れもなく、最後通告や宣戦布告の類に等しいもので。今この場で、テミスの放った言葉の意味を正しく理解しているルードだけが、半ば反射的に腰に提げた太刀へと手を閃かせていた。


「あ~あ~……。お前等が勝手に先走ってくれたお陰でとんだ誤算だ。俺が間に合って良かったな? オイ。お前等の事だ、嬢ちゃんの見てくれに騙されて力押ししようとしてたんだろ。んな事してたら今頃、お前等肉塊になってた所だぞ」

「クス……安心しろ。こいつ等にも小さいながらも脳味噌は付いていたらしい。中々に胴に入った悪党ぶりと、先輩冒険者風を吹かせていたよ」

「ハハハッ……!! 良かったなぁ! お前等。その心掛けがテメェ等の命救ったんだぜ?」


 ピリピリと高まっていく緊張感の中。

 テミスとルードだけがそれをものともせず相対し、まるで何事もないかの如く言葉を交わし続ける。

 その傍らでは、狼狽える男たちを睨み付けたシズクが、刀に番えた腕が二人の殺気に反応してピクリピクリと跳ねようとするのを必死で抑え付けていた。


「……退かないという事はつまり。我々と戦うって事で良いんだな?」

「ホント……こっちに戻って来たばっかりだってのにツいてねぇ……。ま、その認識で間違っちゃいないんだが一つだけ……。コイツらの心意気……先輩風に免じて頼みを聞いてくれねぇか?」

「内容によるな。高い買い物はできんぞ?」

「わかってるよ。後で俺からもキツく言い聞かせておくからさ……殺すのだけは勘弁してやってくれ」

「ハッ……お人好しめ。だ、そうだシズク。腕や足は落として構わん。雑魚共は任せる」


 不意に訪れた僅かな沈黙の後、皮肉気な笑みを浮かべたテミスが静かな声で問いかけると、ルードは腰の太刀に番えていた手を離してボリボリと前髪を掻き毟りながら呟きを零した後、へらりと軽薄な笑みを浮かべて問いを返す。

 その問いは、何気ない会話で時間を稼いだルードが、必死で捻り出した妥協点なのだろう。

 故に、テミスは皮肉気な笑みを浮かべて吐き捨てると、傍らで構え続けるシズクへ視線を向けて指示を出した。


「はい。お任せください」

「ありゃ……そう捉えるかい……。おうお前等。俺にできんのはどうやらここまでらしい。あっちの嬢ちゃんもかなりの遣い手だ。冒険者続けたきゃ気合入れろよ」

「ちょ……ルードさん……!! アンタならこんな連中相手にするくらい――」

「――馬鹿言え! 化け物二人を相手になんかできるか。ともかく、アイツは何とか俺が抑えてやるから、冒険者名乗るんだったらテメェ等のケツくれぇテメェで拭いてみせろ」


 テミスの指示に、シズクはコクリと頷いて答えを返すと、待ちかねたと言わんばかりに腰の刀を抜き放って構える。

 同時に、ルードは顔を歪めて肩を竦めると、再びざわめきだす男たちに活を入れ、鋭い視線をテミスへと向けた。


「クク……後が面倒だ。一人も逃すなよ? シズク」

「元よりそのつもりです」

「フッ……。さて、我々の仲だ。今更名乗りをあげる必要もあるまい」

「応よ。嬉しいこと言ってくれるぜ。先輩として胸貸してやるから、存分にかかってきな」


 そんなルードの言葉に、テミスは喉を鳴らして不敵に笑うと、シズクに指示を付け加える。

 そして、視線を戻して朗々と告げたテミスに対して、ルードはクスリと意味深な笑みを浮かべて応えながら、静かに太刀を抜き放ったのだった。

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