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148話 死神の大鎌

「本気で殺す……ね……」


 そう呟くとテミスは、大剣を構えたままライゼルの姿を観察した。

 あの大鎌は、十中八九奴の能力によって創り出されたもの、カズトのように単純な能力なら良いのだが、能力の詳細が分からない以上は慎重に行くべきだろう。


「それに……」


 互いに獲物を構え静かな時間が過ぎていく中、テミスはライゼルの周りを漂い続けるカードへと目を向けた。注意をしなければならないのは鎌だけではない……恐らくだが、あのカード達も同時に攻撃を仕掛けてくるはずだ。


「フッ……」

「…………」


 テミスはそこで思考を断ち切ると、唇を歪めて無表情でテミスを見据えるライゼルを睨み付ける。あれこれ考えた所で、これ以上奴の力が判明する事は無い。このまま睨み合ってフリーディア達の到着を待つのも手だが、それを許すほどコイツも間抜けではないだろう。ならば、後手に回るより先に機先を制するッ!


「ハァッッ!!」


 烈破の気合と共に脚に力を籠め、地面を蹴る。同時に構えた大剣を中段に振りかぶり、体を前に出す形で、テミスは正面からライゼルへと肉薄した。そして構えた剣を振り下ろし、その出方を窺う。


「フン……」


 テミスの一撃が迫る中、ライゼルは下らなさそうに息を吐くと、構えた大鎌を一瞬だけ引いた後、テミスの大剣と打ち合うように繰り出した。


「っ……?」


 2本の刃が次第に近付き、交叉する。テミスはライゼルの動きに一瞬の疑問を感じながらも、来る衝撃に備えて身構えた。あくまでも初めの打ち合いは様子見、テミスは一撃交わした後に離脱し、様子を見ながら戦うつもりだった。


 ――結果として、この判断がテミスの命を救う事になった。


「なっ――!?」


 交叉の刹那。驚愕の息がテミスの喉から漏れる。

 来るはずの衝撃は剣に伝わらず、打ち合うはずの獲物はまるで互いが存在していないかのようにすり抜け合っていた。


「フッ……」

「っ…………!!!!」


 やられた。と。スローモーションのようにライゼルの刃が迫る視界の中で、テミスは歯噛みをした。剣を振り下ろした私に対して、ライゼルは体を軸に回転させた攻撃。これでは、互いの武器が透過したとしても傷を負うのは私だけだ。


「ぐっ……」


 加速した思考の中で、緩やかながらも大鎌の刃はテミスの首元へと迫る。そして、大鎌の凶刃がその首を抱き込む刹那――。


「っくあ――!! ぐぅッ……」


 テミスは無理矢理に攻撃を中断し、全身全霊を駆けて後ろへと跳び退った。

 その成果として、その首を刈り取るはずだった大鎌の刃は胸元を真一文字に切り裂くだけに留まり、テミスは辛うじて致命傷を免れた。


「くはっ……ぐぁっ……」


 跳び下がったテミスが着地し、土煙を上げながらその全力の後退が動きを止める。ライゼルはその姿を心の底から驚いたような顔で眺めると、再び大鎌を構え直してテミスを見据えた。


 切れて……いない?

 ピタリと構えた大鎌の先で、テミスはチラリと自らの胸元を確認すると微かに首を傾げた。

 間違いなく、今私はあの大鎌で切られたはず……今も走るこの激痛がその証拠だ。だがしかし、テミスの身を包む甲冑は切れていなかった。


「面倒な……武器だな……」


 激痛を堪え、額に脂汗を浮かべながら、テミスはライゼルへと語り掛ける。あくまでも笑みは崩さず、驚愕と苦痛を胸の内へとしまい込んで。


「ええ。便利な武器でしょう? まさか、避けられるとは思いませんでしたけど」

「ハッ……安心しろ。しっかりと当たっているさ」

その程度(・・・・)当たっているとは言いませんよ。本当なら、今貴方の首は僕の足元にある筈だった」

「言ってくれる……」


 軽口と共にテミスは大剣を構え直すと、口元を歪めてライゼルを睨み付ける。

 武器も鎧も透過するのであれば、奴の攻撃を受ける事はできない。確実に躱さなければ、こちらの身が削がれ続ける事になる。


「そうのんびりもして居られないので、こちらから行きますよ」

「ハッ……そうだろうな」


 テミスは吐き捨てるように笑うと、大剣を大きく横へと逸らして構え、ライゼルの動きに集中する。

 武器を透過されるのであれば、透過できないタイミングで打ち込んで流れを掴むしかない。その瞬間が来るまでは躱し続け、ただひたすらに隙を待つのみだ。


 次の瞬間。ライゼルが弾けるように前へと飛び出すと、大鎌の柄を槍のように操ってその石突きをテミスへと突き立てる。


「それしかない……だろうなっ!」


 だが、それを予測していたかのようにテミスは体を横に捌くと、突き立てられた石突きを躱す。

 奴の獲物が、大鎌で良かった。繰り出される突きを躱しながら、テミスは密かに息を吐いた。獲物が剣や槍であったならば、既に負けていたかもしれない。

 何故なら巨大な鎌などと言う武器は、実用性に乏しい形状故にその攻め方は限られるからだ。そのリーチを生かして薙ぐか、現在のように石突きを用いて突くか。自ら攻めるのであれば、初動はその二つに限られる。

 前者であれば挙動の大きさからその動きは見きれるし、突きであっても来る事が解っていれば躱す事はできる。あとは……。


「……!」

「甘いッ!」


 嵐のように続く突きが一瞬だけ止んだ刹那。テミスが上体を急激に反らすと、その眼前を風切り音が通り過ぎる。そして、それを確認したテミスの頬がニヤリと吊り上がり、悪魔のような表情を作り出す。

 大鎌を引いた直後、鎌を巻き込むように跳躍する事で下から上へと切り上げる一撃。この攻撃こそが、大鎌という武器の唯一にして最強の攻撃だ。


「終わりだ」


 テミスは宙を舞うライゼルをギラリと睨み付けると、勝利を確信して宣言する。

 この攻撃が大鎌の最強の攻撃たる所以は、攻防一体の動きにある。下から切り上げた刃はそのまま、着地までの瞬間、敵に背中を見せる事になる持ち主を守る盾となる。


 だが、奴の大鎌は互いの武器を透過する。守護されているように見える背中も、その実態は突けば刺さる格好の的だ。


 やはり。楽な仕事だったな。


 テミスは心の中でそう嘯きながら、宙を舞うライゼルの背に向けて大剣を突き立てたのだった。

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