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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1592話 違えし誇り

 荒々しい足音と共に冒険者ギルドへと乗り込んで来た男たちは、抜いてこそはいないものの武器を手に携えながらセレナの居るカウンターを取り囲むように並び立つ。

 立ち振る舞いからして、全員Cランクにも満たない程度の中級~下級の冒険者たちなのだろうが、身に着けている装備は腕に見合わぬほどに上等な品々だった。

 男たちはカウンターの中のセレナを威圧するように並び立って漸くテミス達の存在に気が付いたのか、各々に怪訝な表情を浮かべた後、再びへらへらと下卑た笑みに戻って口を開く。


「おいおい冗談だろ。まだこの町で、俺達以外にギルドを訪ねる奴が居るなんてな。余程世間知らずの新人か?」

「違げぇねぇ。お前らに用は無ぇからとっとと失せな。この町じゃ冒険者が集まるのはここじゃあねぇ。仕事を請けたきゃ双月商会の斡旋受付へ行きな」

「そうそう、これからココで起こる事ァ新人にはちぃっとばかし刺激が強い。参加すんのはも少し後だ」

「馬鹿よく見ろ。こいつ等猫人族に……もう片方はハーフエルフか? まぁ種族なんざどうでもいいが、ともかく女だぜ。参加なんてできるかよ」

「ギャハハハハッ!!! 確かにッ!! むしろ参加してぇってモノズキなら俺達は大歓迎だがよッ!!」

「っ……!」

「…………」


 テミス達と相対する形で並んだ男たちは、物々しい威圧感を醸し出しながら凄んだ後、口々に好き勝手な事を喚きながらゲラゲラと下品な笑い声をあげた。

 しかし、男たちの言動に身構えたまま不快感を滲ませたシズクとは異なり、テミスはただ涼し気な微笑みを浮かべたまま男たちを一瞥しただけで、背負った剣にすら手をかけていなかった。


「馬鹿な事を言っていないでさっさと帰れッ! 目玉の腐った裏切り者共がッ!! 彼女はアンタたちみたいなクズじゃ一生かかっても敵いやしないSランク冒険者だぞッ!!」


 だが、テミスもテミスの表情を窺うシズクも動く前に、二人の背後に居たセレナがけたたましい音と共にカウンターを殴り付けると、乗り込んできた男たちを睨み付けて怒声をあげる。

 荒々しく響いた怒声は、完全にテミス達の戦力を当てにした他力本願なもので。

 テミスは、相手の出方を窺う為に敢えて無表情を貫いていたが、セレナの放った言葉に耐え切れず噴き出すと、額に手を当ててクスクスと笑い声をあげた。


「Sランクだと……? ハッ……ホラ吹くのも大概にしろってんだ。Sランク様がこんな所に来る訳ゃねーだろッ!!」

「その最後まで諦めない姿勢、俺は好きだけどなぁ? でも止めておけよ。何も知らないそいつらを巻き込んじゃ可哀想だぜ?」

「ククッ……ククククッ……!! なるほど? なるほどなるほど。一線なぞとうに越えてはいるが、一応冒険者を気取っているらしい。それにしても……虎の威を借る狐とはよく言ったものだな……」


 テミス達を無視してセレナへと語り掛ける男たちを前に、テミスは抑えきれぬ笑いに肩を震わせながら呟きを漏らすと、ジロリと額に当てた手の隙間から男たちを睨み付ける。

 この場に押し寄せた男たちがこれから働かんとしている蛮行は、当然許されるようなものではない。

 故にテミスとしては、彼等と敵対するのが自然の道理なのだが、セレナに対しては恫喝をしているもののテミス達の身を慮っている男たちと、テミス達を盾に意気揚々と気炎を上げているセレナの姿は、まるで真逆の立場に立っているかのようで。

 そのあまりの滑稽さに、テミスはカウンターの前から動く事なく、ただ笑い続けていた。


「ッ……!! テメェは何笑ってやがるッッ!! 巻き込まれたくなけりゃさっさとそこを退きな! 邪魔なんだよッ!!」

「悪い事は言わねぇから退いときな。この町は特別なんだ。悪いのはぜぇんぶ、いつまでも意地張ってるアイツなんだからさ」


 そんなテミスに、流石に業を煮やしたのか、男たちの内の一人が丸太のように太い腕を振るって怒声を上げると、その傍らに立っていた男が人の良い笑みを浮かべて言葉を添える。

 だが、如何に言葉を並べようとも、既にテミスの胸の内は決まっていて。

 それを察してか、シズクは手を刀に番えたまま、号令を待つかの如く低く身を落としていた。


「ハハッ……! ギルドを棄てた連中だ。ランクなんか脅しにもなるまい。なぁ……?」


 男たちの矛先が自分達へと向いた事を確認したテミスは、ゆっくりと顔を上げて唇を吊り上げた笑みを露にすると、セレナへ確認させた後、カウンターの上に出したままにしていた自らのプレートを掲げて口を開く。

 それは、皆まで言わずともセレナの言葉の正しさを裏付けるものであり、蒼く輝くギルドプレートを目にした男たちの顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。


「ッ……!!! マジかよ……あれ……本物か……?」

「って事は、連れの猫人族も相当高ランクってコトだろ……?」

「どうする? 一斉にかかれば俺達だけでも……だが……」

「…………」


 動揺はざわめきとなって即座に男たちの間に広がっていき、男たちは互いに顔を見合わせながら声を潜めて言葉を交わし始める。

 だが、奇妙な事に男たちの間には緊張こそ漂ってはいるものの、何処か余裕のようなものが感じられて。

 その違和感を感じたテミスは、ゆらりと掲げた手を翻すと、音も無く背負った大剣の柄へと番えた。

 瞬間。


「おいお前等ァッ!!! 今回の件の指揮を執るのは俺だって言っただろうがッ!! なに勝手に先走ってるッ!! まさか…‥もうおっぱじめちまった訳じゃあねぇだろうなッ!!」

「っ……!!」


 ドダダダダッ!! と。

 聞き覚えのある声と共に再びギルドの扉が開くと、大慌てで一人の男がホールの中へと駆け込んできたのだった。

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