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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第25章

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1587話  湧き上がる疑心

 広々とした寝室が二つに、その寝室二つを足しても及ばぬ程大きなリビングが一つ。

 そして、個室専用の風呂に簡易的なキッチン。これが今回テミス達があてがわれた部屋の概要だった。

 一般的な宿屋に泊まる場合、約八畳程度の部屋にベッドが二台並んでいるだけで、簡素な机と椅子が付いていれば大当たりなこの世界の中では、王侯貴族でも宿泊する部屋なのかというほどに跳びぬけて豪華な部屋と言って過言ではないだろう。

 そんな、さながらかつての世界のリゾートホテルが如き室内を改めて見渡しながら、テミスはひとまず剣を背負ったまま手近に見付けたダイニングテーブルへと腰を掛けていた。


「あっ……! テミスさんったら……。荷物くらい置いてから座りませんか?」


 見るからに高級で座り心地の良い椅子は、テミスが腰を掛けた程度ではびくともしなかったが、壁際で外套を脱いで荷物を下ろしたシズクは、壁に設えられていた剣置きに刀を置くべく、自らの腰から鞘ごと刀を抜きながらテミスへと言葉をかける。

 だが。


「シズク。それだけはやめておけ」

「えっ……?」


 チラリと視線を返したテミスが、真面目さを帯びた声色で静止すると、刀を納めかけていたシズクの手がすんでの所でピタリと止まった。


「よく台座を見るんだ。鍵が付いているだろう? そんなモノが付いていては咄嗟の時に刀を抜く事さえできない。……恐らくそれは鑑賞目的の剣を納める為のものだろうさ」

「っ……!! 本当です……。私、ぜんぜん気が付きませんでした……」

「そも、ここは貴人連中が使う部屋らしい。その護衛が武器を手放す訳が無いからな。本来ならば剣を納める為の収納など必要無い筈なんだ」


 そろりと恐ろし気に剣置きから自らの刀を遠ざけると、シズクはまじまじと剣置きを眺めながら自らの腰へと刀を戻す。

 尤も、あくまでもそれは至極好意的な目で見た場合なのだが……。と。

 刀を己が腰に戻したシズクが自らの腰掛けるダイニングテーブルへと歩み寄ってくるのを眺めながら、テミスは胸の内で呟きを漏らした。

 あの剣置きだけではない。

 先だってハクトに連れられてこの部屋を見せられた時、軽く検めただけでもこの部屋はおおよそ安全な宿泊に相応しいとは言い難い。

 これでもかと広く取られた窓には、ゲルベットの街並みが広がっており、高さのある建物が多いこの町では街を一望できるとまでは言わないものの、素晴らしい眺望だと言えるだろう。

 だが見方を変えるのならば、最上階でもあるこの部屋は、屋根の上を介すれば比較的侵入するには易く、外敵からの防御という面では脆弱にも程がある。

 つまるところ、やはり己が身を己で護らねばならないテミス達は、この部屋を使うには分不相応であると言わざるを得ない。


「えぇっと……やはり先程から気になっていたのですが、テミスさん、すごく気を張っていませんか?」

「あぁ。張っているとも。気を緩める事などできる筈もなかろう? 町へ着いた途端に出てきた大商会の主。何処へ行くにも案内と称して付き纏ってくるうえ、拠点となる宿まで決められてしまった。正直、状況は最悪に近い」

「っ……! そんな……ハクトさんたちの好意って事は考えられませんか? 私たちがこの町を目指している事を掴む事ができるほど情報に聡いハクトさんです、闘技大会の一件を知っていても不思議ではありません。なら、歓待するのは不思議な事ではないかと」


 テミスの正面に腰を落ち着けたシズクが、不安気に声を揺らして口火を切ると、テミスは静かに頷きを返してから、理由を論っていく。

 だが、シズクはそれだけでは納得できないらしく、ハクトを擁護する形でテミスへと問いかけた。


「…………」


 そんなシズクに、テミスは静かな瞳を向けると、口元に手を当ててピタリと口を噤んだ。

 テミスとて、ハクトのもてなしがただの好意である可能性を考えなかった訳では無い。

 論った理由にしたってどれも、疑い過ぎであると言われれば断固として否定できる程の確証は無い。

 しかし、どうにも拭いきることの出来ないきな臭さを感じ取っているテミスの直感が、警戒を緩める事を許さなかった。


「……お前の主張はわかった。だが、慎重を期して損は無い。とりあえず数日、様子を見るとしよう」


 今はただの直感であるとしか説明の出来ないこの感覚に、まずは確証を得る必要がある。

 そう判断したテミスは、縋るような視線で訴えかけるシズクに再び頷くと、疑念を固める証拠を集めるべく、答えを保留したのだった。

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