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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1567話 四大融和宣言

 テミスが目を覚ました翌日。

 闘技大会に出場した面々に加えて、ルギウス、ヤタロウ、そしてアリーシャは、広い闘技場の中心に設えられた舞台の壇上に並び立っていた。

 ギルティア曰く、人魔の友好を目的とした大会に出場したテミスたちは勿論の事、ヤタロウと共に貴賓席で観戦をしていたアリーシャも、人魔の融和を望まぬ者達にとって、とてもわかり易い()たる存在の目印となってしまったらしい。

 当初の計画では、それらの声は闘技大会の開催によって高まるであろう融和の気運によって押し流されるはずだったのだが、サージルという乱入者の存在が、良くも悪くも遠い存在であった軍団長やギルティアの存在を手の届く『ヒト』であると認識させたのだ。

 故に。ギルティアの提案によって、魔王軍、ロンヴァルディア、ギルファー、ファントの合意の元、このようなパフォーマンスじみた友好宣言をやる羽目になったのだが……。

 そんなテミスの傍らには、姿勢を正したサキュドと、黒銀騎団に似た衣装の服に身を包んだアリーシャが控えており、その背後をヴァイセが守護している。


「アリーシャ、大丈夫か? 緊張していないか?」


 ギルティアの呼びかけによって集った観衆の視線を一身に浴びながら、テミスは微かに傍らのアリーシャへと身体を傾けると、姉の心身を案じて問いかけた。


「うん。思っていたよりも全然大丈夫。へへ……それよりも、なんか嬉しいな。テミスとこういう事一緒にできるの、はじめてだから」

「っ……! そうだな……私も嬉しいよ」


 テミスの問いにアリーシャはにこやかな笑みを浮かべてそう答えると、物珍し気に観客席から自分達を見下ろす人々を見渡した。

 そんなアリーシャに、テミスは曖昧な笑みを浮かべて言葉を返した後、真一文字に結んだ唇に力を込めて正面へと視線を戻す。

 アリーシャは今、対外的にはテミスの連れて来た黒銀騎団付きの使用人としてこの場に肩を並べている。

 偽らざる正直な思いとしては、テミスは今回の一件にアリーシャを巻き込んでしまったのは不本意極まる所だった。

 確かに、今まではテミスがアリーシャの仕事を手伝う事はあっても、アリーシャが黒銀騎団に関する仕事を手伝う事は一度も無かった。

 それは、黒銀騎団の仕事が一介の宿屋の娘であるアリーシャにとって危険であるが故の事だったのだが……。

 だからこそ、アリーシャと共にこうして並び立っている事は嬉しくはあるけれど、素直に喜ぶ事はできなかった。


「やれやれ……戦争も終わった筈だというのに、随分ときな臭くなってきたものだ」


 複雑な心中を吐露するかの如く、テミスはポツリと呟きを漏らすと、アリーシャに倣って闘技場に集まった人々を見上げる。

 きっとこの中にも、我々に敵意を抱く者が居るのだろう。

 つい先日まで殺し合いをしていたのだ、友人や恋人、家族を喪った者など、融和を受け入れられぬ者が居るのは当然の事。

 だが、そのやり場のない激情の発露は、また新たな怒りや憎しみを生み出すだけの害悪に過ぎない。


「あぁ全く……お前らしいやり方だよ。ギルティア。お前は初めて会った時から何一つ変わらんな」


 ざわざわと思い思いに言葉を交わす群衆を一瞥した後、テミスは同じ舞台の真ん中で悠然と佇むギルティアへと視線を移し、忌々し気に舌を打つ。

 多くの人々の平和と安寧を守るために、耐え難い悲嘆を抱えた者達の思いを切り捨てる。

 それは国を率いるものとしては、きっと正しい選択なのだろう。

 しかし皮肉にも、その誰にも汲み取られる事の無い悲嘆を救わんとする者こそ、彼等が憎しみを抱く人間達の掲げた旗印……フリーディアと白翼騎士団だというのに。

 ギルティアはそれさえも、彼等が抱く怒りや憎しみの象徴として利用している。

 そしておそらくフリーディアもまた、その魂胆を理解して尚、自らを憎み人々を自身の手で掬い上げる為に、今この場に立っているのだろう。


「なら……私は……」


 人魔の間に融和は成れど、未だ平和は程遠い。やるべき事はいくらでもある。

 そう感じながらも、テミスはまるで先の見えない濃霧の中へと放り込まれたかのような感覚に陥ると、胸の奥底から湧き上がってきた言い知れぬ恐怖に固く掌を握り締めた。

 その時……。


「皆、再びこの場に集まってくれたこと、感謝する。先日の闘技大会の折、我等はこの場所で、同じ敵を見据え、肩を並べて戦った――」

「…………」


 コツリと足音を響かせたギルティアが一歩前へと進み出ると、闘技場に集った人々へ向けて演説を始めた。

 この演説は事前に定めた前口上で。これから我々四勢力の名の下に発せられる宣言も、いわば一種のパフォーマンスに過ぎないものだ。

 これでまた一歩、世界が平和へと近付く事に変わりは無い筈……。

 そう理解しているはずなのに、テミスの心の中に広がった靄が晴れる事は無く、テミスはせめてこの想いが漏れ出ぬように唇を真一文字に結ぶと、静かに視線を前方へと向ける。


「――よって我々はここに、新たに紡がれた絆と平和を守らんが為、友好と融和を宣言するものとする」


 そんなテミスの傍らで、ギルティアが堂々とした声で演説を締めくくる宣言を高らかに述べると、会場に集った者達から割れんばかりの歓声と拍手が降り注いだ。

 その熱狂と喝采を浴びながら、テミスはぼんやりと視線を空へと漂わせると、そこでは丁度、どんよりと分厚く重たい雲が、音も無く蒼空蝕み始めていたのだった。

 本日の更新で第二十四章が完結となります。


 この後、数話の幕間を挟んだ後に第二十五章がスタートします。


 魔王ギルティアの呼びかけに応じ、融和記念闘技大会へと赴いたテミス達。

 かつての強敵たちとの再戦を前に様々な思いを抱くテミス達でしたが、そこで待っていたのは予想外の人物との死闘でした。


 戦腕を競い合う激しい激闘の中、戦場から解き放たれた彼等は、その白刃を以て何を語り合ったのでしょうか。


 そして訪れた共闘の時。一同に肩を並べて戦ったこの戦いは、彼女に……そして彼等に何をもたらすのでしょう。


 続きまして、ブックマークをして頂いております793名の方々、そして評価をしていただきました134名の方、ならびにセイギの味方の狂騒曲を読んでくださった皆様、いつも応援してくださりありがとうございます。


 また、頂戴しました感想もとても嬉しく、作品制作の力の源です。重ねて深く御礼申し上げます。


 さて、次章は第二十四章です。

 新たに平和への道を歩み出した世界。


 そこへ魔王軍とギルファーも加わる事で、焦がれ望んだ平和はまた一歩近づいたといえるでしょう。


 ですが、平和の影ににはいまだ動乱の気配が潜んでいるようです。

 長い戦いの末に平和を勝ち取ったテミスたちは、この芽生えた融和の種を芽吹かせる事はできるのでしょうか? それとも、密かに揺れ続ける憎しみの炎に呑まれ、再びこの地に戦渦が訪れてしまうのでしょうか?


 セイギの味方の狂騒曲第25章。是非ご期待ください!



2023/12/20 棗雪

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