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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1563話 同胞の言葉

 テミスが目を覚ましてから二時間後。

 ヴァルミンツヘイムの町に陽が昇り始めた頃。

 今回の闘技大会に出場した者達にアリーシャとヤタロウ、そしてルギウスを含めた面々の前で、一人大量の冷や汗を流していた。

 どうやらテミスが目を覚ましたこの部屋は、意識を失ったテミスの為にギルティアが十三軍団の区画の側に急遽誂えた部屋らしく、フリーディアがテミスが目覚めた事を報せに行ってから、皆が集まるまで大した時間はかからなかった。

 無論。

 フリーディアの計らいにより、今テミスが身を包んでいるのはいつも着ている黒銀騎団の制服なのだが、着替えの折に聞いた話によると、目覚めたときに着せられていたあの寝間着はフリーディアのものだったらしい。

 曰く。緊急時とは言っても、代用が効く物を探すために他人の持ち物に無断で漁るべきではない。と言っていた。

 その辺りの倫理観がキッチリとしている所を見ると、やはりフリーディアは育ちの良い王女なのだとしみじみと思う。


「っ……」


 尤も。

 そんな、心優しくて生真面目なフリーディアであっても、友人知人から一身に安堵と怒りの混じった視線を向けられている現状を救う気は無いらしく、傍らで黙したまま酷く気まずい沈黙に包まれているこの状況を傍観している。


「……テミス。まずはお早うと言うべきか?」

「っ……いや――」

「――お早う。随分と長い眠りだったようだな」

「お……お早う。ギルティア。私としては、まだそんなに時間が経っているという感覚は無いのだが……」

「…………」


 まず、全員を代表するかのように、厳かな声で沈黙を破ったのはギルティアだった。

 ギルティアはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、口ごもるテミスの言葉を遮って喋り続けると、肩を縮こまらせて応えたテミスにピタリと動きを止める。


「……術式(・・)は成功していた。身体の状態に異常は無かった。故に、私はそこまで心配していた訳では無いがな」

「ギルティア……」

「フッ……一度は倒れたお前を癒し、再び戦いへと赴かせたのは私だ。少なくともこの場で私には、お前を非難する資格はあるまい」


 だが、ギルティアはすぐに意地悪く歪めていた笑みを柔らかな微笑みへと変えると、その視線でチラリとアリーシャを指しながら言葉を続けた。

 限りなく婉曲な表現を用いて告げられたギルティアの言葉は柔らかく、また魔王軍の長たるギルティアが自らにも責があると明言した事で、テミスへと注がれる視線の圧力が僅かに和らいだ。


「目覚めて何よりだ。盟友よ。さて……私からお前へ告げられる事はこの程度な訳だが。皆、酷く心配していたのだ。今後の詳しい話を始める前に、存分に禊を受けて来い。私は……そうだな、ここでそれを眺めているとしよう」

「っ……!」


 その事実を知ってか知らずか、ギルティアは悠然と言葉を続けると、ゆっくりとした足取りで部屋の片隅で様子を眺めていたフリーディアの隣へと並び立つ。

 突如、魔王であるギルティアと肩を並べて立つ事になったフリーディアが驚きに眉を跳ねさせるが、テミスにはその一種の歴史的な瞬間とも言える光景を気にかけている余裕はなく、コツリと足音を一つ立てて眼前に立ったリョースとドロシーを前にゴクリと生唾を呑み込んでいた。

 ドロシーは装いこそ普段と変わらなかったが、彼女の傍らに立つリョースは衣服に包まれてはいるものの、端々から身体に巻いた包帯が覗いている。


「浅薄……と責めはすまい。私もお前と同じ立場であれば、一刀の下に斬り捨てる事を選ぶだろう」

「随分と無理をさせたようだな。すまない」

「っ……!!」

「アタシは責めるわよ? アンタを治すの、どれだけ大変だったか解っているの? だってのに、まだお礼の一つも聞いていないんですけど?」

「悪かったよ。魔法に疎い私でも想像くらいはつくさ。ありがとう」

「っ~~~~!!」

「……?」


 口々に言葉をかけるリョースとドロシーに、テミスはフリーディアの助言通り、努めてしおらしい態度で言葉を返したのだが、リョースは何故か衝撃を受けたかのように目を細め、ドロシーは背筋に悪寒でも走ったかのように肩を竦めた。

 そこで一度会話は途切れ、静寂が訪れたのだが。

 テミスには、何故二人が揃って悲痛な表情を浮かべているのか理解できず、密かに小首を傾げて次なる言葉を待っていた。


「わ、悪いと思うのなら、こんどアタシの所に魔法を習いに来なさい!! アンタには諸々の借りがあるからね。悲鳴をあげるまでみっちりとしごいてやるんだから」

「……十分、養生する事だ。私も、恐れを飼い馴らす術ならば教えてやれる」


 だが。

 そんなテミスへ、ドロシーは捨て台詞を吐くかのように、リョースは何かを堪えるように静かな声色で言葉を残すと、揃ってギルティアたちの並び立つ部屋の片隅の方へ離れていったのだった。

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