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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1559話 血に濡れ憎悪に塗れて

 一進一退の拮抗を見せていた戦いも、テミスが反撃を加えてからは一気に終わりの様相を醸し出していた。

 血の飛沫をまき散らしながら、凄まじい速度を以て振るわれるサージルの剣は、地面すらも深々と切り裂くほどの威力を誇っている。

 しかし、相対するテミスは退きながらもサージルの放つ斬撃をいなし、躱しており、返す太刀は悉くサージルを傷付けた。

 だが、圧倒的な優勢を誇っているにも関わらず、テミスはサージルに手傷を負わせるに留め、決して止めの一撃を加えようとはしなかった。


「クッ……! が……ぁッ……!!」

「ハッ……ハッ……!!」


 ザンッ……と。

 テミスは身体ごと振り回すようにして放たれたサージルの斬撃を躱して新たに一太刀を加えたが、切り裂いたのは急所となる首や心臓ではなく、腹を裂いたに留まっている。


「……リョース……殿……。アレは……」

「わからん。ヤツが受けた仕打ちを考えれば、嬲っているとしてもおかしな話ではない……が」


 リョースはズルリ、ズルリと身体を引き摺って這い寄ってきたコハクの問いに、低く喉を鳴らしながら言葉を返した。

 個人的な恨みで無駄に戦いを引き延ばすような性格では無いはずだが……。

 胸の中で密かにそう呟きながら、リョースはコハクと共に止めを刺すことの出来る隙を見逃し続けるテミスの戦いを見守り続ける。


「クソッ……! クソッ……!! 畜生ッ……!! なんでだッ!! どうしてこんなッ……!!」

「…………」


 けたたましい声で喚き散らしながら、サージルはフラフラと覚束ない足取りでテミスへと大振りな斬撃を繰り出した。

 しかし、最早無傷だった時の迅さも鋭さも無い、力だけの剣でテミスを捉える事などできる筈もなく。

 空を裂いたサージルの剣は、ヂャリッ……! ギャリッ……! と、嫌な音を奏でて地面を浅く裂くに留まる。

 一方で、テミスは息も絶え絶えといった様子のサージルを冷ややかに見据え、切り捨てるに易い巨大な隙を前にしても、静かに細剣を構え直しただけだった。


「やれやれ……他人を見下し馬鹿にする癖に。自分は大した根性も無い。……見下げ果てた屑だな」

「ハハッ……! 何……偉そうな事垂れてんだよ……!! 俺は……女神様に選ばれたんだッ!! 女神様の寵愛を理解すらできねぇクズの癖に……俺を見下してんじゃねぇッ!!」

「なら、お得意の女神様に縋ってみたらどうだ? 大切な使徒たるサージルが殺されてしまいそうです! 助けて下さい……とな。祈る時間くらいならば待ってやろうか?」

「ッ~~~~!!!! ガッ……あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ……!!!」


 互いに踏み込めば斬り合うことの出来る程度の距離を保ってサージルと向き合ったテミスは、細剣を構えたまま肩を竦め、皮肉気な笑みと共に口を開く。

 そんなテミスの言葉に、息を荒げたサージルは嘲笑を浮かべながら言葉を返すが、怒りを堪え切れなかったかのように声を荒げた。

 その剥き出しで向けられた怒りの感情はテミスにとって、据え膳とも言うべき心の隙で。

 テミスは皮肉気に吊り上げていた口角をさらに歪め、ニンマリと悪魔のような笑みを浮かべて言葉を重ねた。

 信奉する女神を蔑み、女神の使徒たるサージルの誇りを凌辱する。

 明確な悪意を以て放たれたテミスの挑発に、サージルは怒りを迸らせて獣のような咆哮を上げると、無傷であった時と変わらない速度と鋭さでテミスへと飛び掛かった。


「っ……!!!」

「死ねッ!! 死ねッ……!! 死ねぇッッ!!」


 だが。

 テミスは、サージルの呪詛の如く吐き出される怒りの言葉と共に振り下ろされた剣を、躱す事無く真正面から受け止め、その圧倒的な膂力を受けて大きく圧し返される。

 それでも尚、テミスが一歩たりとも退く事は無く、次々とがむしゃらに繰り出されるサージルの乱撃を悉く弾き落とした。


「……そろそろ、頃合いか」


 ガギンッ! と一撃を弾くと同時に、テミスはサージルの血が自らの頬に跳ねたのを一瞥すると、ボソリと呟きを漏らして細剣の切っ先を地面へと向ける。

 その格好はさながら、ギルファーの剣士たちが刀を以て放つ神速の剣技である、居合術のようで。

 リョースと共に戦いを見守っていたコハクが小さく息を呑んだ眼前で、テミスの細剣は華麗に弧を描いてサージルの脇腹を捕らえると、流れるように交叉して動きを止める。


「がばッ……!!? ゲボッ……!! ゴボッ……!!」

「…………」


 まるで、時を切り取ったかのような刹那の静寂の後。

 テミスはクルリと長い銀髪をなびかせてクルリと身を翻すと、吐血を伴って激しく咳き込みながら倒れ込むサージルへと冷淡な視線を向ける。

 そして、携えた細剣でピウンと甲高い音を奏でて宙を薙いで血払いを終えると、軽い金属音を響かせて鞘へと納めたのだった。

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