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144話 紫電纏いし光槍

「行くぞフリーディアッ!! しっかりと付いて来いッ!」


 朝靄が立ち込める空気を切り裂いて、テミスの咆哮が響き渡った。その傍らには、既に抜刀した剣を携えたフリーディアが随伴している。


「相も変わらず……無茶な作戦を立てるわね……貴女は仮にも軍団長なのよ?」


 その咆哮を受けたフリーディアは、半ば呆れたような顔でため息を吐くと、苦笑いと共に傍らを駆けるテミスの方へ顔を向けた。


「軍団長であるかなど些末な事だ。適材適所……これ以上の配置はあるまい?」

「まぁ……それを言われると反論できないけれど……」


 フリーディアはその形の良い眉をハの字に曲げて再びため息を吐くと、平原の向こうに蠢く大軍を見据えて表情を変える。しかし、彼女たちが駆ける周囲に兵の姿は無く、たった二人で雲霞の如く押し寄せる軍勢へ正面から突撃していた。


「良いか? はじめが肝心だ。まず、私とお前で敵の戦線を真っ二つに割ってやらねば何も始まらない」

「解ってるわよ……嫌と言う程確認もしました」

「よろしい……では、派手に行くぞッ!!」


 テミスはそう言って凶悪な笑みを浮かべると、背負っていた大剣を担ぐように構えて速度を上げた。

 今回の作戦は、作戦などと呼べるようなものではない。奇襲で敵を左右に分断し、左翼に展開した部隊がこれを撃破。その後、右翼側の兵が退かないのであれば合流しこれを叩く寸法だ。


「……まぁ、上手く行くかは五分と言った所か」


 テミスは後ろを駆けるフリーディアには聞こえぬように呟くと、何やら叫び声を上げている前方の集団を睨み付けた。初動は、まず間違いなく上手く行くだろう。しかしその後の連中の動きによっては、フリーディア単騎では敵陣を割るのが難しい可能性がある。


「半分……いや、三分の一か……そこまで行ければッ……!」


 歯噛みと共にそう呟くと、テミスはギラリと眼光を光らせ、担いでいた大剣を大きく後ろへと振りかぶった。


「仕掛けるぞッ!!」

「ッ……了解ッ!」


 テミスは体を捻った体制のままフリーディアに告げ、能力を発動させる。狙うのは目の前に広がる巨大な軍勢。ならば、ただひたすらに貫き通す類の技が良いだろう。


「唸れ。光の槍よ……其は万物を射抜く無謬の神槍なり。纏うは雷。雷鳴穿ちてその名を刻めッ!!」


 詠唱と同時に黒い大剣は白く輝いて形を変え、紫電を纏った巨大な突撃槍(ランス)を模った。


 ――ロンゴミニアド。


 確か、この雷の槍の名はそんな名前だったはずだ。詳しい事は何も覚えていないが、迫り来る大軍を、雷の翼を生やした槍で単騎突破するシーンだけは妙に脳裏に残っている。


「ォ……オオォォッ!!!」


 テミスが唸り、槍が纏う紫電がそれに呼応するように弾けると、雷が飛龍の翼のような形を模った。


「刺し……穿てエェェェッッッッ!!!」


 一際大きな烈破の咆哮と共に、紫電の轟音と共に土煙を上げて足を止めたテミスが、渾身の力を込めて光の槍を突き出した。


「テミ――ッ!?」


 一見。何の意味もない目の前の虚空を突いたような動き。テミスの数歩後ろでその姿を見守っていたフリーディアが不審そうに声を上げた刹那。

 バリバリィッ! と。天が裂けるような轟音と共に、直視できない程に強烈な白光がテミスの槍から射出された。

 その光は微かな雷電を周囲に放ちながら地面を抉り。巨大な光の奔流となって相対する軍勢へと襲い掛かる。


「ッ……ッフゥゥゥゥゥゥ……少々。やり過ぎたか?」


 目の前の軍勢から悲鳴が飛び交う中。テミスは長く息を吐きながら元の姿へと戻った黒の大剣を担いで姿勢を正す。そして、静かに呟いて前を見据えるとそこには、テミスの一撃により両断された部隊が、いまだにその余波で右往左往している姿があった。


「……やり過ぎよ。私が居る意味が無いじゃない」


 テミスの呟きに、フリーディアは僅かに唇を尖らせて不満を漏らした。これでは本当に、私がここに居る意味はない。私達の作戦目標をほぼ達したと言うのに、した事と言えばテミスの側を駆けていただけだ。


「っ……! いや……」


 しかし。同じ景色をその目に映しながらも、テミスが抱いていたのは戦慄だった。

 何故、向こうの景色が見えない? 正面の連中はともかくとして、何故、一般兵が右往左往している? 本来であれば、人垣など綺麗に分かれ逆側の風景が見えても不思議では無い筈だ。そして、眼前の光景を凝視していたテミスの視界を、白く輝く何かが横切って行った。


「止めた……と……言うのかっ!?」


 刹那。テミスの背中に凄まじい悪寒が走り抜けた。反射的に体が動き、一度収めかけた大剣を体の前で構え直す。


「どう言うっ……事ッ!?」

「喜べ、フリーディア……お前の出番も、残っているようだぞ?」


 そうフリーディアに告げると、テミスは剣を構えたまま、ゆっくりと軍勢の方へと進み始める。

 それと同時に、テミスが穿った人間の道の向こう側から、微笑を浮かべた金髪の少年が姿を現したのだった。

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