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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1552話 背合わせの交響曲

 突き込んだ剣から伝わってきたのは、まるで固い砂の山でも貫いたかのような奇妙な手応えだった。

 微かに火花を散らす甲冑は貫けないほど固く、しかしその中身は肉が詰まっている訳でもない。

 つまるところ、この闇を固めて作ったような化け物共は皆、見てくれ通りの怪物だという訳だ。


「テ……ミス……。本当に……本当に貴女……なの……? 生きている……? 身体は……傷は大丈夫なの……?」


 そんな事を考えながら、テミスが塵と化した化け物の身体を斬り払い、携えた細剣で宙を薙いだ時だった。

 フラフラと傍らに歩み寄ったフリーディアが震える声で口を開くと、その大きな瞳一杯に涙を溜めてテミスの肩を抱く。


「……心配をかけたな。悪かった。だが、見ての通り無事だ。尤も、全快という訳では無いが」

「珍しい武器を使っているものね。それに鎧も……」

「あぁ。今の私では月光斬を撃つ事もままならんだろう。いつもの大剣を持ち上げる事も出来なかった」

「っ……!! そんな状態で……何でッ!?」

「お前達が戦っているんだ。私一人寝ている訳にはいくまい。それに……」

「ッ……!!」


 ザンッ……!! と。

 テミスは歓喜と不安の混じった声色を漏らすフリーディアを抱き寄せると、そのまま斬りかかってきた異形の甲冑を模った化け物を一刀の下に斬り捨てる。

 その甲冑は非常に固く、不完全な体勢で斬撃を繰り出したテミスの手にはビリビリと痺れるような感覚が残ったが、しなやかな細剣は甲冑の僅かな隙間を正確に切り裂いた。


「……万全でなくとも戦える。この通りな」

「テミ……ス……?」


 そう言って微笑んだテミスの笑顔には、いつも浮かべているあの皮肉気な笑顔は無く、穏やかで柔らかな優しさに満ち溢れていた。

 本来ならば、そのあまりの変貌っぷりに強烈な違和感を抱いて然るべきなのだが、間近でその鼓動を感じるフリーディアの心は、何故か胸が沸き立つような歓喜に包まれていて。

 フリーディアはその感情を、テミスが生きていたことに対する喜びだと認識すると、感動のあまりに零れそうになる涙を拭ってから、その隣に肩を揃えて並び立つ。


「貴女が居るのなら、何とかなるかもって思えてきたわ。叩くべきはあの魔法陣よ。今も化け物たちを吐き出し続けているの」

「了解だ。私とお前で突貫するぞ」

「えぇ……!! ……って、えぇっ!? でもそれじゃああの二人が……!?」

「ククッ……。仮にも魔王と軍団長の肩書を持つ女だ。こいつらごとき数体通した所で、簡単にやられたりはしまいよ」


 戦況を手短に伝えたフリーディアに、テミスはヒャゥンと音を立てて細剣で空中を薙ぐと、示された魔法陣へ向けてゆっくりと歩き始める。

 無論。そこまでの間には、サージルの召喚した化け物たちが、テミス達を屠るべくその禍々しい得物をぎらつかせている。

 しかし、テミスはフリーディアの懸念をクスリと一笑に伏すと、足を止める事無く迫り来る異形の化け物の群れへと斬り込み、鋭く振るった細剣の一太刀を以て塵へと変えた。


「全て倒して進めば問題無い。私たちならできる。そうだろう?」


 一太刀を斬り込んだ格好から、テミスはそのまま更に手首を返して二撃目を放つと、異形の甲冑の片腕を切り落とす。

 その淀みの無い動きは、いつものテミスが振るう力任せの剣ではなく、相手の弱点を的確に、そして鋭く穿ち抜く細やかさが輝いていた。

 だが、その剣閃は大軍を切り崩すには些か力不足で。

 片腕を失った甲冑が、残った片腕を振りかざしてテミスへ斬りかかるのと同時に、背後からは大剣を携えた女騎士型の化け物が飛び込んでいく。

 しかし。


「ふッ……!! まったく……相も変わらず貴女は無茶ばかりするんだから……。でも……そうね。貴女の背中は私が護ってみせるッ!!」


 フリーディアは間髪入れずに飛び込んで剣を振るうと、テミスの背を狙って振り下ろされた大剣へ剣を打ち付けて弾き、凛とした笑顔を浮かべて応えてみせた。

 直後。

 その背後で異形の化け物を斬り倒したテミスが、フリーディアの傍らをすり抜けて飛び出し、大剣を弾かれて体勢を崩した女騎士型の化け物の隙を逃す事無く胸元を突き穿つ。

 二人の一糸乱れぬ連携は、戦場の只中に在りながら、舞を思わせるような美しさすら兼ね備えていた。


「クス……そう来なくては。遅れるなよ? フリーディアッ!」

「勿論よッ! テミスこそ、私に置いて行かれないように気張りなさいッ!!」


 そんな二人は、一呼吸の内に背中合わせの格好でそれぞれに剣を構え直すと、視線だけを絡めて不敵に微笑み合った後、猛々しく言葉を交わしながら敵の群れの中へと突撃していったのだった。

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