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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1539話 重なる間合い

 サキュドを筆頭に肩を並べて戦闘態勢に入ったリョース達は、空を仰いで高笑いを続けるサージルを前に、より一層その警戒を強めていた。

 軍団長として名を轟かせるリョースは元より、この場に集った面々は誰もが一騎当千の強者だ。

 無論、彼等とて驕りこそ廃せど己が力への自負は抱いているもの。そんな猛者たちがこうして肩を並べているというのに、欠片ほども動じていないサージルの異様な態度は、リョース達を警戒させるには十分過ぎるものだった。


「全員、迂闊な攻撃を仕掛けるなよ。これはギルティア様からの命でもある」

「フン……関係無い」

「えぇ。アタシの主はテミス様。リョース軍団長……幾らアナタの主でも、命令される謂れは無いわよ」

「然り。我等とて故国に刀を捧げた身。しかし……彼女の傷は……」


 リョースがサージルの様子を窺いながら、低く喉を鳴らすように口を開くが、肩を並べた面々はそれぞれに不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。

 けれど、その言葉とは裏腹にサージルへの警戒を怠る者は居らず、全員が互いの動向にすら気を配っていた。


「ウム。テミスはただ斬られた訳では無い。事実、鎧には刀傷一つ刻まれてはいなかった」

「身体だけを切り裂く術……。面妖な。呪術の類だろうか……?」

「…………」


 奇妙に張り詰めた緊張が漂う中。考え込むような素振りと共に言葉を漏らしたコハクに、リョースは静かに頷きを返しながら、自らが目にした事実を一同に伝える。

 しかし、それがサージルの力の源泉たる異能であると察する事ができたのは、同じ転生者の一人であるレオンだけで。

 けれどレオンにはそれを語り聞かせる事などできる筈もなく。思慮を巡らせるコハクの呟きと、リョースの唸り声が重なった時だった。


「さぁ……? 詳しいコトなんて判らないけれど……いつまでもこうして立って埒が明かないわッ!!」

「……!! 待てッ!!」

「嫌よ!! 付き合い切れないわ。いつまで頭捻っているつもりッ!? そうやって考え込んでいるより……斬り込んでやった方がよっぽど色々とわかるわよッ!!!」


 クスリと薄い笑みを浮かべたサキュドがおもむろに数歩前へと進み出ると、携えた紅槍を構えてサージルへ向けて駆け出した。

 その直前。

 サキュドの動きに気が付いたリョースが制止の声を上げるも、サキュドがそれを聞き入れる訳も無く、力強い言葉と共に紅の魔力の残滓をまき散らしながら、一直線にサージルへ向けて突貫していく。

 紅の流星。

 サキュドの一撃はまさに、そう揶揄するに相応しい鋭い突撃だった。

 しかし、サージルへと近付くにつれ突撃の鋭さは鈍り、サキュドはそのままフラフラと数度左右によろめいた後、バサリと開いた翼をはためかせてリョース達の元まで飛び退る。


「っ……! どうした……!?」

「チッ……忘れてたわ。忌々しい。ッ……。久々に喰らったけど酷い気分。あいつに近付いては駄目よ」

「ッ……! まさか……!」

「えぇ……。魔法か呪いか知らないけれど、アイツには近付くだけで吐き気や眩暈がするのよ。……例えじゃないわよ? あんな状態じゃマトモに斬り合ってらんないっての」

「お前の言葉を疑う訳では無い。……が、先程テミスは奴と切り結んでいた筈」

「だったら!! アンタ達も試してみたら? アイツ、アタシが近付いても見向きもしなかったしッ!!」


 何かを堪えるかのように顔を顰めたサキュドが着地するのと同時に、サージルを睨み付けていたコハクが言葉少なに問いかけた。

 その問いに、サキュドはフラリとよろめくようにして立ち上がると、怒りをぶつけるかのように荒々しく吐き捨てる。


「フム……では……」

「試すとしよう」

「ですね……。シズク、ヤヤ様。二人はこの場で待機を」


 そんなサキュドの投げやりな言葉に、リョースとコハクは一瞬だけ視線を交えて互いに頷き合うと、静かな言葉を残してゆっくりと前進を始めた。

 一歩。また一歩と。肩を並べて進むリョースとコハクの足取りは軽く、その背は一種の安心感さえも覚えてしまいそうな程、悠然としていた。

 しかし彼等の歩みは、サキュドが飛び退がった地点よりもかなり前で止まる。


「なるほど……。範囲はおおよそ十五間ほど……」

「ウム。吐き気や眩暈だけではないな。身体の動きも鈍い。だが……」

「えぇ。酷い二日酔いのようなもの。気力でねじ伏せれば戦えないほどでは無い」


 足を止めたリョースとコハクは、そのまま短く言葉を交わしながら、己の身体の状態を確かめるかの如く、腕を回したり手を握り締めたりと軽く体を動かした。

 そして、二人は自らの身を襲う不調を一笑に伏した後、再びサージルへ向けて悠然と歩み始めたのだった。

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