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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1533話 狂乱の勇者

 アハハハハハハハハ。ギャハハハハハハハ。と。

 砂を食んだかのように不快で耳障りな笑い声が、闘技場の中に響き渡る。

 観客席を守護する防壁は粉々に砕け、カシャリカシャリと淡い音を奏でながら、燐光と共に崩れていった。


「こんな所でなぁにやってんだよ? テーミースゥッ……!!!」


 そんな中。防壁に穿たれた大穴から一人の男が闘技場へと降り立つと、蒼炎に包まれたテミスへと歩み寄りながら、怨嗟に塗れた声色で叫びをあげる。


「駄目じゃないか。お前は僕が殺すんだ。使いを遣っただろ? 遊びに行くってさ。だっていうのにッ……!!!」

「何者だ……? 貴様――」

「――あぁ! うるさいうるさいッ!! 外野は黙っていてくれないかなッ!! 僕はこの女を殺せればそれで良いんだ!!! なぁテミス……まさかまだ死んじゃいないよね? 自分の技で殺されるのはどんな気分だい? 蒼炎弓ヴァンドラ……だっけ? 再現するのに苦労したんだよ」


 男は、未だテミスを内側に閉じ込めたまま轟々と燃え盛る、蒼い火柱の傍らで足を止めると、舌なめずりをしながら言葉を紡いだ。

 途中、ゆっくりと長剣を構え直したギルティアが静かに問いかけるが、男はその問いが皆まで発せられる前に荒々しく怒鳴り付けると、再び火柱の中のテミスへと視線を戻してねっとりと語り続けた。


「結局、女神様から賜わった新しい力でも再現しきれなくてね、近くの町から技術者を何人も攫わせて何とか魔道具の形にしたまでは良かったんだけど……見てよ。たった一発撃っただけで壊れちゃった。ほんっとこの世界の連中は無能ばかりで嫌になるッ!!」


 そう語りながら、男は炎柱へ向けて溶けて拉げた金属の残骸のようなものを見せ付けるように掲げると、まるでゴミを捨てるかの如くその場で手放して踏み砕く。

 すると、恐らくは魔道具であったであろうその残骸は、金属にあるまじき脆さでぐしゃりと潰れ、砂粒と化して闘技場の地面と同化した。


「そんな……サージル……あなたが……どうしてっ……?」

「女神……! フリーディア。この男を知っているのか?」

「っ……! えぇ……! 彼は以前、アストライア聖国なる国を造った元冒険者将校よ。でもあの時……確かにテミスが倒したはずッ……!!」


 その傍らで、乱入者の様子を窺っていたギルティアは、フリーディアの呟きに耳を止めて問いかける。

 その言葉に頷いたフリーディアは、拭いきれぬ恐怖の残滓に抗うかの如く震える足で立ち上がると、サージルを見据えながら答えを返した。

 直後……。


「あれ……? アレアレェ……? アナタはフリーディアさんじゃあないですか! まだ生きておられたんですねぇ……? 甘っちょろいアナタの事だ……てっきりとうの昔に殺されているかと思いましたが……。ンン……? でも、ここに居るってコトはもしや、魔王軍に捕まっちゃったとか……?」

「っ……!! 貴方……」

「なぁ~んつっ……てぇッ!! 知っていますよ! アナタがこの女の傘下に下った事も、今はファントの町でのうのうと過ごしている事もねェッ!! でも……そんな事はどうでもいい。アナタに興味は無いんです。そこで黙ってテミスが死ぬのを見ていろ」


 ぐるりと奇妙な動きで上体を傾がせたサージルがフリーディアへと視線を向けると、おどけた口調で一方的に問いを重ねる。

 だが、そのあまりにも現実から乖離した問いかけに、フリーディアが憐れむように目を細めて口を開きかけると、サージルは一転して声を張り上げ、口角を飛ばしながら怒鳴りつけた。


「さてと……そろそろ燃え尽きる頃だと思うん――ッ!!」


 そして、フリーディアを怒鳴りつけたサージルが、満足気に小さく息を吐きながらテミスを包み込んだ炎柱へと視線を戻した時だった。

 バシュゥッ……!! と。

 轟々と燃え盛っていた蒼い炎が音を立てて弾け飛び、中から大剣を地面に突き立てて盾のように構えていたテミスが姿を現す。

 無論。その身体には炎で灼かれたような傷痕は一つたりとも無く、不敵な笑みを携えてゆらりと立ち上がった。


「なッ……! な……ッ!! 何で炎がッ……!!?」

「ハァ……居るんだよなぁ……こういうヤツ……。他人がせっかく楽しくやってるってのに、得意気に横から出張ってきて台無しにする大馬鹿が。すまんな、ギルティア。どうやら私の客のようだ。お前が出張る程の男ではない」

「フム……?」

「それよりもお前はお前の民を……観客たちを護るべきではないか? 魔王様なのだろう?」


 しかし、テミスが愕然と言葉を詰まらせるサーシルの問いに答える事は無く、テミスは深いため息と共に愚痴を零しながら、いつの間にか再び罪禍の剣をその手に携えていたギルティアを制した。


「フッ……。お前がそう言うのならば良かろう。興覚めも甚だしい所ではあるがな……」


 そんなテミスに、ギルティアはクスリと微笑みを向けた後、携えていた罪禍の剣を再び虚空へと仕舞いこむと、大きく一歩退いて空を……否、混乱する観客席を仰いだ。

 そして、そのままギルティアが砕けて崩れていく障壁へ向けて空になった掌を翳すと、パキパキと微かな音を奏でながら、崩れゆく障壁の内側に新たな障壁が展開されたのだった。

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