1523話 飾らぬ想いを
「テミスッ!!!」
決着を迎えたその時に割り込んだのは、一筋の閃光だった。
叫びと共に駆けこんだ黄金色を纏った人影は、地面に腰を下ろしたテミスの腹へ痛烈な蹴りを叩き込んで蹴り飛ばすと、その勢いを殺す事無く自らも跳び退って飛来する魔法を躱す。
直後。
つい先ほどまで居た場所を轟音と共に爆炎が包み込み、舞い上がった土煙が壁のように両者を隔てた。
「ガハッ……!! ゲホッ……コハッ……ッ……!!!」
「テミス! 無事ッ!?」
「ゴホッ……!! ぶ……無事な……ものか……ッ!! 他人の腹を思いっ切り蹴り上げやがって……ッ!!」
「あの魔法の直撃を受けるよりはマシでしょうッ!? ホラ、さっさと立つッ! 構えなさい!!」
突如駆け付けたフリーディアによって窮地を脱したテミスは、地面に両の手を付いて激しく咳き込みながらも、辛うじて悪態と共に言葉を返した。
そんなテミスにフリーディアは凛と一喝すると、自らも携えた剣を土煙の方へと構える。
「コフッ……! ったく……無茶を言う奴だ……。だが……あぁ……正論だ。助けられたな……感謝する。フリーディア」
「っ……!!! 驚いたわ……。他でもない貴女が、私へ素直にお礼を言う時が来るなんて……。相当苦戦していたのね」
「嫌味な奴め。チッ……。あぁ! 苦戦していたともッ!! 流石は魔王を名乗る男だ。私一人では凌ぐのが精一杯でどうにもならん!」
「ふぅん……そうなの。大変だったのね? ところでテミス? 一応、私たちはいま敵同士なのだけれど……。私は弱っている貴女から叩くべきかしら?」
だが、張り詰めた緊張感が漂う中でも、テミスはクスリと微笑みを浮かべながら立ち上がった。
その瞬間。フリーディアは大きく目を見開いてテミスへと顔を向けると、思わずといった調子で言葉を零す。
そして、半ばやけくそに叫ぶテミスへニンマリと意地の悪い微笑みを浮かべながら、小首を傾げて問いを重ねた。
「……お前が本当にそうしたいのならば好きにしろ。だが私としては、お前が手を貸してくれると非常に助かるのだがな」
フリーディアの悪戯っぽい問いに、テミスは冷めた目を向けて答えを返す。
確かに、いくらギルティアが途方もない強敵だからといっても、ロンヴァルディアを代表するフリーディアとファントを代表する私が敵同士であることに変わりはない。
故に、たとえ諸共ギルティアに薙ぎ払われるとしても、私へ剣を向けるか否かを決めるのはフリーディアだ。
先に倒すべきはファント……そうフリーディアが判断したならば仕方が無い。
テミスはそう胸の中でため息を漏らしたのだが……。
「あッ……! もう……!! すぐそうやって拗ねるんだから!! せっかく素直になったんだから、一度くらい手を貸してくれって言いなさいよ……」
どうやらこの答えはフリーディアが求めていたものとは違ったらしく、フリーディアは酷く不満気に唇を尖らせると、何処か寂しさを感じさせる声色で言葉を続けた。
その言葉にテミスはふと眉を吊り上げると、胸の内の気恥ずかしさを誤魔化すかのように小さく頬を掻く。
思えば、幾度となくフリーディアとは肩を並べて戦ってきたが、面と向かって助けを求めた事は無かった気がする。
それもフリーディアの気質ゆえ、こちらが助けを求める前に一も二も無く勝手に助けに来る所為でもあると思うのだが……。
「っ……! ハァ~……。わかった。私一人ではギルティアに太刀打ちできん。助けてくれフリーディア」
「……!!! っ…………。ふふっ……!! わかったわ。背中は任せなさい! 力を合わせるわよ!」
そうテミスは一抹の反論を胸の内でひとりごちると、深いため息を一つ吐いてから、真っ直ぐにフリーディアの目を見据えて口を開いた。
すると、フリーディアはまたもや呆気にとられたかのような表情を浮かべた後、とても嬉しそうな笑みを浮かべて力強く微笑み、猛々しく叫びをあげる。
「やれやれ……全く……」
そんなフリーディアに、テミスは溜息まじりの呟きを漏らすと、何処か頼もしささえ覚えながら笑みを零し、肩を並べて大剣を構えた。
これでこちらの手数は二倍。流石のギルティアといえど、私たち二人の力を以てかかれば、ああも悠然と相対する事はできないはずだ。
「行くぞフリーディア。相手は魔王だ。一瞬たりとも気を抜けばやられるぞ!!」
「えぇッ!! 油断はしない。最初から全力で行くわッ!!」
言葉と共に、テミスが大剣を振るって剣圧で土煙を晴らすと、フリーディアはその言葉に応えながら、テミスの切り裂いた土煙の間を貫くように前へと飛び出したのだった。




