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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1521話 未来に捧ぐ忠剣

「……確かに」


 ゆらり。と。

 剣を構えたまま身体を傾がせながら、カルヴァスが静かに口を開く。

 その口元には、隔絶した強さを持つ相手と相対している者には、およそ似つかわしくない不敵な笑みが浮かべられていて。

 そんなカルヴァスが放つ不穏な凄味(・・)に、リョースは無意識に生唾を呑み下すと、カルヴァスの言葉を待った。


「確かに、私は強くない。貴方がたの王と戦うテミス殿や、彼女と並び立つフリーディア様の足元にも及ばないのだろう。そしてきっと……軍団長を務める貴方から見れば、私など払えば潰れる虫けらに等しい存在なのかもしれない」

「…………」

「幾万回剣を交えようと、私が貴方に勝つことは一度たりともできないのだろう」

「自らが勝ち得ないと知りながら……何故……」

「だがッ……!!! 我が身命を賭せば、時間を稼ぐ事くらいならばできるッ!! 一秒でも長くお前をこの場に留まらせるのだッ!! 我等(・・)が……勝利の為にッ!!!」

「ッ……!!!」


 言葉を重ねると共に、はじめは頼りなく身体を左右に揺らしていたカルヴァスは、次第に体制を安定させてピタリと剣を構えた形で動きを止める。

 同時に、ビリビリと気合が籠った咆哮が響き、そこに込められた想いがリョースを圧倒してたじろがせた。


「自らの敗北を受け入れると言うのかッ……? 馬鹿なッ……!! 敗北とは即ち死……ッ!! たとえ結果としてお前達が勝利を収めたとて、貴様がその栄光を浴する事は無いのだぞッ!!」

「それがどうした。たとえこの命が尽きようとも、魂が……誇りは受け継がれていく。その果てにフリーディア様の……あのお優しい我等の主が目指す理想郷が在るというのなら……その礎となれる事、私は誇りに思うッ!!!」


 カルヴァスの放つ気迫に、リョースは言葉を紡ぎながら無意識に一歩退いた。

 語る言葉が意味する事は分かっていても、リョースにはそれを現実に実行することの出来るカルヴァスの事が理解できなかった。

 そもそも、敗北を前提として戦いに挑むなどあり得ない事だ。

 仮に、勝利を収め得ぬ苦しい戦況であっても、勝利というただ一つの誉れを求め、全霊を以て己が力を振るい続ける事こそが、生けとし生ける者の当然の行いだろう。

 だというのに、この男は最初から己が命を棄て、命を捧げて勝利を掴み取らんとしている。


「っ……!! そうか……そうであったな……。フッ……フフ……。私としたことが失念しておったわ。種族として勝利を収める為、個の命をも燃やして戦う。お前達人間とは、斯様な者達であったな」

「そんな大層な心意気ではないさ。私はただ、フリーディア様の為ならば命を懸ける事ができる。それだけの事」

「フッ……。その心意気。その忠義。見事ッ!! もはやたかが人間だ……などとは侮らんッ!! このリョース・アヴール、一人の武人として全霊を以て応えるとしよう」


 リョースはカルヴァスの言葉にクスリと笑みを零すと、上段に高々と掲げていた太刀を下ろし、突撃の構えへと変えて高らかに吠えた。

 その太刀に込められた気迫は、決死を以て挑まんとするカルヴァスのそれに匹敵する程で。

 両者は互いに突撃の構えを取ったまま睨み合い、その間を刹那の沈黙が過ぎ去っていく。

 そして。


「行くぞッ!!!」

「ハァッ……!!!!」


 リョースとカルヴァスは同時に地を蹴って前へと進むと、構えた剣を以て真正面からぶつかり合った。

 しかし、打ち合わされる鋼の音が戦場の空気を振るわせる事は無く、その代わりに二人が剣を振るう度に、シャリン……チャリィン……という微かな音が奏でられる。


「オォッ……!! セァッ……!! ヌゥンッ……!!」


 殺気に等しい濃密な気迫と共に、リョースはカルヴァスを仕留めるべく全力で斬撃を放つ。

 その威力は真っ向から打ち合えば、テミスであっても受け切れぬほどの連撃だった。

 だが、カルヴァスはときに剣を引いて、ときには身体ごと斬撃に合わせて退く事でリョースの放つ剛剣を辛うじてではあったがいなし、返す刀でリョースの腕に、頬に、脚に、刀傷と呼べぬほどに微細な、致命傷とは程遠い掠り傷を刻んでいく。


「ッ……!! 何という()の剣……ッ!!」


 猛然と攻め続けるリョースに対し、カルヴァスは時折反撃を放つものの、ひたすらに防戦に徹する事を強いられていた。

 しかし、幾度となく弾き飛ばされて地を転がり、いなし切る事ができなかった斬撃が肌を裂いてもカルヴァスが倒れる事は無く、その度に立ち上がってリョースへと向かっていく。

 もはや誰の目から見ても勝敗は歴然。

 だというのに。カルヴァスは立ち上がる事を止めず、自らが十の傷を負う度にリョースへ掠り傷を一つ刻むような、捨て身の戦いを続けたのだった。

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