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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1519話 忠義の男

 並々ならぬ気迫を背負ったカルヴァスに告げられた言葉に、一瞬の間フリーディアの思考がフリーズする。

 今、彼は何と言ったのだろう?

 己の耳が聴き取った言葉を信じ切る事ができず、頭の中で二度、三度と反芻し、漸く聞き違えたのではないと理解する。


「っ……! 無茶よカルヴァス! 何を言っているのッ!? 許可できないわ。貴方一人では到底……」


 そして理解した瞬間、フリーディアの口から飛び出たのは叱責の叫びだった。

 それは白翼騎士団の団長としての言葉であり、指揮官として正しい戦力分析に基づいていた。

 ここで、到底相手にならない……と、全ての言葉を紡がなかった事こそが、フリーディアのせめてもの優しさなのだろう。

 だが。


「フリーディア様こそ、何を仰っているのですか? 今の貴女は、テミス殿の事を気にかけてばかりで、目の前の戦いに集中できていない」

「それは……っ!」

「……このままでは共倒れです。あちらも、そう長くは持たなさそうだ。ですから! お早くッ!!」

「ぁっ……!!」


 厳しい言葉を叩き付けると共に、カルヴァスがチラリと視線でテミスの方を示す。

 するとその先では丁度、ギルティアが放った魔法の余波を受けたテミスが、吹き飛ばされて地面の上を転がった所だった。


「……! っ~~!!! 無茶と無謀は違うわよ……? 勝算はあるの?」

「当然。そうでなくてはこのような事、申し上げていませんッ!」

「……わかった。任せるわ」


 フリーディアは、剣を構えたままリョースと睨み合うカルヴァスと言葉を交わすと、僅かな逡巡を見せながらも小さく頷き、突進するかの如く低く構えを取る。

 だが、フリーディアがギルティアと戦うテミスの元まで辿り着くには、眼前で太刀を構えるリョースの傍らを駆け抜けなくてはならず、当然それを易々と許すような相手ではない。

 それでも、フリーディアは大きく息を吐き出すと、僅かに目を瞑ってから再びその双眸を見開いた。


「いくわよ。カルヴァス」

「いつでも」


 そして、フリーディアが決意の籠った声でそう告げると、カルヴァスは背後を振り返ることなく短く答える。

 次の瞬間。


「ッ……!!」

「この私がそのような事……許すと思うか?」


 脚に力を込めたフリーディアは脱兎の如く前へと飛び出すと、リョースの傍らを走り抜けるべく地面を蹴り続ける。

 無論。リョースが駆け出したフリーディアを黙殺する事は無く、剣すら交える事無く駆け抜けんとするフリーディアの、無防備な身体を狙って太刀を振り下ろした。


「ゥォォォォォォオオオオオオオオオッッッッ!!!」


 直後。響いた咆哮と共に、カルヴァスがリョースへ向けて猛進すると、両の手で握り締めた剣に渾身の力を込めて振り下ろす。

 その刃が狙うは肩口。

 如何にリョースといえど、応じねば一撃で致命傷を負いかねない急所であり、無視することの出来ない一撃だった。

 だが、たとえ全霊を込めていようとその剣速は悲しい程に遅く、瞬時のうちにリョースは、カルヴァスの攻撃をいなして反撃を加えてからでも、十分にフリーディアの後を追う事が可能だと判断する。

 故に。リョースはフリーディアへと定めていた狙いを切り替え、まずは迫り来るカルヴァスの渾身の一撃を弾く事に専念した。

 そして返す太刀で一閃。戦うまでもなく決着は付く。

 振り下ろされるカルヴァスの渾身の一撃を受けるその瞬間まで、リョースは己が予測を微塵たりとも疑う事は無かった。

 だが……。


「オオオオォォォォ!!!!」

「ムゥッ……!?」


 軽い。

 ガキィンッ!! と。

 振り抜かれたカルヴァスの斬撃を受け止めたリョースが、はじめに感じたのは違和感だった。

 気迫は十分。繰り出された斬撃も、主を先へと向かわせるために放った全霊の一撃なのだろう。

 だというのに。

 受け止めた斬撃はリョースが想定していたよりも遥かに軽く、胸の内を失望が支配する。

 やはり所詮は人間か……。と。

 技を磨き上げ、輝かしき誇りを掲げたとて、人間という種族の振るう刃が、身体能力で圧倒的に勝る魔族に届く事はごく稀なのだ。

 そう。当然の如く軍団長と渡り合うテミスや、そんな彼女と相対するフリーディアが異常であり、普通は人間などこんなもの。


「下らん」


 その残酷な事実に、リョースが憐れみすら覚えながらも呟き、反撃の一太刀を振るわんとした時だった。


「カァァァァッッッッ!!!」

「ッ……!!!」


 確かに弾き返したはずのカルヴァスの剣が閃き、裂帛の気合と共に二撃目がリョースの首を狙う。

 その望外の一撃は、攻撃に転ずるべく太刀を構えていたリョースにとって致命的な隙を突かれた一撃であり、防御する事の叶わない一太刀だった。

 だが、リョースは即座にカルヴァスへの反撃を中断すると、大きく身を翻してカルヴァスの攻撃を躱す。

 続けて第三撃、四撃……と。攻撃を躱されたカルヴァスは止める事無く剣を振るうが、その白刃は一度たりともリョースを捕らえる事は無く、最後には瞬く間に体勢を立て直したリョースの太刀によって受け止められ、身体ごと大きく弾き飛ばされた。


「……貴様。何をした?」

「答える義務は……無いッ!!」


 ガシャガシャと甲冑が地面を転がる派手な音と共に、もうもうと立ち昇った土煙がカルヴァスの姿を覆い隠す。

 しかし、フリーディアはカルヴァスが作った隙を掻い潜り、リョースの傍らを遥か前に駆け抜けており、翻る長い金の髪は既に手のひらほどの大きさとなっていた。

 ギルティアの元へと駆けていくフリーディアをチラリと一瞥した後、リョースはもうもうと立ち込める土煙の中へ静かな声で問いかける。

 そんなリョースに、カルヴァスはゆらりと立ち込めた土煙の中から歩み出ながら、力強くそう答えを返したのだった。

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