1511話 敵の敵は敵
テミスがギルティアを相手に苦戦を強いられている頃。
ロンヴァルディア陣営はリョースとサキュドを相手に激闘を繰り広げていた。
戦いの始まった当初。先制を仕掛けたリョースに対して、ロンヴァルディアはフリーディアとレオンが応じ、カルヴァスが隙を突いて追撃を仕掛けるという戦い方だった。
だが、拮抗するかに思えたその戦況も、遅れて戦いに乱入してきたサキュドによってかき乱され、今や乱戦に等しい状況へと陥っている。
「くふっ……あははっ!! さぁて……次はどうするのかしら? ねぇ……? もっと足掻いてみせなさいな」
「…………」
黙したまま剣を構えるリョースの傍らで、紅槍を構えたサキュドが高らかな笑い声と共にフリーディアを見据えて口を開いた。
しかし、フリーディアにカルヴァス、そしてレオンがサキュドの挑発に乗る事は無く、肩を並べて武器を構えている。
「んん~? なら、前衛はアナタにお任せしようかしら? リョース第三軍団長殿?」
「……笑えん冗談だ。先程から隙を伺っている相手に、この私が背を向ける訳が無かろう」
「あはぁ……でも、嫌いじゃないでしょう? こういうの。アタシはアタシの主の為にこの槍を振るう、アナタはアナタの主の為、存分にその剣を振るえば良いわ」
「フッ……好きにするがいい。だが、私の邪魔をするようならば……どうなるかはわかって居ような?」
「あははっ!! お誘いは嬉しいけれど……。ザンネンながら、あの三人を相手にしながらアナタと遊べるなんて考えるほど、アタシは驕ってはいないわ」
クスクスと蠱惑的な笑みを浮かべたサキュドが、チラリと視線を傍らのリョースへ向けてそう続けると、それまで沈黙を貫いていたリョースが鋭い視線を返しながら口を開く。
けれど、自らの気迫を受けて尚、変わらない調子で言葉を返したサキュドにリョースは小さく微笑みを浮かべ、構えを変えてフリーディア達へと視線を戻した。
「……おい。あのリョースとかいう軍団長。お前たち二人で相手できるか?」
「っ……!」
「まさか……!」
一方で、リョース達が言葉を交わしている時。
肩を並べて構えるフリーディア達の耳に、静かなレオンの囁きが届いていた。
その問いは、レオンが一人でサキュドの相手をすると言っているのと同義で。
フリーディア達はレオンの提案に鋭く息を呑むと、視線だけを動かしてレオンへと意識を向ける。
確かにレオンならば、フリーディア達の動きに合わせた急造の連携を使わずとも、サキュドと渡り合える強さを有しては居るだろう。
以前に聞いた話では、レオン達とサキュドは戦場で相まみえた事すらあるようだし、リョース達が連携を取り始める前に分断するというのは悪くない提案ではある。
だが、サキュドとてテミスの腹心の部下であり、近頃は更に腕を磨き、その実力は軍団長にすら迫る程であることをフリーディアは良く知っていた。
「無茶よ。許可できない。いくらあなたが強いとはいえ、あのサキュドと一対一で戦うなんて無謀だわ」
「……問題無い」
「っ……!! ちょっと!!」
だからこそ。フリーディアは静かに首を振って提案を却下するが、レオンはただ一言だけ言い残すと、肩を並べていたフリーディア達の元から離れて構えを取る。
「フリーディア様! ここは彼を信じましょう。……いえ、信じるしか道は無いかと」
「でもッ……!! っ……!?」
自らの指示を無視し、単独で動き始めたレオンを諫めるべく、フリーディアが一歩を踏み出しかけるが、すんでの所でカルヴァスの緊迫した声がその足を止めた。
それもその筈。
ただ一人敵へと油断なく視線を向けていたカルヴァスが示す先では、先程までサキュドと言葉を交わしていたリョースが構えを変え、気迫の籠った目でフリーディア達を見据えていたのだ。
レオンが離脱した今、フリーディア達ロンヴァルディアの陣形は崩れかけているに等しい。
そこでさらにフリーディアがレオンの後を追えば陣形は完全に崩壊し、致命的な隙を晒す事になる。
当然。戦闘中に見せた隙をリョースが逃す理由も無く、隙を突かれたフリーディア達が応戦する事すら出来ずに敗北を喫するのは明白だった。
「……いいわよ、やってやろうじゃない。いくわよッ!! カルヴァス」
「ハッ……!!」
フリーディアが足を止めた刹那。
レオンはフリーディア達の方へ一瞥すらくれる事無く、下段にガンブレードを構えた奇妙な構えのまま、サキュドを目がけて一直線に駆け出して行く。
そんなレオンを横目に、フリーディアは小さく臍を噛むと自らも剣を構え直し、カルヴァスと共にリョースへと突撃したのだった。




