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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1509話 王たる証

 ガチィンッ……!! と。

 まるで鋼の塊にでも打ち付けたかのような固い手ごたえと共に、渾身の力を込めてギルティアへと向けて振り下ろしたテミスの大剣が空中で止まる。


「なっ……!?」


 否。

 止まった(・・・・)のではない。止められた(・・・・・)のだ。

 驚愕に息を呑むテミスの視線の先。漆黒に輝く刃の向こう側に在ったのは、淡く青色に輝く透明の板。

 薄氷が如き薄いたった一枚の障壁が、テミスの斬撃を受け止めていた。


「馬鹿なッ……!!」

「…………」


 時間にして数秒もの間、テミスは不可視の障壁と鍔ぜり合った後、歯ぎしりと共に大剣を薙ぎ払って後ろへと跳び下がる。

 テミスの斬撃を阻んだ障壁は紛れもなく魔法だ。加えてテミスには、その魔法に見覚えがあった。


「その魔法……確かエンバスとか言ったか……。だが、私の斬撃を止めるほどの威力は無かったはず……」


 防壁(エンバス)。それはかつて、まさにこの闘技場でドロシーと相まみえた時、奴が他の補助魔法と共に自らへと施していた防御魔法の名だ。

 だが、あの時ドロシーが用いたエンバスはまさに薄氷の如き見た目の通り、いとも容易く砕ける代物だったはず……。

 それに、ギルティアはこの闘技場に降り立って以来、会話以外に言葉を発してはいない。

 仮に、遠く離れた時に小声で言葉を紡ぎ、魔法を発動させたのだとしても。これほどまでに強靭な障壁が生成されるほどの魔力の動きを、テミスが見逃す筈が無かった。


「フ……。俺を誰だと思っている? お前は小手調べのつもりで斬りかかってきたのだろうが、その程度の斬撃……私が応ずるまでも無い」

「ッ……!!!」


 大剣を構えるテミスを前にして尚、ギルティアが悠然とした態度を崩す事は無く、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

 その風格は、ギルティアが背負う魔王の名にふさわしいもので。

 テミスはギシリと歯を食いしばると、大剣を握る手に力を込めた。


「フム……。無手の相手では斬りかかり辛いか? クク……確かに、興行で人死にが出ては問題だ。ならば、こうしてやれば少しはやる気が出るだろう?」


 刹那。

 余裕の笑みを浮かべたギルティアがおもむろにそう語ると、その身から荒れ狂う暴風が如き圧力が放たれ始める。

 それは、魔力の奔流だった。

 魔王たるギルティアがその身の内に秘めている膨大な魔力。ただ立っているだけでも流れ出る魔力が、豪風となって周囲に吹き荒れているのだ。


「ハッ……!! この魔力……流石は魔王という訳か……!!」

「この程度で何を驚いている。俺はただ、魔力を抑え込むのを止めただけだ。さあ、存分にかかって来るが良い。魔力を開放するのは久し振りでな……実に気分が良い」

「クッ……!!」


 悠々と言葉を紡ぐギルティアが、言葉と共に僅かに首を動かしてその視線をテミスへと向けると、その身から放たれる魔力がさらに勢いを増してテミスへと襲い掛かる。

 吹き付ける魔力の奔流はすさまじく、本来ならば立っている事もままならない程の強烈な烈風なのだろう。

 だが、テミスは低く身構えながら、ブラックアダマンタイトの大剣の重量を重くすることでその場に留まり、歯を食いしばってギルティアて鋭い視線をギルティアへと向けていた。

 しかし、大剣が重量を増せば、如何に怪力を誇るテミスといえども自在に振り回す事は叶わず、構えも切っ先を地面へと向けた下段の構えを取らざるを得なかった。

 これでは、斬撃を繰り出す事ができても、威力ばかりで鈍い無様極まる一撃を繰り出すのがやっとだ。


「ならばッ……!!!」


 この魔力の奔流の中では、まともな斬撃を繰り出す事は叶わない。

 そう悟ったテミスは、片手を大剣から離して地面に付くと、低く落としていた姿勢を更に落とし、獣のような格好を取った。

 同時に、意図的に重量を増していた大剣の重さを減らし、片手でその切っ先を天へと向けて高々と振り上げた。


「ほぅ……?」

「立ちはだかるのならば……斬り裂くッ!!」


 奇妙な、ともすれば滑稽にも映りかねないテミスの構えを見たギルティアが、面白そうに目を細めて息を吐いた時だった。

 ピタリと天頂を衝いて止まった漆黒の大剣が、裂帛の気合が籠った怒声と共に力強く振り下ろされる。

 しかし、テミスが大剣を振るった所で、跳び下がったままである現在の位置ではギルティアに届くはずも無く、ヒャウンと鋭い風切り音を奏でながら空を裂いた大剣は、どずりと切っ先を地面へと埋めて止まっただけだった。

 だが……。


「行くぞッ……!! お前の顔からまずはその余裕を消し去ってやるッ!!」


 テミスの狙いは、まさに空を裂く(・・・・)事だった。

 凄まじい速度で振るわれた大剣は魔力の奔流によって吹き荒れる暴風を切り裂き、ギルティアの前まで一筋の道を創り出す。

 無論。空を裂いて作った道が保たれるのはほんの僅かな時間のみ。

 故に、テミスはギラリと瞳を光らせて地面を蹴り抜くと、その勢いを以て地面に食い込んだ大剣を引き抜きながら、再びギルティアへと肉薄したのだった。

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