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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1508話 不敵な誘い

 戦力の分散。

 四つ巴の戦いであるこの現状で、それは最も犯すべきではない愚行だ。

 仮にも、この場に集っているのは各陣営を代表して出場した選りすぐりの戦士。たとえ個として強大な戦力を持つ魔王軍の軍団長といえども、そんな猛者たちを単騎で相手取るのは自殺行為に等しい。

 だが。それでも尚ギルティアは誰が見ても愚行であると判ずるに足る作戦へと舵を切った訳で。

 そこには必ず、何かの訳が……ギルティアの狙いが隠されているとテミスは確信していた。


「…………」

「ッ……!!!」


 ロンヴァルディアとギルファー。二つの勢力が陣取る方向から剣戟の音が響き始めると同時に、ただ一人その場に佇んだままのギルティアがニヤリと口角を吊り上げる。

 表情を窺う事すら難しいほどに離れたこの場所からでも、テミスには直感的に理解できた。

 あの不敵な微笑みは、自らへと向けられたものだ……と。

 そして、ああしてただ一人自陣に残り、何をするでもなく佇んでいるのは、間違い無く自分を待ち構えているのだろう……と。


「あの……テミス様……?」

「えぇと……このまま様子を見ます? それとも……」

「っ~~~!!! ギルティアの奴め……!! 味な真似を……!」


 突如として動き出した戦況に、サキュドとヴァイセがテミスを振り返ると、焦りを含んだ声で指示を仰ぐ。

 しかしその瞬間。テミスの脳裏には、突如として察知した無謀にも思える作戦を敢行したギルティアの真意で埋め尽くされていて。

 故に、テミスはニヤリと口角を吊り上げて皮肉気に微笑むと、サキュド達の言葉に答える事無く呟きを漏らした。

 そして。


「サキュド! ヴァイセ! ロンヴァルディアとギルファーの連中の足止めをしろ!! リョースとドロシーを手伝ってやれ! ただし、油断はするなよ? 奴等とて敵であることに変わりはない。隙は見せるな! そして、連中が隙を見せたら遠慮なく刈り取ってやれッ!!」

「っ……!! 了解ですわ!!」

「は……はいッ!! でも……そしたらテミス様は……?」

「ククッ……私はあっちだ。どうやら、魔王様直々にご指名らしいのでな」


 続けて出されたテミスの指示に、サキュドはその瞳にギラギラと好戦的な光を宿して笑みを広げ、力強く返答を返す。

 同時に、ヴァイセもまた背筋をピシリと伸ばして応えるものの、同時に小さく首を傾げて問いを零した。

 すると、テミスは携えていた大剣を高々と持ち上げてからガシャリと音を立てて肩に担ぎ、喉を鳴らして笑いながらギルティアの方を顎で指し示す。

 考えてみればこの試合が始まる前、ギルティアが意味深に嘯いていた言葉も、全てはこの戦況を創り出すための布石だったのだろう。

 主催者として観客を飽きさせず、加えて魔王軍の力を示すためには、確かにこれ以上ない程に有効な手段だ。

 だが、ギルティアと対等に渡り合う事ができるのならば、相手はギルファーやロンヴァルディアでも構わなかったはず。

 その中でも、ギルティアが他でもない自分を選んだのだとしたら……?

 テミスはドクドクと滾る血が全身を駆け巡るのを感じながら、ゆらりと大きく一歩を踏み出した。


「……期待には応えねばなるまいッ!!」

「アハハッ!! 行くわよヴァイセ! アタシ達の力、存分に見せつけてやるわッ!!」

「テミス様。ご武運を。俺も……本気で行くぜッ!!」


 瞬間。

 テミスが踏み出した脚に力を籠めるよりも早く、サキュドとヴァイセがそれぞれに言葉を残すと、サキュドはロンヴァルディアの方へ、ヴァイセはギルファーの方へと、射出された弾丸のような速度でそれぞれの戦場へ向けて駆け出して行く。


「やれやれ……あいつ等ときたら……」


 解き放たれた猛犬が如く、一直線に敵へと向かっていくサキュドとヴァイセの背を見送りながら、テミスは小さく笑みを浮かべて呟きを漏らした。

 たとえ命令とはいえ、そこは素直に受けるのではなく、魔王という強力無比な相手へと向かう私を諫め、随伴を申し出る所だろう。

 自らの配下からの厚い信頼を感じながら、テミスは肩を竦めて言葉に出さない皮肉を胸の中で零すと、ギルティアへ向けて進む足を次第に速めていく。

 内心の滾りを表すかの如く、最初はゆっくりとした歩調を刻んでいたテミスの足はすぐに駆け足となり、戦いの始まったロンヴァルディア・ギルファー勢力の間を一直線に駆け抜けてギルティアへと肉薄した。


「待っていたぞ。テミス。人間の勇者よ」

「ハッ……!! ほざけ!! 勇者など私のガラではないわ!!」


 その刹那。

 悠然と口を開いたギルティアを前に、テミスは駆けた勢いすら大剣に乗せて大きく振りかぶる。

 そして、皮肉気な微笑みと共に吐き捨てるようにギルティアへ言葉を返すと、高々と振り上げた漆黒の大剣を鋭く振り下ろしたのだった。

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