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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1498話 強者たちの隠れ家

 近く開催される闘技大会には、元・魔王軍十三軍団長であるテミスが出場する。

 ヴァルミンツヘイムの町のそこかしこで、そんな噂が囁かれ始めたのは、テミスたちが町で騒動を起こしてから数日も経たない頃の事だった。

 しかし、だからといって。ギルファー勢の到着を待つテミス達の暇が消えてなくなる訳でも無く。

 テミスたちは変わらず町に繰り出しては、噂を聞きつけた腕自慢の者達と戯れたり、様々な店を巡ったりしてヴァルミンツヘイムの町を堪能していた。

 そんな中で。

 全ての元凶であるあの日の騒動の噂は、新たな噂に上書きされて消え、町の雰囲気は闘技大会に向けて盛り上がりを見せ始めていた。


「……やれやれだ。何もかもが掌の上……か。ここまで上手くやられると厭になってくる」


 そうテミスがうんざりとした表情を浮かべてぼやいたのは、町が全体的に浮ついた雰囲気を見せる中でも、変わる事の無い落ち着いた空気を揺蕩わせている、喫茶モルトンの片隅だった。

 魔王城を守る衛兵であるコーヌから勧められたこの店は、その評価に違わぬ名店だったらしく、出される食事はコーヒーや甘味、軽食に至るまでどれも美味く、そのうえ物静かな店主は決してテミスたちに深入りしてくる事は無かった。

 それは町を歩けば漏れなく喧嘩を吹っかけられるテミス達にとって、まさにオアシスのような存在で。

 テミスから喫茶モルトンの事を伝え聞いたフリーディアはもちろんの事、今となってはカルヴァスやレオン、サキュドまでもがこの店に入り浸っている。


「魔王である彼が直々に開催する催しだもの。報せを出せばそれはそのまま町の人たちへの御触れとなってしまう。だからこそ、こうして噂という形で情報を流したんでしょうね」

「ハン……あいつめ……。私達が喧嘩を売られる事まで計算に入れて町を散策することを勧めやがって……。体のいいプロパガンダって訳だ」

「えぇと……ぷろぱ……?」

「…………」


 テミス一行が各々の席に身を預けたモルトンの店内で、テミスはフリーディアと席を共にしながら延々と文句を垂れ流していた。

 かく言うフリーディアも、町を歩けば戦いを挑まれる今の状況は好ましくないらしく、静かに眉根を寄せてテミスの愚痴を聞き流している。


「プロパガンダ。広告塔だとか、戦略的な宣伝……今回みたいな意図的な噂の流布の総称だ」

「……聞いたことが無いわね。どこかの地方の言葉かしら?」

「っ……。まぁそんな所だ。何処で聞き齧ったかは私も忘れた」

「フッ……」


 不意に首を傾げたフリーディアの問いに、テミスは自ら零してしまった失言に気が付くと、僅かに目を見開きながら機先を制してそれ以上の追及を阻止した。

 そんなテミスたちの座る席の傍らに設えられたカウンターでは、レオンが一人意味深な笑みを浮かべながらコーヒーを傾けていて。

 テミスたちの会話に合わせて僅かに変化するその表情は、離れた席に腰を落ち着けながらも、まるで彼自身がテミスたちの会話に混ざっているかのようだった。


「懐かしい響きですな。そのお言葉……久方振りに耳に致しました」

「っ……!? 店主……? 注文はしていなかった筈だが……?」


 しかし、テミスたちの元へ音も無く歩み寄った店主が、カチャリと軽い音を立てながら新しいコーヒーを差し出すと、延々と垂れ流されていた愚痴がピタリと止まり、テミスの声に驚きにに警戒が混じる。


「こちらはサービスです。ご気分を害してしまったのでしたら、申し訳ありません。かつての我が主……バルド様も時折、そのような耳慣れぬ言葉をお使いになっておりました故、あまりに懐かしくて堪らず声をおかけしてしまいました」

「っ……!」

「バルドだと……? 店主……まさかお前は……?」

「昔の話です。私は軍を辞した身。後にも先にも、我が主はあのお方だけでありました」

「クス……そうか。まさかこんな所で、先代に所縁の者と顔を合わせる事になろうとは思っても居なかった」

「恐れ入ります。我が主が愛した町を護り続ける貴女様とお会いでき、身に余る光栄で御座います」


 けれど、店主と言葉を交わすうちにテミスの抱いていた警戒心は瞬く間に解かれ、表情にはすぐに柔らかな笑みが顔を覗かせ始めた。


「ン……? 待てよ……? この店の味がマグヌスの奴が出すコーヒーの味に似ているのって……。というか、サキュドめ。知っていて黙っていたな……?」

「ははは……。そうでしたか。今ではあのマグヌスが皆様に茶を出しているのですか。バルド様直伝の妙技、仕込んでやった甲斐があったというものですな」

「……。あぁ。重宝しているよ。私も、このフリーディアも、強大な書類仕事と相対する折には、奴の入れるコーヒーには何度助けられたことか」


 物静かだった印象とは裏腹に、店主が朗らかな笑い声をあげながらどこか嬉しそうにそう呟くと、テミスはクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべてフリーディアへと視線を向けた後、噛み締めるように言葉を返したのだった。

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