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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1493話 服わぬ者

 現れた男女は異様だった。

 見紛う事の無い普通の装い。程よく鍛え上げられた筋肉は細くしなやかで、戦いとは縁など無いかのように見受けられる。

 だがそこに本来、生ある者であらば必ず存在すべき気配を微塵たりとも感じる事ができず、こうして目の前に立って姿を視界に収めてはじめて、テミスは二人の存在を認識できた。


「っ……!!」

「申し訳ございません。冒険者を相手取られる程度であらば些事故、我々が出張るまでも無いのですが……」

「彼等は紛いなりにも我等が主の配下。我等で場を収めさせていただきます故、どうか刀をお引きいただきたく」


 しかし、テミスの驚愕を知ってか知らずか、気配を感じることの出来ない二人はテミスへ小さく頭を下げたまま、淡々と言葉を続けていく。

 そんな二人の視線を追ってみれば、テミスが密かに刀の鞘へと番えていた左手へと向けられており、それが更にテミスの肌を粟立たせた。


「……見ていたのならばもっと早く出てきてくれ。だが助かる。その見事な隠密術に敬意を表してこの場は任せよう」


 それ故に、辛うじてテミスにできたのは、精一杯の皮肉を交えて言葉を返す事だけで。

 刀の鞘に番えた左手を引き剥がす事も、眼前の二人の異様さにピクピクと跳ねようとする右手を隠す事もできなかった。


「ありがとうございます。我々、役柄故にお褒めの言葉を頂く事は少ないですから、照れてしまいます」

「ご配慮、深く感謝致します。必ずやご期待に沿ってお見せしましょう」


 けれど、人懐っこい柔らかな笑みを浮かべて照れてみせた女も、その隣で実直に再び頭を下げた男も、臨戦態勢を解こうとしないテミスに言及する事は無く、それぞれに言葉を添えてから大きく一歩後ずさった。

 だが、その瞳は氷のように冷たい光を宿しており、今退いた一歩も、自らの間合いの中で背を向けない為のものである事を、テミスは鋭敏に感じ取っていた。

 それでも、彼等から敵対の意志は感じない。

 そう判断したテミスは、二人が憲兵団の部隊長らしき男の方へ向かってゆっくりと歩いて行くのを確認してから刀に番えていた手を離すと、不安気に視線を返すアリーシャに微笑みかけた。


「私達も行こう。どうやら、彼等が何とかしてくれるらしい」

「う……うん……」


 アリーシャは微笑みと共にそう告げたテミスへ小さく頷くと、身を翻したテミスの背に隠れるようにして気配の無い男女の後を追った。


「……越権だと言っている!! 認められん!! 断じて!! 我々憲兵団には、町の治安を脅かす者を捕縛する義務と権利が与えられているのだ!!」

「承知しているとも。相手がたとえ軍団長であろうと、憲兵団は身柄を捕縛する事が認められている」

「だったら――!!」

「――それが出来るか否かは別として、だけど。本気で彼女を止められるとでも? 悪い冗談だわ。命を棄ててかかったとて、一分持てばいい方でしょうね」

「ッ……!!!!」


 テミスたちが既に話し合いを始めている二人にゆっくりと歩み寄ると、次第にその内容がこちらまで聞こえてくる。

 その内容から察するに、どうやら憲兵団との交渉は難航しているらしいが、テミスは構わず二人の傍らへと歩みを進めた。

 瞬間。テミスたちが近寄るのを視界に捉えた憲兵団の部隊長らしき男の目がキラリと怪しく輝き、大きく息を吸い込んで口を開く。


「第一軍団の諜報隊……? だか知らんが、我々の仕事に口を出すのはご遠慮願いたいものですな」

「…………」

「…………」


 憲兵団の部隊長らしき男は、芝居がかった口調でテミスへチラチラと視線を送りながらそう断言すると、ニンマリと嫌な笑みを浮かべてみせた。

 それが、テミスへ頭を下げながらも名乗る事すらおろか、自分達の立場さえ告げる事の無かった二人への嫌がらせであることは火を見るよりも明らかで。

 ピクリと眉を跳ねさせた二人の傍らで、テミスは呆れ返って小さく息を吐いた。

 この二人が、ギルティアが私達へと付けた護衛を兼ねた監視役であることは既に察しが付いていた。

 だが、諜報や隠密を担う彼等がその正体を知られるのは命を失うに等しい。

 だからこそ、テミスは敢えて知らぬふりを通し、二人もそれを知りながらあえて踏み込んで来る事は無かったのだが。


「ハハッ!! 人間如きの肩を持つからだ!! さぁ、お前達もこいつの捕縛に手を貸せ! この事が外へ漏れては困るだろう?」

「貴様……ッ!!」

「待て。逸るな。往来の前だぞ」


 蔑むように高笑いする男を前に、諜報の女が唸るような声で怒りを露にすると、相棒の男が静かな声でそれを止める。

 卑劣極まりない下衆な手ではあるが、なるほど確かに有効な手だ。

 眼前で目まぐるしく変わっていく状況を眺めながら、テミスは内心でそう評価を下すと、肩を竦めて再びため息を漏らした。

 この部隊長は、どうあっても私達の身柄を捕らえる気らしいが、そもそも我々がギルティアの客人である事実に変わりはない。

 加えて、事の顛末を鑑みても、私達が捕らえられる謂れは無く、つまるところこの部隊長がやっている事は全て、ギルティアへの反逆に他ならないわけだが。


「……おっと、すまない。私を見ているようだが、何か言っていたか? 少しぼんやりとしていてな、話を聞き逃してしまった」

「なッ……!?」

「っ……!」

「クス……処理は任せる。さて、私たちはそろそろ行くよ。お前達も、ファントを訪れる事があったら是非ウチの宿を訪ねてくれ。助けられた借りだ、飯くらいご馳走しよう」


 テミスは涼し気な笑みを浮かべながら、部隊長らしき男を含む三人へそう告げると、ヒラヒラと手を振りながら周囲を囲う憲兵団の兵達の方へ向かって歩く始める。

 それに一拍遅れて、アリーシャはペコリと一礼をしてテミスの後に続き、二人は武器を構えた兵の前へと歩を進めた。

 そして。


「ッ……!! き、貴様……!! 戻――」

「――退け。二度は言わん」

「ヒッ……!!!?」


 その歩みを阻むべく声をあげた憲兵団の兵に、テミスはギラリと鋭く睨み付けながら濃密な殺気と共に言葉を紡ぐ。

 すると、兵の背後で傍観を決め込んでいた野次馬たちもろとも、テミスの放った殺気を受けて恐怖に表情を歪め、一気に人垣が左右へと割れて道ができる。

 そうしてできた道に、テミスはその背にアリーシャを連れてゆったりとした足取りで歩を進め、ヴァルミンツヘイムの町の中へと姿を消したのだった。

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