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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1492話 厄介な同胞

 ドタドタドタッ!! と。

 僅かにずれの生じた派手な足音と共に、武装した魔族の一団が駆け込んでくる。

 彼等の携えている武器に違いはあれど、身を包んでいる装備の意匠は統一されており、胸元と腕に設えられた記章がその所属を声高に物語ってた。


「っ……!!!」

「やっべぇ……!! おい! 逃げんぞ!! 早くッ!!」

「…………」


 その姿を捉えた瞬間、牛男の連れは息を呑んで恐怖を帯びた言葉を零し、逃げ道を探るかのように周囲へと素早く視線を走らせる。

 だが、駆け付けた憲兵団を名乗る魔族たちは、淀みの無い動きで瞬く間にテミスたちを取り囲んで展開すると、武器を構えて動きを止めた。

 逃げ道は無い。

 完全に包囲された光景は、逃走を目論んだ牛男の連れにそう悟らせるには十分過ぎるほどで。

 自らの剣に手をかけていた牛男を除き、彼の連れは即座に戦意を失ってその場にへたり込んだ。

 一方で、既に刀の鯉口を斬っていたテミスは、憲兵団の登場にピクリと眉を動かしただけだった。

 それも当然の事。

 テミスたちはただこの厄介な牛男に絡まれていただけ。疚しい事など何もないし、むしろ戦闘が始まる前に憲兵団が到着したのは幸運だともいえる。

 だが。


「双方ッ!! 武器を棄ててその場に膝を付けッ!!! そこの女もだッ!!」

「…………」


 周囲を取り囲んだ憲兵団の中から一人、大きな襟の目立つ装備に身を包んだ部隊長らしき男が前へと進み出ると、迫力のある声でテミス達へと呼びかけた。

 その勧告に、牛男をはじめとするテミスと敵対していた者達は素直に応じ、携えていた武器を惜しげもなく投げ捨てると、憲兵団の言葉に従ってその場で膝を付く。

 しかし、テミスはただ構えを解いて鯉口を切っていた左手を刀から外しただけで。

 悠然と姿勢を正して憲兵団の者達の視線を一身に集めていた。


「武器を棄てろと言ったッ!! 三度めは無いぞ!! 後ろの女もだッ!! 早く膝を付けッ!!」

「え……!? あっ……!」


 再度、部隊長と思しき男の怒声が響き渡ると、ようやく彼等の勧告が自分にも向けられたものであったと理解したアリーシャが、素直に言葉に従って膝を付こうとする。

 だがその瞬間。

 悠然と身を翻したテミスがアリーシャの肩を掴んでそれを止めると、小さく微笑んで口を開いた。


「アリーシャ。従う必要はない。そのままで構わない」

「え……でも……」

「ここで連中の言葉に従えば、我々に非があると認めたことになる。私たちは何も悪い事をしていた訳では無い。そうだろう?」

「っ……!! うん……ッ!」

「フ……なら、胸を張って立っているんだ」


 周囲を取り囲む憲兵団の、そして野次馬に集まった町の者達の目の前で、テミスは一切の物怖じをする事なくアリーシャと言葉を交わしてから、鋭い視線を憲兵団の部隊長らしき男へと向けて声を張り上げる。


「承服しかねる!! 我々はただ、そこの男に因縁を付けられたために自衛をしていたまで。こちらに交戦の意志は無い、職務を全うされるが良い!!」

「何ィ……? 自衛だ……? 大ぼらを吹くのも大概にしろよ女。人間であるお前たちが、牛人族であるそちらの男に敵う訳が無いだろう!! 状況は明白!! 我ら憲兵団は魔王様のおわすこの町を守るが職務!! この町を人間の身でうろつくなど不届きにも程があるわッ!! たかだか人間二人……抵抗など無駄だと知れ! これが最後の勧告だ!! 武器を棄てて膝を付けェ!!」


 しかし、憲兵団にテミスの言葉が受け入れられるはずも無く、部隊長らしき男は嘲笑と共にビリビリと響く声で怒声を上げた。

 それが言葉通り、最終勧告である事は事実らしく、周囲を取り囲んでいる憲兵団の者達の間に漂う雰囲気が変わる。

 けれどテミスにとって、自らの主張が受け入れられない事は百も承知だった。

 後から駆け付けた憲兵団にとって、どちらに非があるかなど一目で分かるはずも無い。

 故に、まずは双方の武装解除から始めるのは当然の事ではあったのだが……。

 ただ二点。

 部隊長らしき男の発言から人間蔑視の思想が垣間見える事と、テミスの事をギルティアの客人でも、元軍団長だとも認識していないらしい点は誤算だった。


「フム……。止むを得ん……か……」


 このまま素直に投降したところでどうなるかなど想像に難くない。

 私一人ならば、この一件がギルティアの耳に入るまで連中の職務に付き合ってやっても構わないが、アリーシャをそんな目に遭わせる訳にはいかない。

 そう判断したテミスが、胸の中で下した決断を行動に移すべく、左手を再び腰に提げた鞘へと番えた時。


「……お待ちください」


 スタリ。と。

 憲兵団が取り囲んだ輪の外から、突如として魔族の男女がテミスの前へ飛び込んで来ると、静かな声と共にテミスへ小さく頭を下げたのだった。

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