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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1488話 余所者の道標

 甘い香りが漂う店の中の空気と店員の朗らかな声を背に受けて、テミスとフリーディアは満足気な微笑みを浮かべながら店を後にした。

 コーヌに勧められた喫茶店は素晴らしいの一言に尽きた。

 手ごろな価格で提供される甘味は程よい甘さで舌を蕩けさせ、合わせて供される芳ばしくて香り高いコーヒーに良く合っていた。


「ふ~……美味しかったぁ~!! 雰囲気もおしゃれで可愛いし、すっごくいいお店だったね!!」

「うん、まさかこんなにも美味いコーヒーを味わう事ができるとは……これはヴァルミンツヘイム(こちら)にいる間にまた来なくては……」

「んふふっ……テミス、すっごく幸せそうだったもんね。あ……! 勿論! また来る時は私も呼んでね!? まだまだ食べてみたいメニューいっぱいあったし……!!」

「はは。わかったよ。また一緒に来よう。そうだな……今度はフリーディアの奴も誘ってやるか……」


 テミスは言葉に力を込めて語るアリーシャに笑みを零しながら応えると、今は傍らに居ない友の顔を思い浮かべた。

 ファントの町に居た頃は、何かと口喧しい癖をして常に付き纏ってくるものだから鬱陶しくて仕方が無かったのだが、いざこうして離れてみると、何処か寂しさのようなものを感じてしまうのだから不思議なものだ。

 確かヤツも甘味は好物だったはず……。それに、このマグヌスが淹れてくれるコーヒーの美味さにも匹敵する一杯は、是非とも同じ味を知るフリーディアにも味わわせてやりたい。


「さて……と……これからどうしよう? まだまだお城に戻るには早い時間だよね? けど、お腹はもういっぱいだからご飯屋さんは入れないけれど……。このままお散歩がてら町をまわってみる?」

「ン……そうか……。そうだな……なら、少し付き合って貰っても構わないか? 武器屋に雑貨屋……あとは冒険者ギルドも覘いておきたいんだ」

「了解だよ! ……とはいっても、私は場所がわからないから、テミスに付いて行くだけになっちゃうけどね」

「問題無い。なら、まずは冒険者ギルドから向かおう。わかり易い場所にある筈だから、そこで残りの店の場所を聞けばいいさ」


 そう言ってテミスがのんびりと歩き始めると、一拍遅れてその背を追ったアリーシャが少し小走りでテミスの隣に肩を並べる。

 確か、正門からの大きな通りには冒険者ギルドらしき建物は見当たらなかったから、あるとすれば隣接する両脇の大通り沿いか、町の中心部である魔王城の近辺の筈だ。

 流れ者である冒険者を受け入れるが故に、冒険者ギルドは基本的に利便性と視認性に優れた位置に建てられている。これまでの経験からそうあたりを付けたテミスは、まずは外に通づる門の近辺へと足を向けた。

 何故なら、仮にも魔王城は彼等の戴く魔王が住まう場所。荒くれや身元の不確かな者が多く、時には暗殺者さえも紛れ込む可能性のある冒険者ギルドが、王城の傍らに在ることを許されるとは思えないのだ。

 そんなテミスの直感はどうやら当たっていたらしく、アリーシャと二人で町を眺め、言葉を交わしながらしばらくの間歩いて行くと、前方に見覚えのある建物が見えてきた。


「あれ……? なぁんかあの建物、見覚えがあるような気がするんだけど……」

「ふふ、だろうな。冒険者ギルドは何処の町でも同じ外見の建物が建っているんだ。他の町から来た者でもすぐに見付ける事ができるようにな」

「へぇ~……そうなんだ。でも納得かも。確かにこうして見るとファントにある冒険者ギルドにそっくりだよ!」


 見慣れない景色の中に存在する、初めて見る筈なのに見慣れた建物。

 そんな奇妙な感覚に歓声を上げるアリーシャの隣で、テミスは言葉を返しながら僅かにアリーシャへと身を寄せる。

 町の景色やギルドに夢中になっているアリーシャは気が付いていないようだが、魔王城の周囲に比べて明らかに周囲を歩く者達の風体が変化していた。

 しかし、テミスたちが物珍しいのは変わらないらしく、道行く人々からは好奇の視線が向けられている。

 だが、そんな事は関係ない。後はギルドで店の場所を聞き、ついでに依頼を眺めてから向かうだけだ。

 そうテミスがこれからの段取りを頭の中で思い描いていた時だった。


「オイオイオイオイッ!! この辺りなぁんか匂うぜぇ……? 臭くて臭くて堪らねぇ、人間臭くっていけねぇなァッ!?」

「ひゃッ……!?」

「…………」


 テミスたちの身の丈を遥かに超える大きな剣を背負った牛頭の大男が、大声で嘯きながらテミスたちの前に立ちはだかった。

 無論。男がわざわざ肩を並べて歩いていた仲間達の輪の中から抜け出てこちらへ来ている時点で、たまたまテミスたちの前で立ち止まったなどという偶然であるはずも無い。

 それをよく理解しているテミスは、自然な動きで左手を腰に提げた刀の鞘へ添えると、口を噤んだままその背でアリーシャを守るかのように一歩前へと進み出たのだった。

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