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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1486話 望外の休暇

 テミスたちがヴァルミンツヘイムへと到着した翌朝。

 全員が揃うタイミングを見計らっていたかの如く十三軍団区画を訪ねてきたギルティアの使いから伝えられたのは、しばらくの間待機しているようにという曖昧な指示だった。

 だが、それも仕方の無い事だと言えるだろう。

 このヴァルミンツヘイムから馬車で約三日ほどの距離にあるファントに対し、極北に位置するギルファーは馬車を駆った所でかなりの時間を有するのは想像に難くない。

 テミスたちが準備に手間取った事は事実だが、ギルティアからの手紙が到着するなりにファントを発ったシズク達の事と、ここからギルファーまでの距離を鑑みるのならば、数日から数週程度は誤差の範囲だ。

 尤も、ギルティアからの伝言には、ヴァルミンツヘイムの町でも散策してきたらどうだと添えられており、伝令の兵からは人間領でいう所の銀貨に値する通過である、蒼貨がぎっしりと詰まった革袋を渡されてしまった。

 そこで、テミスたちは降って湧いた休暇を思い思いに過ごすために、各々に魔王城を出てヴァルミンツヘイムの町へと繰り出す事にしたのだ。


「さてアリーシャ、どこから見てまわろうか?」


 魔王城の正門を出てすぐ、目抜き通りが交差する地点の片隅で、テミスは後ろをついて歩くアリーシャを振り返って問いかけた。

 魔王城の外壁に隣接しているだけあって、目抜き通りとはいえそこまで人の往来が多い訳では無かったが、それでも少なくない数の人々が通りを行き交い、チラチラとテミスたちへ奇異の視線を向けている。

 それもその筈。

 ここは人間領から遠く離れた、魔王領が最奥に位置するヴァルミンツヘイム。

 人で賑わっているとはいえ、かつての前線にほど近い場所に位置するファントとは異なり、行き交う人々の中に人間の姿は無く、獣人族や魔人族にエルフ族など、人間達の間では魔族とひとくくりに呼称される者達ばかりだった。

 故に、いくら魔王の庇護下に在るとはいえ、魔族だらけの町を散策するにあたって、戦う力の乏しいアリーシャを一人放り出す訳にも行かず、こうしてテミスが同行を買って出たのだ。


「う~ん……そうだなぁ……。できれば、喫茶店とかウチみたいな食事を出してる宿屋とかを見て回りたいけれど……。朝ごはん食べたばかりでお腹がいっぱいなんだよねぇ……」

「クス……アリーシャにしてはたくさん食べていたからな。フム……だが生憎、私も大して食べられるほど腹が減ってはいないが……」


 そう言葉を返しながら、テミスはひとまずとばかりに通りを一望すると、恐らくは城に詰める兵達を狙って建てられたのだろう、いくつもの食事処が軒を連ねているのが目に入った。


「頑張れば二軒……いや、無理をすれば三軒くらいは回れるか……?」


 そんな店々から漂ってくる芳しい香りを嗅ぎながら、テミスは自らの腹を擦って具合を確かめると、小声で呟きを漏らしながら静かに目を細めた。

 この身体になってからというもの、食事に関してはそう大した量が必要ではなくなっている。

 朝に腹いっぱい詰め込めば、昼を抜いた所で多少小腹が減る程度で済むし、軽くパンでも齧れば十分に夕食まで持つ。

 しかし、食おうと思えば案外入るもので、三人前程度ならば一度に難なく平らげる程度の芸当はできるのだ。

 つまり、そこから逆算すると、今の私の限界はだいたい4~5人前程度という計算になるが、これだけ軒を連ねている店々を片っ端から訪ねてしまえば、如何に私の胃袋を以てしても壮絶なフードファイトへと発展するのは間違いない。

 ただでさえヴァルミンツヘイムでは人間というだけで目立つ身の上なのだ。それに加えて大食いなんかしてしまった日には、噂がこの町を駆け巡る事になるのは想像に難くない。


「ウム……ムムムゥ……」


 そうなってしまえば、面倒事になるのは確実だ。

 かといって、あれほど今回の旅を楽しみにしていたアリーシャの想いを無碍にする訳にもいかない……。

 希望と現実の狭間でテミスが思い悩んでいると、微笑を浮かべたアリーシャが足早に傍らに駆け寄って口を開く。


「大丈夫だよテミス。お店はまた次の機会にしようよ。美味しく食べられないのに料理を作って貰うのも失礼だもん。ね? まずはテミスの行ってみたい所に行こう?」

「っ……!!」


 しかし、その笑顔にはいつもの底抜けな明るさは無く、アリーシャが胸の奥底に悲しみと後悔を仕舞いこんでいるのは一目瞭然だった。

 ならばここは、私が一肌脱ぐ他にあるまい。

 ……と、揺らいでいた胸の内でテミスが覚悟を決めた時だった。


「あ~……あのぉ……。もしよろしければ、お勧めの店をお教えしましょうか?」


 なけなしの勇気を絞り出したかのような震え声がテミスの背後から響き、アリーシャとテミスは同時に声がした方向へと視線を向ける。

 そこには、小奇麗な制服に身を包んだ衛兵が一人、背筋を丸めて怯えと恐れの混じった視線をテミスへと向けていたのだった。

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