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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1475話 三つの御旗

 広く道幅の取られたファントの大通りに、三つの軍旗が揃って掲げられる。

 一つは、ルギウス率いる魔王軍第五軍団のもの。

 一つは、フリーディア率いる白翼騎士団のもの。

 一つは、テミス率いる黒銀騎団のもの。

 かつては戦場にて真っ向から向かい合い、鎬を削り合った三つの軍旗が今、ファントの蒼空を背に肩を並べてはためいている。

 わざわざ朝早くからルギウスがテミスたちを訪ねてきたのも、旅程の確認や積み荷の最終チェックを兼て、この光景を見せる為だったらしい。


「……流石に、壮観だな」

「そうだね……」

「えぇ……」


 そんな光景を眺めながら、テミスが胸の内に沸いた感想を素直に零すと、傍らで肩を並べたルギウスとフリーディアが静かに首肯した。

 戦場へと赴くのではないため大した大所帯では無いが、それでも魔王軍に属する第五軍団と魔王軍と戦い続けて来た白翼騎士団、そして魔王軍を割って出た元第十三軍団である黒銀騎団が共に歩みを進める光景は、万の軍勢を前にした時にも勝る衝撃だろう。

 掲げられた旗の下では、ヴァルミンツヘイムへと向かう兵達がせわしなく動き回り、様々な荷物を馬車へと積み込んでいる。

 大所帯ではないとはいえ、三つの部隊の総員は大隊規模を優に越しており、道中の町にある宿で寝泊まりをするのは難しいだろう。

 はじめにルギウスから提案された計画では、闘技大会に出場する者達が優先的に宿を利用し、随伴の兵は野営をするというものであったが、テミスはそんな面倒な区別をするくらいならばいっそ、全員で野営をしてしまえばいいと一蹴したのだ。


「ときにルギウス。お前も招聘されているという事は出場するのだろう? 身体は大丈夫なのか? たかだか数か月で戦いに復帰できるほど優しく斬ってやった覚えは無いのだが?」

「っ……! テミス……貴女ねぇ……。幾らなんでも、もう少しまともな聞き方というものがあるでしょう……」


 日常の中に現れた僅かな非日常。

 周囲を歩く町の人々が、時に足を止め、時に歩きながら物珍し気に旅の準備を見物する傍らで、テミスはクスリと不敵な笑みを浮かべて素朴な質問をルギウスへと叩き付けた。

 その捉えようによっては礼を失しているにも程がある問いかけに、ピクリと眉を跳ねさせたフリーディアが、呆れたように溜息を吐きながらテミスを叱責する。


「ははっ……!! 構わないよ。実はこうして普通に過ごしている分には問題無いのだけれど、戦いの方はイルンジュ先生に厳しく禁じられていてね。だから僕は案内役さ」

「案内役……? ヴァルミンツヘイムまでの道程は知っているし、わざわざお前ほどの者を案内に付けるようなものでも無いと思うが……」

「テミス……貴女忘れているでしょう? 私達白翼騎士団は元より、魔王軍を抜けたあなた達だって少なからず恨みを買っているわ? そんな私達が、自分達だけでぞろぞろと魔王城を目指してみなさいよ、どうなるかくらい簡単に想像が付くわ」

「フム……? とはいえその程度の連中、露を払う事くらいさして問題あるまい?」

「あぁもう……駄目だわ……。貴女……本当に分かっていないときの顔じゃない……」


 テミスの問いに、明るい笑い声をあげながらルギウスが答えると、テミスは眉を顰めて首を傾げ、問いを重ねた。

 けれど、その問いは二人にとって酷く間の抜けた問いだったらしく、フリーディアは頭痛を堪えるかのように額を押さえて深々と溜息を吐き、ルギウスは楽し気にクスクスと笑い声を漏らしている。


「ふふふっ……! 君らしい考え方だね。でも、煩わしいかも知れないけど、どうか僕たちの同行を許して欲しい。闘技大会で戦う為とはいえ、君達は我々魔王軍が正式に招いた賓客さ。そんな賓客が道中……魔王領の中で襲われたなんて事になっては魔王様の沽券にかかわる」

「あぁ……そう言えばそうだったな。あまりにも気軽に誘いをかけてくるものだから失念していた……。ククッ……だからこその三連軍旗(コレ)……か。軍旗の予備を貸して欲しいと言われた時は何事かと思ったが、確かに言われてみればこれ以上の防犯(・・)はあるまい」


 穏やかに告げられたルギウスの答えに、テミスは腑に落ちたように頷くと、改めて馬車の上に掲げられた軍旗へと視線を向けた。

 黒銀騎団()白翼騎士団(フリーディア)だけでは、命を棄ててでもギルティアの目に留まろうと良からぬことを企む輩は出てくるだろう。

 だが、そこにギルティアの旗下である第五軍団が加われば、我々を襲う事そのものが魔王軍に弓引く事を意味する。

 更に、名誉だの出世だのに縁の無い野盗連中であっても、未だにロンヴァルディア最強と名高い白翼騎士団と、魔王軍の正規部隊である第五軍団、そして我々黒銀騎団を同時に相手取ろうなどと無謀な事を考える連中は居ない筈だ。

 つまり期せずして、ここに名実共に今この世で最も安全に旅をできる部隊が誕生したという事になる。


「その通り。さぁ、そうこうしている間に出発の準備も整いそうだ。君たちの支度が整い次第向かうとしよう」

「あぁ……了解した」

「わかったわ! じゃあテミス、ルギウスさんまた後で」


 そんな隊列に向かって、テミスたちはルギウスの号令を合図に解散すると、それぞれに割り当てられた馬車へ乗り込んでいったのだった。

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