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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1469話 月明かりの企み

 月明かりが照らし出すファントの町を一望できる黒銀騎団詰め所。その屋上に、白銀の髪が舞い踊る。

 吹き渡る冷涼な夜風が頬を掠めて行く度に、テミスは自らの思考が澄み渡っていくかのような爽やかさを覚えた。

 しかし、まるで何かを憂うかのように静やかな光を帯びた紅の瞳から憂慮を拭い去る程の威力は無く、月光を受けて輝く長い髪を弄ぶに留まった。


「…………。ふぅ……」


 夜半が近付いて尚、未だ賑わいの衰えぬ町を見下ろしながら、テミスは小さくため息を零すと、腰に佩いた刀の鞘に手首を番える。

 幾ばくの問題は孕んでいるものの、このファントの町で渦巻く難題は一通り決着がついたと言って良いだろう。

 ギルティア率いる魔王軍とロンヴァルディアの間に停戦は成り、北方ギルファーとの関係も良好。アリィとマリィの一件のような散発的な事件は兎も角、夥しい量の血が流れるような戦争は程遠いはずだ。


「平和……。あぁ、平和だ……」


 眼前に広がる穏やかな夜景を前に、テミスはぽつりと噛み締めるかのように呟きを漏らす。

 それは確かに、テミスが求め欲してきたものだ。

 この平穏を手に入れるために、戦いの中に身を投じ、血と溝泥の中を切り拓いてきた。

 だが……。


「フリーディア……」


 続いて口を突いて出たのは壊れた朋友の名だった。

 彼女の受けた傷は予想以上に深い。

 時が全てを解決してくれるだろうと思っていたが、トゥーアへの様子を鑑みるにどうやらそうではないらしい。

 心の深く刻まれた癒えぬ傷は膿み、腐れ、爛れていく。

 道を違え、自らが歩むべき先を見失ったフリーディアに、たとえその場凌ぎであろうとまた立ち上がる事ができるのなら……。そう考えて示した道はどうやら間違いだったらしい。


「やれやれ……全く、世話のかかる奴だ」


 そう独りごちりながらも、テミスは何処か楽しそうに微笑みを零し、今もこの町のどこかにいるであろうフリーディアを胸の中へと思い描いた。

 彼女はもう、再び己が力で歩き出そうとしている。今回の一件で、トゥーアを始末しようとした私を止め、新たな解決策を導き出したのが何よりの証拠だ。

 付き人という杖は最早その役を終え、フリーディアが再起するのを妨げる毒と化している。


「ククッ……悪いな、フリーディア。楽はさせんぞ? お前は私の配下ではない。並び立つ盟友(とも)なのだろう? いつまでも腑抜けさせておくものか……」


 テミスは喉を鳴らして悪どい笑みを浮かべると、低い声で不敵に呟いた。

 平和は素晴らしい。この温かく穏やかな安寧を浴するのも悪くは無いだろう。

 だがそこには、あの年がら年中喧しいお人好し(大馬鹿)が居なくては張り合いがない。


「……などと思ってしまう辺り、私も随分と毒されたものだな」


 兎も角、今のフリーディアをどうにかするには、平穏なファントでは少しばかり役不足だ。

 フリーディアが私の付き人という()へ逃げ込む余裕すら無い程に追い込んで、彼女自身の意志でかつての自分へと立ち返って貰う。

 そのために必要なのは波乱。それも、ただの波乱では無い。この平穏な町を脅かすような圧倒的な危機が必要だ。

 しかしその実、真なる危機が存在してはならず、加えて偽りの危険を住人に知られてもならない。


「やれやれ……偶には悪役も悪くはないかと思ったのだがな……。存外骨が折れる。あぁ……もう既に面倒臭くなってきた。アイツの為にやるのか? 私が? 冗談だろ……」


 盛大なぼやきと共に、テミスは前髪を掻き上げてガリガリと頭を掻き毟ると、再び深く溜息を吐いて肩を落とした。

 けれどその刹那。

 スタリと軽快な足音と共に、小さな影がテミスの背後に着地すると、コツコツと足音を鳴らして歩み寄りながら、ゆったりとした口調で口を開く。


「あら、ですがそう仰る割りには愉しそうではありませんか」

「フッ……そう見えるか? いや……お前が言うのならきっとそうなのだろうな、サキュド」

「えぇ……とっても。けれどこんな所で悪巧みだなんて、テミス様もお人が悪いです」

「元より、善く在ったつもりなど無いさ。善く在ろうとはしたがな」

「くふふ……またまた。アタシをご用命いただく辺り、テミス様も十分悪い子ですよ?」

「ハハッ……!! 悪い子……か。まぁ、お前を巻き込んだのは悪いと思っているよ。だが、私一人ではどうやっても限界がある」

「存じておりますとも。そんなテミス様に一つ……ちょうど朗報があるのです」


 まるで、スポットライトのように明るい月明りが照らし出す中。

 サキュドは言葉を交わしながらテミスの傍らまで歩み寄って膝を付くと、懐から一通の封書を取り出して、怪し気な笑みと共にテミスへと差し出したのだった。

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