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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1466話 掲げるは誇り、抉るは心

 アリィとマリィとの戦闘から数時間後。

 テミス達一行は場所を黒銀騎団の詰め所にある執務室へと移し、険しい表情で向かい合っていた。

 今回の騒動の下手人であるアリィとマリィの身柄は、既に黒銀騎団詰め所の地下に存在する特別監房に収められており、怒りに狂う彼女たちの気が収まり次第、取り調べ……否、尋問が行われる手はずとなっている。

 しかし、今テミスの目の前に居るのは、一度は敵と断じて刃を向け、命を奪わんとした男で。

 無論。互いに積み重ねた事情があったとはいえ、そんな間柄の者達が平然と言葉を躱す事ができる筈もなく、執務室の中は酷く重々しい沈黙に覆われていた。


「…………」

「……。っ……」

「えぇっ……と……」

「ッ……!」

「ン……ゴホンッ!!」


 本来であれば、今頃はフリーディアの発案した折衷案の詰め(・・)が行われるはずだったのだが、この部屋に戻るなり自らの席に腰を落ち着けたテミスは両肘を机についたまま一向に口を開く気配は無く、その前に立つトゥーアもまた緊張感を帯びた表情のまま口を真一文字に結んでいる。

 このままでは埒が明かない。と。

 状況を見かねたフリーディアが、苦笑いと共に口を開きかけるが、その刹那テミスは瞳だけを動かして傍らのフリーディアを鋭く睨み付け、同時にトゥーアも零れかけた言葉を制するように咳払いをした。

 両者の間に在るのは最早、見るに堪えない意地の張り合いで。

 それを正しく理解しているからこそ、フリーディアは深くため息をついた後、バシリと掌でテミスの机を叩いて声を上げた。


「二人共、いい加減にして下さい!! 今の私達に時間の制約はもうありません。互いに納得するまで、幾らでも話し合う時間はあるはずッ!!」

「…………。フン……」

「っ……!」

「テミス!! 刃を向けたのはやり過ぎだけれど、貴女の判断は正しいわ! けれど言葉を尽くさなくては、貴女がどれほどの呵責と共にそこへ至ったのかなんて誰にも分らないわよッ!?」

「ハン……語り聞かせたとてわかる訳があるまい。そも、聞く耳を持とうとして居らんのだ。そんなことよりもフリーディア、お前がさっさと話を纏めろ」

「テミス……!! 貴女ねぇッ……!!」


 しかし、テミスは鼻を鳴らしただけで応える事は無く、トゥーアもまた眉間に刻んだ皺をさらに深めただけで口を開く事は無い。

 それでも、フリーディアは諦める事無く、今度はテミスへと向き直って説得を続けると、ようやく口を開いたテミスから出てきたのは明確な拒絶の言葉だった。

 これでは逆効果だ。

 自らの背から感じるトゥーアの気配に危機感を募らせながら、フリーディアが声を荒げようとした時だった。


「結構。黙して語らぬというならば、こちらもあえて問いはしますまい。ですがいたく残念ではありますな。バルド様はその身を挺して我等ファントの民をお守りくださったというのに、後任である貴女は事態が窮すれば同胞であろうと刃を向けるときた」

「っ……!? トゥーア団長ッ!?」


 テミスと同じく口を噤んでいたトゥーアがは、刺々しい口調で口を開くと、冷たい視線をテミスへと向けながら叩き付けるように言葉を紡いだ。

 その言葉は、深く事情を知らないフリーディアであっても分かるほど、今のテミスへ向かって放つには危険が過ぎる口上で。

 案の定、テミスは自らの口元で組み合わせた手を、一見して分かるほどの力で握り締めながら、ギラリと収縮した瞳をトゥーアに向けて言葉を返す。


「貴様こそ。クソの役にも立たない誇りばかりブクブクと肥え太らせてよくぞ囀れたものだ。自身の名誉と引き換えに災いを町へ引き込もうと企む輩など、残しておく価値も無い」

「構いませんとも。先だって申し上げた通り、それが貴方の道だと仰るのであれば、そうして斬り捨てて進んでいかれるがよろしい。味方さえ居られぬ未来に、光明が差すとは思えませぬが」

「働き者の無能とは良く言ったものだな。予算を食い潰し、損害ばかり出す味方とは敵よりも厄介なものだな? 放置すれば内側から食い荒らされて腐り落ちる癖に、味方面をしているものだから排除するにも手間がかかる」


 互いに一線を踏み越えた舌戦は瞬く間に熱を増し、テミスとトゥーアは真っ向から睨み合いながら舌禍をまき散らした。

 それは最早議論と呼べるようなものではなく、ただ互いに相手の全てを否定し、拒絶する事だけに注力した心の抉り合いと化していた。


「ですから、幾度となく申し上げているではありませんか。斬り捨てていかれるがよろしいと」

「あぁ、ならば望み通りにしてやる。自警団は解体だ。この町に寄生し続ける過去の遺物など必要は――」

「――テミスッ!!!!」


 ドガンッ!!! と。

 絶叫と共にフリーディアの握り締めた拳が、荒々しい音を奏でてテミスの机を叩いたのは、白熱する舌戦にテミスが二度と取り返しの利かない最後の一線を越えかけた時だった。

 さながら抜き身の剣を構えているかの如き気迫と共に振るわれた拳に、さしもの二人も口論を止め、揃って視線をフリーディアへと向けている。


「テミス。貴女それ、本気で言っているの? それを口にしてしまえば最後、貴女が自警団を残し続けていた意味も、これまで積み重ねてきた苦悩も無駄になるわよ。いい加減に冷静になりなさい。それとも、胸の内を語るのがそんなに怖いのかしら?」

「っ……!! フリーディア……!!」

「トゥーア団長。貴方もです。幾らなんでも言葉が過ぎますよ。板挟みとなっている現状は私も理解していますが、そのようなやり方では何も解決しません」

「ムゥッ……!!」


 フリーディアはそんな二人の視線を受け止めたまま凛と背筋を伸ばして、トゥーアとテミスをそれぞれに見やると、ゆっくりと叩き込むように言葉を紡いだのだった。

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