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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1463話 敵討つ刃

 トゥーアがテミス達の戦いを見ていたのか、はたまたすべてが終わるのを見計らって出てきたのか。

 眼前の戦いに集中していたテミス達にとって、それは到底知り得ぬ事だった。

 だが、ただ一言放たれたトゥーアの言葉に、一瞬で頭の中が沸騰するかの如き怒りに駆られたテミスにとって、今はそんな事はどうでも良かった。


「ふざけた事など、何も申し上げては居りません。私はただ、定められた規則に則り、彼女達の身柄は我々自警団で拘束するとご報告しただけです」

「それをふざけた事だと言っているのだッ!! こいつ等の異様な力を見ただろう? いいや……たとえ見ていなくとも、この戦闘痕を見れば理解できるはずだッ!! 連中は私が直接尋問するッ!! ただの酔っぱらいや小銭をちょろまかそうとした小悪党とは違うんだぞッ!!」

「承知しておりますとも。ですが、平時における通用門での諍いは我々自警団の管轄のはず。ご助力には大変深く感謝いたしますが、下手人はこちらへお渡し頂かねば」

「くどいッ!! そもそも、貴様等自警団の設備ごときで捕らえ置けるような連中ではないわッ!! 力任せに牢を破られ、町に甚大な被害が出るのが目に見えているッ!!」


 気炎を上げて食って掛かるテミスに対し、トゥーアは穏やかな笑みさえ浮かべながら、朗々とした口調で言葉を返す。

 一見すれば、道理を弁えぬテミスが無理を押し通そうとしているようにも見えかねないが、その実内容は真逆だった。

 自警団はあくまでも町の治安を維持するための組織で、その業務に戦いを生業とする兵士や、冒険者将校などの相手は含まれては居ない。

 故に、治安を乱すと判断された者を拘束するための牢はあれど、せいぜいあるのは鉄の枷と格子程度が関の山で、黒銀騎団が有する牢獄のような強固な備えは無いのだ。


「しかし規則は規則。黒銀騎団(そちら)へお送りするか否かを判断する為にも、一度我等にお預けいただかねば困ります」

「必要無い。預ける事などできんと言っているのが解らんか?」

「とんでもございません。ですが、これ以上テミス様方のお手を煩わせてしまえば自警団の沽券に関わります。それに、彼女たちもきっとテミス様方に敗れ、心の底から敵わぬと思い知った事でしょう。ともすれば……」

「っ……!!! トゥーア、貴様……!!」


 アリィとマリィの実力を知るテミスとしては、彼女たちの身柄を自警団に預ける事は断じてできない。

 しかし、トゥーアは頑なに二人の身柄を自警団の元へ置く事に固執し、時に規則を盾に、時に心情へ訴えるように言葉を紡ぎ、テミスの決定に異を唱え続けていた。

 そんなトゥーアの異様とも言えるその拘りように、テミスは裏に在る腹案を察すると、小さく息を呑んでピクリと眉を跳ねさせた。


「どうかご理解を……頂けませんか?」

「っ……!!! 馬鹿がッ……!!」


 確かに、人手不足に嘆きながらも、誇りを捨て、自らの過ちを認める事ができない彼等にとって、彼女たちは降って湧いた一筋の希望なのだろう。

 だが、その希望が叶えられる事は永劫無い。彼が苦悩の果てに見出し、夢想した未来に繋がる事は決して無いのだ。

 剣を交えたからこそ、誰よりもそれを知っているテミスは、ぎしりと固く歯を食いしばりながら零すと、左手を静かに腰に提げた鞘へと番える。

 トゥーアにとって、今やアリィとマリィは決して諦めることの出来ない希望の鍵。

 如何に言葉を尽くそうとも、絶対に譲る事は無いだろう。

 しかし、その選択が破滅へと……この町に重大な災禍を引き起こすのならば。

 このファントの町を守る者として、テミスもまた決して譲る事はできなかった。

 なによりも、いつまでもこうモタモタと逡巡していては、折角倒したアリィとマリィが目覚めてしまう。

 そうなれば最後、手負いながらも抵抗する彼女たちを止める為には、今度こそ命を奪わなくてはならなくなる。

 それは即ち、彼女たちをこの町へとけしかけた何者かに繋がる、唯一の糸口を失うのと同義だ。


「っ……!!! 何故ですッ!? どうして解っていただけないのですかッ!! 我等自警団は、共にこの町を守ってきた同胞では無いのですかッ!? 時に苦境にあえぎながら、時に身を粉にして働いて……!! そんな我等に!! 座したまま死せとッ!!? 足掻く事さえも許さず、消えて失せろ言うのですかッ!!?」

「ッ……!!!!」


 トゥーアの悲痛な叫びが木霊すると同時に、テミスは口の中にじわりと血の味が広がっていくのを感じながら、固く拳を握り締める。

 何も思わないはずが無い。先代の軍団長であるバルドの遺した、この町を心から想う勇士達の団。それは、後からこの地に踏み入ってきた黒銀騎団(われわれ)にとって、旧十三軍団が引き上げた後もこの町を守り続けた尊敬すべき存在だ。

 だがそれでも。

 この町へ影を落とす存在と……『敵』となってしまうならば、斬って捨てる他に道は無い。


「……すまんな。私は、これしか知らんのだ」


 カチリ。と。

 テミスは食いしばった歯の隙間から呻くように呟きを漏らすと、鞘を握り締めた手に力を込めて、静かに刀の鯉口を切ったのだった。

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