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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1454話 捨てる者と拾う者

 夜の湿気を含んだ柔らかい朝の空気が消え去り、穏やかな光を放っていた太陽が天頂へ向けて登り始めた頃。

 テミスとフリーディアは朝の鍛練を切り上げて、執務室で書類仕事に励んでいた。

 ……とはいえ、ひと時たりともペンを止める事無く走らせ続けているのはフリーディアだけで、テミスは湯気の立つマグカップを傾けながら優雅に一息を吐き、マグヌスは茶器の片付けに勤しんでいる。

 尤も、テミスとマグヌスはまだ執務室に居るだけマシな方で、サキュドに至っては書類仕事に手を付ける事無く執務室から姿を消していた。


「テミス様。そう言えば先程、こちらの手紙が私の方の書類に紛れているのを見付けまして」

「フム……? どれ……差出人は……あぁ、ヴァルナ達か」


 ふと片付けの手を止めたマグヌスが懐から一通の封書を取り出すと、ゆったりとした足取りでテミスの席へと近付いて差し出した。

 それを受け取ったテミスは、淀みの無い動きで封を開けると、マグカップを片手にコーヒーを啜りながら、手紙の内容に目を通していく。


「どうやら、壮健にやっているらしい。クルヤの奴も、週に一度の奴等との面会で笑顔を覗かせるようになったそうだ」

「ほほぅ……やはり心を許した仲間の絆というものは強いものですな。我等とは言葉こそ交わすものの、彼が表情一つ変える事はありませぬ故」

「クク……それはそうだろうさ。我々は奴の自由を奪っている側の人間だ。いくら心を遣おうが、相対する者である本質に変わりはない」

「っ……ですが、それでは……」

「あぁ。クルヤの釈放はまだしばらくお預けだな。軍門に下れとまでは言わんが、友好的な意思を確認するまでは危険分子のままだ」

「……先は長そうですな」

「ま、良いんじゃないか? クルヤに関する諸経費は、幾らかではあるがヴァルナ達が稼いで持って来ているんだ。さほど手痛い支出ではあるまい」


 バリバリと働き続けるフリーディアを尻目に、テミスはまったりとリラックスした雰囲気すら漂わせながら、マグヌスと他愛も無い言葉を交わす。

 そんなテミスの机の端には、既に片付けられた書類の束が数束寄せられている。

 とは言っても、山のような量の書類を抱え込んでいるフリーディアに比べれば、テミスの机の上に置かれている書類など物の数と呼べるほど量は無いのだが。


「おいフリーディア。まだ終わらんのか? さっさと先程の鍛練の続きをしたいのだが?」

「っ~~~!! だったら手伝ってくれても良いんじゃないかしら!? 悪いけれど、貴女みたいに暇じゃないの! まだしばらくはかかるわよッ!?」

「絶対に嫌だ。だからいつも、何でもかんでもホイホイと引き受けて来るなと言っているだろうが。何の為に現場に裁量権を認めていると思っているんだ」


 まるで待ちくたびれたとでも言わんばかりに間延びした声でテミスが水を向けると、フリーディアは苛立ちの籠った声で言葉を返した。

 しかし、テミスはフリーディアの苛立ちをたった一言で拒絶する。


「その現場が困っているから!! こうして懸案事項として挙がってくるのでしょう!?」

「ハッ……馬鹿馬鹿しい。私達は便利屋ではないんだぞ?」

「あぁっ……!? テミスちょっと……!!」


 だが、フリーディアとて自らが必要であると判断して集めてきた仕事だ。

 テミスの物言いに堪りかねたといった様子で走らせていたペンをバシリと机に叩きつけると、積み上げた書類の山を示しながら気炎をあげた。

 けれどその言葉に、テミスは薄い笑みを浮かべながら立ち上がってフリーディアの机の傍らまで歩いて行くと、ちょうどフリーディアが書きかけていた書類を取り上げて鼻を鳴らす。


「見ろ。馬鹿馬鹿しい。自警団で雇った冒険者が使えないだぁ? 当り前だろうが。連中にとって警備や見回りなど門外漢の慣れん仕事なのだ。その文句を我々に垂れた所で、どう解決しろというのだ」

「フム……冒険者達に講習を施しますか? さすれば質は上がるかと」

「馬鹿を言うな。時間と労力と経費の無駄だ。育てた所でいつ何処かへと流れていくかもわからん冒険者にそんな事をする暇があれば、直接雇用した新兵にその労力をつぎ込む方がまだマシだ」

「っ……!! だったら……どうするのよ? 実際、自警団が機能しなくて困るのは私達よ?」

「放っておけ。連中の代わりなどお前の所の騎士連中で事足りている。もう少し追い込んでやれば、連中も少しは自分達が追い出した奴等に頭を下げる気になるだろうさ」

「そんな無責任なッ……!!」


 合理主義のテミスと極力下の者の意見を汲もうと奮闘するフリーディアが、激しく議論を戦わせ始める傍らで、マグヌスは慣れた様子で二人の側を離れると、手際よく新しい飲み物の準備を始めたのだった。

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