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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第24章

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1451話 避け得ぬ衝突

「この……大馬鹿がッ!! 素振りをしている最中に真正面へ躍り出るなど……斬り殺されたいのかッ!!」


 数秒の沈黙の後、驚愕を呑み込んだテミスの怒声がビリビリと空気を震わせた。

 鍛練の為の素振りとはいえ、今のテミスは白銀雪月花(この刀)に慣れる事を目的としているが故に、木剣ではなく真剣を振り回している。

 尤も、普段であっても扱う得物がブラックアダマンタイト製の大剣であるテミスは、その特異性から木剣を握る事は殆ど無いのだが。

 だが、フリーディアとてその事は知っている筈。

 だというのに、鍛練の途中で前へと割り込んで来るなど、余程腑抜けていたに違いない。


「ごめんなさいっ!! 本当に悪かったと思っているわ!! いつもの大剣を振っていなかったから、てっきり珍しく木剣で鍛練しているのかと思ったのよ」

「だからといって不用意に近づく奴があるか! たとえ木剣だろうと、頭にでも直撃すればただでは済むまいッ!!」

「それもわかっているわよ!! でも貴女しばらく動いていなかったじゃない! 構え稽古なら問題無いでしょう?」

「っ……!! ああ言えばこう言うッ……!! 素直に自分の非を認めんかッ!! どうしてお前はそういつもいつも口答えばかりするんだ!!」

「なっ……!! 私は謝ったじゃない!! それに今は以前の事は関係無いでしょう!? 私が貴女を注意するのは、いつだってテミスがダラダラと怠惰だからでッ!」

「それが間違いだと言っているのだ!! お前にも自身のやり方があるように、私には私のやり方がある! いちいちお前の考えを押し付けて来るな!!」

「押し付けてなんかいないわよ!! 貴女の行動が誰の目から見ても目に余るくらいだらけているから、私は言わざるを得ないだけじゃない!! あんな姿、誰かに見られでもしたら士気に関わるわっ!?」


 しかし、最初は真っ先に謝罪を口にしたフリーディアであったが、怒り心頭であったテミスが重ねて責を問い始めるとフリーディアもそれに応じ、瞬く間に激しい口論へと発展してしまう。

 口論は加速度的に熱が籠っていき、その内容もいつの間にか全く別の内容へとすり替わっていた。

 だが、完全に頭に血の昇った二人がその事実に気付く事は無く、互いに顔を真っ赤にしてしばらくの間怒鳴り合った後、テミスが突然腰に提げていた刀を鞘ごと抜き取り、フリーディアへと突き付けて口を開く。


「……吠えたなフリーディア。私にお前のように、涙ぐましい努力を部下達に晒しながら駆けずり回れと? 馬鹿を言うなよ。わざわざ恥を晒してどうする。口で言ってわからんのならば、こちら(・・・)でわからせてやろう」

「っ……!! 皆の手本となり、規範を示すのも上に立つ者の勤めよ。それがどうやってもわからないと言うのなら、受けて立つわッ!!」


 皮肉がふんだんに込められたテミスの挑発に、フリーディアはピクリと眉を跳ねさせると、自らも腰に提げていた剣を抜き取って掲げ、叫びを上げる。

 テミスもフリーディアも、既に口論の発端となった出来事など忘れ、互いに自らの正しさを証明する事しか頭に無かった。

 だからこそ、互いが決して主張を曲げる事が無いと理解しているが故に、テミスとフリーディアはこんな決闘紛いの方法での決着を選んだのだ。


「いい機会だわ。テミス……私が勝ったら、仕事を投げ出して何処かへ行くのも、いつまでも書類に手を付けずにダラダラとコーヒーを飲んで机に突っ伏しているのも禁止よ! もっとテキパキと……規律を持って動いて貰うわ!!」

「良いだろう。ならば私が勝った暁には、私の受け持っている分の仕事は全てお前がこなせ。近頃はお前がホイホイと何でも気軽に引き受けてくる所為で、余分な仕事が増えて仕方が無いんだッ!!」

「わかったわ。やってやろうじゃない!! 貴女を矯正する為だもの……それくらいの危難乗り越えてみせるわ!!」


 二人はまるで示し合わせたかのように同時に身を翻して歩き始めると、互いの間合いが重ならない程度の距離で立ち止まる。

 そして、フリーディアは自らの腰へと戻した剣を抜き放って構え、テミスは腰に収めた刀の柄へと手を番えてから、それぞれに相手への要求を宣言した。


「それよりも……テミス、今日は珍しい剣を提げているみたいだけれど、いつもの大剣を取りに行かなくても良いのかしら? 言っておくけれど、慣れない武器だからといって手加減はしないわよ?」

「ハッ……一丁前に挑発のつもりか? 自惚れるなよ? 殺し合いならば兎も角、お前との手合わせ程度にあの大剣は役が過ぎているわッ!!」


 その後、いつまで経っても刀を抜かないテミスに、フリーディアはクスリと笑みを浮かべると、不敵な笑みを浮かべてテミスへと問いかける。

 そんなフリーディアに、テミスは吐き捨てるように言葉を返してから、キチリと静かに刀の鯉口を切ったのだった。

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