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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1446話 別たれた想い

 迷惑な話だ……。と。

 テミスは心中を隠す事無く態度で表しながら、再度胸の中でもひとりごちる。

 そもそも、最初からこちらにはクルヤを殺す気など無いというのに。こんな風に懇願されてしまえば、それに類する何かを課さなければならなくなる。

 確かに、今回の騒動を引き起こしたという点においては、クルヤ達には逃れ得ぬ責任があるだろう。

 だが、その責を負う為に自ら死を願うなど言語道断だ。決して超えてはならぬ一線を越え、取り返しの付かない段階まで事が及んでしまったのならば兎も角、そうでもない癖に命を差し出して許しを請うのはただの逃避でしかない。

 だいいち、生首を三つ並べたとて何の得がある? 否……それどころかこいつ等に至っては、首を切り落としたとて御首級すら遺らんではないか。

 そう密かにかつ盛大に苛立ちの籠った愚痴を垂れ流すと、テミスは頭を垂れ続ける三人へと視線を向けて静かに口を開いた。


「……断る」

「っ……!! そこを何とかッ……!! クルヤは……彼だけはどうかッ……!!」

「クルヤまで居なくなったら、シェナの保護者が居なくなる。あの子は……あの子だけは私達と違って、生きているから」

「ほぅ……? だが私の答えは変わらん。お前達の命など要るかッ!! 斬って捨てたとてさしたる得も無いというのに、何故わざわざそんな面倒なことをせねばならんのだ。自殺をするのならば、町の外で勝手に野垂れ死んで居ろ」

「なっ……!!?」

「え……?」


 テミスの答えに、ヴァルナとロノは頭を下げた格好のまま必死で食い下がるが、テミスは構わす強引に言葉を続けた。

 しかし、それは二人にとって予想だにしないほど意外な言葉であったらしく、ヴァルナとロノは目をパチパチと瞬かせながら顔を上げると、お互いに視線を合わせた後、再びぽかんとした表情を浮かべてテミスを見上げる。


「無論。責を問わん訳ではない。許して解放したところで、永遠と食いついて来られても困るからな。クルヤの身柄はこちらで預からせて貰うが、決して命は奪わんと約束しよう」

「だ……だがそれではっ……!!」

「私達が……クルヤを奪い返しに行くとは思わないの……?」


 ヴァルナとロノは呆然とした表情のまま口を開くと、不敵な微笑みを浮かべるテミスへと問いを重ねた。


「その時は、改めてお前達を判ずるまでだ。クルヤは牢には繋ぐが、様子を見て時折の面会程度ならば許してやろう。その間お前達がこの町に留まり、冒険者として活動するのも止めはしまい。ま……私の決定に従うか、それとも自由を求めて戦うかは好きに選ぶが良い」

「テミス……!!!」


 ぶっきらぼうにそう告げてやると、それまで黙って成り行きを見守っていたフリーディアが、感極まったかのような声でテミスの名を呼んだ。

 その声にふと視線を向けてみれば、胸の前で祈るように握り締められた両手には力が籠っており、目には今にも零れんばかりの涙が溜まっている。

 思えば確かに、誰も命を落とす事無く幕を引いた今回の決定は、フリーディアが好みそうな結末ではある。

 だがテミスとしては、あくまでも今回の一件では、クルヤ達が命を以て償う程の悪行を重ねていなかったというだけで、そんな親が成長した子供へと向けるような視線を向けられるような謂れは無いのだが。


「はぁ……。今度はそっちか……オイ、良いか? 勘違いするなよフリーディア」


 ここは一つ、認識の違いをしっかりと正しておかないと後々面倒な事になる。

 そう判断したテミスが、うんざりとした表情を浮かべながら、話の矛先をフリーディアへと向けた時だった。


「なんだ……。殺してすらくれないというのか」


 ぽつり。と。

 場が丸く収まりかけていた所に、どこか投げやりな感情が籠った特大の爆弾発言が投下され、ぴしりと空気が凍り付く。

 その声が発せられたのはテミスの眼前にして、安堵に胸を撫で下ろしているヴァルナとロノの隣からで。

 そこには、全身から濃厚に『死』の香りを漂わせたイメルダが、薄い笑みを浮かべてテミスを見上げていた。


「ちょっ……!? 貴女何を言っているのッ……!?」

「ハハ……何をだって? 決まっているじゃないか。偽物の命に偽りの記憶。私はもう死んでいるのだろう? だったらこの私は何なんだッ!? 一人だけ真実を知らされる事も無くッ……!! 幸せに生きたいなどと……馬鹿みたいじゃないか……!!!」


 瞬時に異変を察知したフリーディアが鋭く制止の声を上げるも、その声がイメルダに届く事は無く、悲痛な叫びがテミスへ向けて放たれる。

 瞬間。酷く悲し気に表情を歪めたヴァルナとロノは、苦痛を堪えるかの如く唇を噛み締めて視線を地面へと落としていて。


「…………」


 そんな三人を前にテミスは、言葉を発する事無く地面に突き立て、身体を預けていた大剣を抜き放つと、ゆらりと肩に担ぎあげたのだった。

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