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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1443話 孤独な救世主

 テミスは滅茶苦茶な剣筋で繰り出されるクルヤの攻撃を易々といなしながら、反撃を加える事無くひたすらに後退を続けていた。

 その理由はただ一つ。

 共に居たフリーディア、そしてイメルダから距離を取る為。

 しかし、剣戟を受け続けてはや数分。既にフリーディア達の姿は遠く離れ、テミスの足元にぽつぽつと中途半端に敷かれた石畳が混じり始める。


「……おい。そろそろ良いだろう。これだけ距離を取れば邪魔は入らん」

「っ……!!」


 これ以上退けば、ファントの町の中心部へと続く道へ入ってしまい、騒ぎが拡大する可能性があるだろう。

 クルヤの剣を捌き切りながら冷静にそう判断したテミスは、後退する足を止めて静かにそう口を開いた。


「どうせ()を使う気なのだろう? そう警戒するな。どうせ既に察しているだろうが、私もお前の同類(・・)だ。その一点のみに関しては、我々の利害は一致するはず」

「…………。そうかよ。やっぱりか。月光斬……あの技は俺も知っている。この世界に来る前は、あの漫画は俺も読んでいたからな」

「クス……。それで? 同郷の馴染みだ。憎しみを捨て去れとまでは言わんが、剣を退くという選択肢は無いのか?」

「無い。俺には背負った責任がある。アンタがこの町を守っているのと同じようにな」

「……そうか」


 テミスは、自らの問いにクルヤが並々ならぬ決意を漲らせた表情で答えるのを見ると、早々に説得を諦めて大剣を肩へと担ぎ上げる。

 詳細は知らない。だがどうやら、この無意味な争いは避ける事ができないらしい。

 ならば、可能な限り早く、可能な限り被害を出さずに終わらせるべきだろう。


「……見せてやるぜ。確かに俺のチカラは戦いに向いちゃいない。ヒトを一人作り出すのにだって、核となる触媒(・・)が必要だ。けどな……!!」

「っ……!!」


 不敵な笑みを浮かべたクルヤは、テミスを見据えてそう宣言しながら携えていた剣を持ち上げると、突如その切っ先を己の胸へと向け、ドズリとそのまま貫いてみせた。

 そして、胸から噴き出す血潮と共にぞろりと剣を傷口から引き抜くと、今度は手刀を形作った左手を胸元へと添え、自ら傷口を抉りはじめた。


「ゴフッ……!! そう……驚くなよ……。そうさ……俺のチカラはヒトをつくる力。ヴァルナやロノみたいに完全に人格や実力を再現する為には、より命に近いパーツが必要となるが……自分自身の物なら用意するのは簡単だッ!!」

「やはり……。もしや……とは思ったが、ヴァルナだけではなくあの魔法使い……ロノもか」

「そうさ。アイツは俺が初めて駆り出された戦場で死んでいた魔族だ。ヴァルナは、あのクソ豚野郎に嬲り抜かれて、俺がアイツの所へ辿り着いた時にはもう手遅れで……俺の腕の中で、妹の事を託して死んでいったッ!!」

「…………」

「だから俺には……アイツ等を創り出しちまった俺には、あいつ等を幸せにしてやらなきゃいけない責任があるんだよッ!!! だってそうだろッ!? あんなに苦しい思いをしたんだッ! あんなに辛い思いをしたんだッ!! せっかくの二度目の人生なら、その分楽しく幸せに生きなきゃ駄目だろうッ!!!」


 ビキビキ、ミシミシと。

 クルヤは自らの身体を作り変えながら、血反吐を吐くように叫びを上げる。

 そこには、彼がこれまで独り抱え込んで来た、力の責任という名の途方もない重荷が籠っていて。

 彼が悩み、苦しみ抜いた証である絶叫を聞きながら、テミスはただ言葉を返す事無く、彼が自らを創り変えるのを待っていた。


「俺は卑怯な人間だ……!! 寂しさに負けてロノを創って、自分の目の前で誰かが死ぬことに耐えられなくてヴァルナを、自分が人を殺してしまった事が怖くてイメルダを創った。そして今、皆を幸せにするためにアンタを殺すッ!! 安心してくれ……殺してもすぐに俺の力で作り変えて……アンタも幸せにしてみせるからッ!!」

「フッ……。哀れな奴だ。だが安心しろ。お前が抱え続けた苦しみは……悩みは今日私がこの手で終わらせてやろうッ!!」


 止まる事の無い独白と共に、クルヤは己の身体をみるみるうちに作り変え、筋骨隆々の大男へと姿を変えていく。

 そして携えていた剣が、短剣に見えてしまうほどの巨躯に変貌すると、胸へと突き立てていた手をずぶりと引き抜き、血濡れた手でテミスを指差しながら叫びを上げる。

 そんなクルヤ咆哮を前にテミスは悠然と微笑むと、クルヤの叫びに応ずるかように高らかに声を上げ、肩に担ぎあげていた大剣を構えたのだった。

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