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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1430話 清き策略

 夜の闇が包み込む街路。

 主要街区から外れているが故に広い道幅は皮肉にも、戦場として十分な機能を備えていた。

 そんな街路の真ん中を、テミス達は敵が潜伏していると目されている孤児院へと向かって慎重に歩を進めていく。

 それを迎え撃つように相対するは、闇の中に薄っすらと浮かび上がる四つの人影。

 窓から薄明かりの漏れる孤児院を背に立ちはだかる彼等は、まるでこれから攻め込まんとするテミス達を出迎えているかのようで。

 先頭を歩むテミスは、闇を透かし見るかの如く待ち構えている人影を睨み付けると、皮肉気にクスリと笑みを零した。


「ハッ……もしやと疑ってはいたが……。相変わらず主役気取りだな……クルヤッ!」

「そう言う君は、まるで悪の王だ。自覚しているかい? その真っ黒な甲冑に皮肉気な笑み。とても正しい行いを成している者には見えないよ」

「戯れ言だな。外面などどうでもいい事だ。そも、私は自分を正しき者だなどと驕るつもりは無い。ただ、平穏を脅かす悪逆の畜生共を始末するのみ」

「その為なら犠牲は厭わないと? それとも、ここに居る皆が寄る辺の無い孤児だからかい? どちらにしても酷い話だね。とても許してはおけない」

「カッ……。どの口が囀るか。先に仕掛けてきたのはお前達だ。端っから狂信者共と会話が成立するなどとは思っちゃいない。捻り潰させて貰うぞ」


 テミスはクルヤ達から少し距離を置いた位置で立ち止まると、吐き捨てるような笑みと共に口を開いた。

 その挑発するかのようなテミスの言葉に、クルヤが涼しい笑みを浮かべたまま言葉を返すと、これから始まるであろう戦いの前哨戦とばかりに舌戦が繰り広げられる。

 だが、まるで殴り合うかの如く自らの主張のみを叩きつけ合う二人の言葉の応酬は、舌戦や口論と称するにはあまりに独りよがりで。

 互いにそれを自覚しているが故にか、テミス達は早々に言葉をぶつけ合う事を放棄すると、互いに臨戦態勢を取る。


「待った。僕たちが解り合えないのは百も承知だ。けれど一つだけ。シェナを含め、この孤児院の皆や町の人たちには手を出さないで欲しい。ここの皆はただ、僕たちに身体を休める場所を貸してくれていただけなんだ」


 しかし、向かい合った両陣営の緊張が限界へと達する前に、クルヤは厳かな声色で状況に制止をかけると、真っ直ぐにテミス達の目を見据えてそう求めた。

 その何処か気高ささえ感じさせる姿は、まるで本当に戦う力の無い人々の身を案じているかのようで。

 予想だにしていなかったクルヤの提案に、テミスは己の背へ強い感情の籠った視線が突き刺さるのを感じながら、唇を吊り上げて言葉を返す。


「ククッ……。なるほど……考えたな? 町の住人の安全を盾に取れば、我々に否やは無い。そうしておいて孤児院や民家を背にして戦えば私の月光斬を封じる事ができる。小賢しいが悪く無い……効果的な案だ」

「っ……!」

「……!」

「…………。違う……と言っても信じてはくれないのだろうね。この提案を呑んでくれるのなら、場所を変えても構わないけれど?」

「こちらの攻め手を削げんと察するや否や次は伏兵か? はてさて……一体今度は誰が出て来ることか……」


 あくまでも戦略的に、感情を廃して話を進めるテミスに、クルヤは酷く悲し気に表情を歪めると、少し声を沈ませて問いを重ねる。

 だが、テミスはその問いにすら皮肉気に頬を歪めて応じ、欠片たりともクルヤの言葉に耳を傾ける事は無かった。

 そんなテミスに、クルヤの傍らでは今すぐにでも殺してやるとでも言わんばかりに、彼の仲間達が濃密な殺意を向けていた。


「クス……だが、まぁ良かろう。元より月光斬は町中で放つには威力が高すぎる。望み通り、私は月光斬抜きで戦ってやる。孤児院の者達や町の住人は……こちらにも喧しいのが居るのでな。心配はするな」

「……ありがとう。お礼を言った所で、君には皮肉としか聞こえないのだろうけれど。これで心置きなく戦える」

「ッ……!!」


 この問答にどんな意図があろうと、作戦に変更はない。

 事実。少し開けているとはいえ、こんな建物の密集している場所で月光斬など撃てば、無関係な町の住人に被害が出るのは確実だ。

 ならば、クルヤの提案を受け入れたところでこちらの制約は変わらない。

 そう判断したテミスは、不敵な笑みを浮かべたままクルヤの提案に小さく頷きを返し、抜き放った大剣を肩に担ぐ。

 すると、それに応じるようにクルヤが静やかな笑みを浮かべたままテミスへと頭を下げると同時に、武器を構えたイメルダとヴァルナが前へと進み出た。


 ――問答はお終い。

 クルヤの言葉を最後に口を噤んだ彼等の態度が、何よりも声高にそれを物語っていて。


「やれやれ……漸くか……」


 急速に高まっていく緊張感を前に、テミスは熱の籠った溜息と共に言葉を零すと、肩を並べる仲間達と共に武器を構えたのだった。

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