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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1429話 明日への生贄

 誰もが寝静まった夜の闇の中を、ガシャガシャと駆け抜ける甲冑の音が響き渡る。

 天頂には、静まり返った町を煌々と照らす満月が、雲一つ無い夜天にのんびりと浮かんでいた。


「……」


 そんな暗闇に溶け込むような漆黒の甲冑を着込んだテミスは、商街区の端でピタリと足を止めると、その先に広がる簡素な街並みを見据えて目を細める。

 ここから先はいわば、敵の庭先のようなものだ。もしも、連中が警戒態勢を敷いていたとしたら、迂闊に踏み込めば即座に奇襲を受ける羽目になるだろう。もしくは、こちらの立場を利用して孤児院の者達を人質に取り、無茶な要求を吹っ掛けてくる可能性もある。

 故に極力目立たず、しかし迅速に目標である孤児院へと接近し、可能ならば敵方が体勢を整える前に一気呵成に倒してしまいたい所だ。


「サキュド。先行して偵察を。決して先走るなよ」

「了解ですッ!」


 街路の端に身を寄せたテミスが、背後に続く人影の一人へと声を掛けると、名を呼ばれたサキュドは不敵な笑みと共に空中へと身を躍らせ、闇夜の中へと姿を消した。

 その後ろには、今回の作戦を実行するにあたって抜擢されたヴァイセと、酷く不満気な感情を滲ませるフリーディアが、揃ってテミスへと視線を向けていた。


「……。ハァ……ったく……。ヴァイセ。周辺警戒を任せる。私は……仕方が無い。駄々っ子の相手だ」

「ハッ……! ですがくれぐれも、大声だけは出さないで下さいよ? 警戒の仕事が牽制に変わっちまいます」

「解っているさ。流石にそこまで馬鹿では無いさ。私もコイツもな」


 そんなフリーディアにチラリと視線を送ったテミスが、小さく溜息を吐きながら指示を出すと、ヴァイセは悪戯っぽい笑みと共に皮肉を返すと、ゆっくりとした足取りでテミスたちの元から離れていく。

 そうして呆れたような絵微笑みを浮かべるテミスの前には、何処か拗ねたかのように黙り込んだフリーディアだけが残された。


「不満があるのならば先に聞いておこう。じきに行動開始だ。鉄火場で勝手な真似をされては命に関わる」

「っ……。貴女の説明は理解しているわ。けれど、こんな風に夜襲をかけるなんて……まるで戦争じゃない。ここはファントの町の中なのよ?」

「だからこそ。だ。戦いが長引けば長引くほど被害は拡大する。初撃を以て全力で鎮圧する必要がある」

「……その相手だって、私達が護るべきファントの一員だわ。作戦として貴女の主張が最善なのは私もわかっている……けれど……」

「やれやれ……。お優しい事だ。どうせ、もしも孤児院の連中が何も知らなかったら……だとか、敵に交渉する余地があったのなら……だとか考えているのだろう?」

「っ……」


 視線を合わせようとしないフリーディアにテミスが話を切り出すと、フリーディアは歯切れ悪くゆっくりと自らの主張を述べ始める。

 だが、フリーディアの語るそれはあくまでも理想的な可能性の話で。確かにあり得ないと切って捨てるのは冷酷な判断に映るかもしれないが、失敗した時のリスクを考えると、到底取り得る手段ではなかった。

 それを理解しているからこそ、テミスは片方の眉を吊り上げて深い溜息を吐くと、憐れみを帯びた目でフリーディアを眺めながら口を開く。


「悪い事は言わん。今回に限っては、奴等を人間として見るな。人の言葉を解す獣だと理解しろ」

「なっ……!! そんな事ッ……!!」

「焦るな。ちゃんと説明してやる。いいか? 盲目な信仰というものが、時に認知すら歪めるのはお前も理解しているだろう?」

「っ……えぇ……。けれど、時間をかけて話し合えば、分かり合う事だってできるわ?」

「……そうかもしれないな。だが、分かり合う事ができなかったら? その時連中がどのような手段に打って出るか……想像できないお前ではあるまい?」


 執務室での作戦会議の時、少々強引に説き伏せたせいだろう。フリーディアはきっと、頭では目の前の現実を理解していても、感情がそれを許していないのだ。

 だからこそ、テミスはフリーディアの胸の中で絡まりあった複雑な思いを解きほぐすように、ゆったりとした口調で根気よく語り聞かせた。

 尤も、これはあくまでも思考誘導のような物で。戦力と状況が許すのならば、フリーディアの主張するような手段を取るべきなのだろうが。


「こちらがいくら正論を解いた所で、連中の中で我々が誅すべき悪であると定められている以上、一生話が噛み合う事は無いだろうさ。ならば、我々がしてやれることは一つしかあるまい? お前が私や、アリーシャのような周囲の者達に襲われ続けろと言うのならば話は別だが」

「っ……!!! わかったわよ!! 貴女がこんなに用心をする相手だもの、勝手な真似はしない……。私だって、アリーシャたちを危険な目に遭わせたくはないッ!!」


 テミスが一気に畳みかけるようにそう説き伏せると、フリーディアは揺れながらもしっかりと決意を口にした。

 アリーシャ達を引き合いに出すのは少々卑怯にも思えたが、今はフリーディアに心を決めさせることが優先だ。如何に博愛主義のフリーディアといえど、近しい顔見知りの者と見ず知らずの他人を天秤にかけさせてやれば、どちらを選ぶかは火を見るよりも明らかだ。

 しかしこれも、フリーディアの事を考えるのならば、避けるべき諭し方ではあるのだろう。


「…………」


 すまないな。いずれ、この埋め合わせは必ず。

 決意を胸に、鋭い視線を闇の向こうへと向けるフリーディアの傍らで、テミスが心の中でそう呟いた時だった。


「テミス様ッ……!! 敵戦力と思わしき者達を確認しました。数は四。ですが、まるで我々を待ち構えるかのように、建物から打って出てきていますッ!!」

「なにっ……!?」


 暗闇の中から湧き出るようにサキュドが姿を表すと、軽快な音と共に地面に着地すると共に、早口で報告を告げたのだった。

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