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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1427話 策謀の帰路

「……一度戻るぞ。フリーディア」


 コツリ、コツリと足音を響かせながら去っていくアレックスたちの背を見送った後、テミスは静かに口を開いた。

 死者を蘇らせ、他者を模した人間を創造するなど、明らかにヒトの出来得る領分を越えている。

 だが、ただヒトの域を越えているというだけならば、長い研究と研鑽の果てか、はたまた類稀なる才能と偶然の産物か。こと魔法という物理を無視した理の存在するこの世界では、それらの積み重ねが理を凌駕する事もあるやもしれない。

 しかし、人知を超えた存在が何某かの目的を持ち、このファントを……否。私を狙ったというのならば話は別だ。

 あの夜も、途中でフリーディアが乱入してきたとはいえ、あの偽物の標的は間違いなく私の命だった。

 ならば、色濃く浮上するのは一つの存在。


「ッ……!!! また貴様か……ッ!! 女神モドキッ……!!!」


 テミスは忌々し気に呟きを漏らすと、ギシリと固く拳を握り締めた。

 以前、この町に戦いを仕掛けてきたあの男……サージルがそうであったように、あの女神モドキは自らの意に反して動く私を敵と定めたらしく、時折身勝手極まる神託を下しては、尖兵を差し向けてくれているらしい。

 状況から推察するに、恐らくは今回も出所は同じだろう。

 だからといって、元凶たるあの女神モドキがこの世界のどこに潜んでいるかなど知る術は無く、こうして一方的に攻め入ってくる尖兵を退ける事しか出来ない訳だが。


「ハ……。尤も、探したところでこの世界にすら居ない可能性の方が高いがな……」


 フリーディアを伴って踵を返しながら、テミスは皮肉気な笑みを浮かべてひとりごちる。

 たった一度だけ奴と相まみえたあの時。あそこはとても現実とは思えない不可思議な空間だった。

 今も尚、奴があの空間に居座っているのだとしたら、たとえ百万の軍勢を率いたとしても、奴に傷一つ付ける事はできないだろう。


「あ~あ……ったく、面倒な連中だ……」


 テミスは心底嫌気がさしたといった風体を隠す事すらせずに深くため息を吐くと、ガリガリと乱暴に髪を掻き毟りながら、荒々しく文句を零した。

 ああいった手合いは、自分が神に選ばれた絶対的な善であると信じて疑わないため、まずもって会話というものが成立しない。

 そもそも、常識や良識といった価値観を共有すべき物差しからして狂っているのだから、たちが悪いことこの上ないのは間違い無いだろう。

 そういう意味合いでは、剣を交えるより先に平和的に解決を模索しようとする超ド級のお人好しであるフリーディアとは、相性が最悪であるのは間違いない。


「そうよね……。まずは孤児院の人たちに被害が出ないようにしないと……。何者が潜んでいるのかは分からないけれど、まずは孤児院の関係者に協力を取り付ける所からよね」

「…………。クス……」


 しかし、そんなテミスの内心など露ほども知らぬフリーディアは、テミスの後に続きながら自分なりの意見をまとめているのか、真剣な表情でブツブツと呟きを漏らしている。

 まったくもって、真面目で、清廉潔白で、他人を思いやる心に満ち溢れた人格者だことだ。

 思案を巡らせるフリーディアにチラリと視線を走らせたテミスは小さく笑みを零すと、胸の中でため息とともに皮肉を漏らした。

 特殊な事情が絡まない平時であれば、少し甘すぎる所を除けば、フリーディアほど善き為政者は居ないのだろう。

 だからこそテミスも、平時におけるファントの執務はよくフリーディアに任せて姿をくらますし、それが最善であるとさえ思っている。

 だが……こと悪意や害意においてはこちらの領分だ。甘すぎるフリーディアの考え方では付け入られる隙が生じるし、町を守るための戦いではその隙が甚大な被害を生みかねない。


「…………」


 なればこそ、まずはこのどうしようもないお人好しを説き伏せ、敵に反撃や遁走の暇を与えずに、一気に殲滅する事に同意させなければならない。

 加えて、相手が転生者である可能性の高い今回の戦いに参加させられるのは、最低でも軍団長クラスの戦力を持った者だけだろう。そうでなくては、無駄に被害を増やすだけの結果となる。

 だとすると、こちらから動かせるのは私とフリーディア、あとはヴァイセにサキュドくらいだろうか。


「……だとすると、まずは避難を受け入れる建物が必要よね。私たちの宿舎にそんな余裕はないし、そうだわ……! 獣王の館を借りる事はできないかしら……。最悪の場合、野営の道具を使って詰め所の中庭に泊まって貰うかだけれど、そうすると食事の手配やお風呂は……」


 先を歩くテミスが、頭の中で戦略を組み立てていく一方で、後に続くフリーディアは顔を顰めながら既に住民の保護に頭を悩ませているらしい。

 テミスとしては、既に孤児院の者達は敵方の手の内に堕ちているものと見て、協力や自主的な避難を呼びかける相手ではなく、救援すべき対象と見做すべきだと考えているのだが……。


「フ……これはまた、説き伏せるのに骨が折れそうだ……」


 そんな、『平和な策』をいたく真面目に考え続けるフリーディアに、テミスは肩を竦めて笑みを零した後、小さな声でそう嘯いたのだった。

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