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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1414話 ただ信じた友の為に

 コツリ……ズルリ……と。

 薄暗い詰め所の廊下に、何かが擦れ、引き摺られるかのような不気味な音が響く。

 音が響いているのはちょうど、執務室のある二階へと繋がる階段のある場所で。

 加えて、もしもこの場に鼻の利く者が居たのならば、濃密な血の匂いを嗅ぎ取っていた事だろう。


「コホッ……カハッ……ッ……ゥ……クソッ……!!」

「ちょっと……!! テミス……本当に大丈夫なんでしょうね? 気付いているかどうか知らないけれど貴女……さっきからもうほとんど自分で立っていないわよ?」

「解って……いるさ……ッ!! だから急げ。私の命が尽きる前に」

「なっ……!! 聞いてないわよそんな事ッ!! ッ……!! 少し痛むかもしれないわよっ!! 向かう先は……執務室で良いのよねッ!?」


 そんな暗闇の中で、フリーディアはテミスとボソボソと言葉を交わした後、焦燥と怒りに任せて、テミスの腕を力強く引き寄せると、その身体を担ぐようにして足を速めた。

 同時に、暗闇に響く音は鈍重な一つの足音へと変わり、その音に混じって荒い息を漏らしながら、フリーディアは背に担いだテミスへと問いかける。


「いや……なるべく人目に付きたくない。そう……だな……三階の物置が良い……」

「っ……!!! この期に及んでもう一階分階段を登れと? いいわ……!! やってやるわよッ!!」


 自らの背中から帰ってきた予想外の答えに、フリーディアはギシリと固く歯を食いしばるも、ギラリと目を見開いて歩を進めた。

 だが、流石のフリーディアといえど、力の抜けた人間一人を背負って進むのは容易い事ではなく、壁に手を這わせ、一歩また一歩としっかり床を踏みしめながら、三階へと延びた目的地を目指した。


「くっ……。っ……!? きゃッ……!? な……何よコレ……!? びっくりした……」

「……? どう……した……? 何が……」

「何でもないわよ!! 貴女は無駄に喋らないッ!! 少しでも体力を温存しなさい!」


 しかし、ちょうど踊場へと差し掛かった辺りで、フリーディアは壁に這わせた自らの手が、ある筈の無い感触に襲われて小さく悲鳴をあげた。

 違和感を確かめるために壁に視線を向けると、そこにはある筈の無い滑らかな穴が数個穿たれており、つるりとした触感と予想外の引っ掛かりが正体を現している。

 詰め所の壁に、こんな傷などある筈がない。

 頭ではそう理解しながらも、フリーディアは傷付いたテミスの移送という眼前に逼迫した問題を優先する為に、無理矢理に頭の隅へと追いやって歩みを続けた。


「ッ……!!! フゥッ……!! ハァッ……!!! ハァッ……!!!! あと……少しッ……!!」


 ドスリ。と。

 フリーディアは鍛え上げられた彼女の健脚からは予想だに出来ない重たい音を響かせて二階へと辿り着くと、荒い呼吸を繰り返しながらさらに上へと続く階段へ目を向け、自らを鼓舞するかのようにひとりごちる。

 その額には球となった汗が幾つも浮かび、口から吐き出される荒い息は凄まじい熱気を帯びていた。

 しかし、それも無理は無い話で。

 いくらフリーディアが鍛えているとはいっても、それはあくまで戦いの中で剣を振るう為のもの。

 基礎的な体力こそ応用は効くだろうが、もとより重たい荷物(・・)を運ぶのは専門外なのだ。

 故に、少女然とした小柄な体躯のテミスが大の男ほど重くは無いとはいえ、町の中から詰め所まで担いで運ぶ事が、フリーディアにとって途方もない重労働であるのは言うまでも無く、彼女の体力も限界が近づいていた。


「くっ……ぅっ……!! ハッ……!! ハッ……!! ハッ……!! ッ……!!」


 更に一歩。また一歩とフリーディアは上階を目指して歩を進めるが、歩を進める度に完全に力の抜けているテミスの身体はずるりずるりと背の上を滑り、同時にじんわりと生温かい何かがフリーディアの衣服を濡らしていく。

 それが恐らく、テミスの身体から零れ落ちた血液であることを直感で理解しているからこそ、フリーディアは灼け付くような痛みを発する喉をこじ開け、必死で前へと足を進めていた。

 そして……。


「ゼェッ……ゼェッ……!! ッ……!! ハァッ……ハッ……!!!」


 幾度となくよろけながらも、フリーディアは一度たりとも背負ったテミスを落とす事無く、目的地である三階の端に在る物置へと辿り着くと、頭を壁に預けて乱れた呼吸を繰り返した。

 だが、これで任務が終わった訳では無い。と。

 フリーディアは今にも崩れ落ちてしまいそうなほど疲弊した身体に喝を入れると、テミスを背負ったまま扉を開き、倒れ込むようにして部屋の中へと足を踏み入れる。


「テミス! ご注文通りッ……着いたわよッ!! ッ……!! テミスッ!!」

「…………。 っ……!!」


 その後、フリーディアはぐったりと動かないテミスの背を壁に預ける形で、自らの背から下ろして座らせると、力の籠った声でその名を呼びながら、パシリ、パシリと目を瞑ったまま動かないテミスの頬を叩いた。

 すると、ちょうど頬を叩く乾いた音が二発響いた時。

 固く閉じられていたテミスの両目が見開かれ、状況を確認するかの如く素早く左右へと視線を巡らせる。


「ハァッ……ハァッ……!! ったく……!! 私は貴女を必死で運んでるっていうのに、すやすやとお休みだなんて良いご身分じゃない。……到着してるわよ!! さぁ、何をするつもり?」

「っ……。すまない。気を……失っていたらしい」

「解ってるわよ。そんな事。だから何をするか知らないけれど、早く始めなさいって!!」

「…………。短剣を持っていないか? ナイフでも良い」


 息も絶え絶えのフリーディアは、目意識を取り戻したテミスに煽るように問いを投げかける。

 だが、テミスは数度目を瞬かせた後、素直に謝罪を口にすると、急かすフリーディアに向けて問いを返す。


「ッ……!! はい!! あと必要なものは!?」

「十分……だ……。あと……人に見られると都合が悪い。見張りを……頼む」

「はいはい!! 了解!! ……何をする気か知らないけれど、途中で意識を失って死なれるなんて御免よ。まずいと思ったら意地を張らずに私を呼びなさい! いいわね!?」


 そんなテミスに、フリーディアは腰の剣帯に提げていたナイフを鞘ごと抜き取ると、パシリと叩き付けるようにして差し出されたテミスの手へと渡した。

 そして、弱々しい笑みを浮かべながら問いに答えたテミスへ乱暴に言葉を返した後、素早く立ち上がり、部屋を後にしながら釘を刺すかのように言い残すと、ピシャリと扉を閉めたのだった。

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