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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1398話 狩りの終わり


 ブォンッ……!! シャリィィンッッ……!! と。

 中空を薙ぐ漆黒の大剣で風切り音を奏でた後、テミスはゆっくりと己が背中へと大剣を収めた。

 そんなテミスの眼前では、重厚な地響きと共にサーベルファングの巨体が大地へと沈み、ピクピクと脚を痙攣させながら腹を天に向けてひっくり返っていた。


「なっ……ぁ……ッ……!!?」

「まさか……一撃でッ……?」

「ッ……!!」


 クルヤ達はたった今、目の前で起こった巨獣殺しの事実を俄かには飲み下す事ができず、ただただ絶句して驚きの声を漏らす事しかできなかった。

 だというのに。彼の偉業とも呼ぶべき討伐を成し遂げた当のテミスは、それがさも当然のことであるかの如く涼し気な表情を浮かべて佇むばかりで、勝利を誇る雄叫びをあげる事も、討伐の喜びを発露させた歓声をあげる事も無かった。


「フゥッ……!! やはり、燃費が良い技では無いな。しかもこの威力を人に向ければ容易く死ぬ……。アイツは不殺にして必殺の技だ……なんて褒め称えていたが……。まぁいい……おい! ヤトッ……!」


 剣を収めたテミスは、皮肉気な微笑みと共にブツブツと独り言を呟いた後、肩越しに背後を振り返ると、驚愕と衝撃で硬直するイメルダの頭越しにヤタロウへと呼びかけた。

 ただサーベルファングを討伐するだけならば、月光斬を放つで事足りる。

 だが、この戦いはあくまでも『狩り』。加えて、テミスにとってはヤタロウからの『依頼』に他ならない。

 故に。テミスはここで『月光斬』を以て斬る事を良しとせず、自らの消耗を招くと理解していながらも、わざわざ不殺の技である『新月斬』の威力を極限まで高めて撃ち放ったのだ。

 テミスが斬撃を放つ直前。フリーディア達が思い至った直感にも等しい予測は当たっていた。

 ただし、そこに込められたテミスの意までも正確に理解していたのはヤタロウだけで。

 テミスが名を呼んだ瞬間。護衛の二人が反応するよりも早く、ヤタロウは腰に帯びた真新しい剣を抜き放つと、ゆっくりとした足取りでテミスの元へと向かう。

 それに数瞬遅れて、呆気に取られていたフリーディアとシズクが我を取り戻し、慌てた様子でヤタロウの背を追った。


「……注文通り。適度(・・)に弱らせてある。後はお前がその手で斃せ」

「ふふ……もはやこれでは、弱らせる……というよりも、無力化してある、と行った方が正しい気がするけれどね……。けれど……わかった。感謝するよ。」

「クス……買い被るのは勝手だが油断するなよ? まだ止め(・・)を刺してなどいないんだ。お前が仕損じれば、獲れる肉を痛める事も、手痛い反撃を喰らう可能性もある」

「それも解っているさ。一撃で終わらせるとも」


 言葉を交わしながらテミスの傍らを通り抜けたヤタロウは、静かに大地へと倒れ伏したサーベルファングの首元に立つと、携えていた剣をゆっくりと天へと掲げるかのように構えた。

 その様子はさながら、命を賭した決闘の始末を請け負う立会人のようで。

 しかし、ヤタロウは剣を構えた格好のままピタリと動きを止め、口元に何とも言えない感情を滲ませた笑みを浮かべながら、視線だけをチラリとテミスへ向ける。


「……どうした? 今更怖気づいた訳ではあるまい? そいつの頭骨は私の予想を超えて頑丈らしくてな、あまりもたもたしていると目を覚ますぞ?」

「大丈夫。少しばかり、感傷に浸っていただけさ。あの時も確か、こうだったな……とね」

「ン……? あぁ……懐かしいな。まだ幾ばくも経っていない筈だが……。辛いのならば代わるが?」

「いや……辛くは無いよ。ただ、少しばかり心苦しいだけさ。君が苦心して倒した相手を掠め取るのは、これで二度目になってしまう」

「なに、気にするな。あの時の私には止めを刺せるほどの余力は無かったし、今回はそもそもそういう契約だ。どちらも正しく共闘と言える」


 フリーディアとシズクがテミスの傍らまで駆け付けて尚、テミスとヤタロウは意味深な微笑みを浮かべながら言葉を交わし続けた。

 言外で語られているのは、決して表舞台にまろび出る事は無いギルファーの歴史の裏側。ギルファーという国が大きく動いたあの日の事で。

 何も知る筈の無いクルヤ達が怪訝な表情を浮かべるのは元より、事の詳細を知らされていないフリーディアも、傍らのテミスへ興味深そうに視線を向けながら小さく首を傾げている。

 そんな中で唯一。かの動乱の渦中でテミスと共に戦い、事情を知るシズクだけが、どこか誇らし気で、そして嬉しそうな笑みを浮かべてテミスたちのやり取りを見守っていた。


「そうか……そうだね……。ありがとう。僕は君という気高き友を持てた事を誇りに思うよ。…………。ッ……!!!」


 ドシュゥッ……!!!! と。

 噛み締めるような言葉と共に、ヤタロウは足元に転がるサーベルファングへと視線を戻すと、まさに型通りといった綺麗な格好で掲げた白刃を閃かせると、その手で獲物に止めを刺したのだった。

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