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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1396話 ヒトを超えたヒトの技

 ガギンッ! ガチンッ!! と。

 牙と剣の打ち合う音が空気を揺らすと共に、サーベルファングの苛立ちが籠った低い唸り声が周囲へと響き渡る。

 テミスはサーベルファングの突進を受け止めて以降、一辺倒に押し込まんとする力任せな圧力に対抗しながら、時折その身を狙って左右に振るわれる巨大な双牙を、地面に突き立てた一振りの大剣でいなしていた。


「ククッ……ハハハッ!! 考え無しに突っ込んで来るからだ馬鹿め。お前のその(おお)きく鋭い牙は、敵を貫く時にこそ最も威力を発揮する。言い換えるならば、この牙と牙の間に留まり続ける限り、お前の武器は最大にして最強の長所を失ったと言えるッ!!」

「ッ……!! す……すごいッ……!!!」


 低い嘶きを漏らし続けながら、鍔迫り合いの如く拮抗を続けるサーベルファングに、テミスは高笑いと共に語り掛けた。

 無論。言葉が通じているなどとは微塵も思ってはいない。これはあくまでも自己満足の喧伝行為に過ぎず、ただ無為に強さを誇示しているだけだ。

 だがその間も、サーベルファングはテミスの身体を斬り裂かんとひっきりなしに首を振るって牙を薙いでおり、鍔ぜり合う漆黒の大剣が常に硬質な音を奏でていた。


「突進を受け止めるだけではなく、そのまま押し合って拮抗するだなんて……いったいどんな怪力をしているんだ……ッ!? いやッ……それだけではないッ……!!」


 自らの眼前で繰り広げられる異様な戦いに、イメルダハ驚きに心を奪われながら呻くように呟くと、次から次へと湧いて出る疑問に思考を占拠された。

 普通の者ならば、これ程までに巨大な獣と競り合うことの出来る力へと意識が向くだろう。

 しかし、イメルダはSランクの冒険者パーティで前衛を務める身、テミスと同じように、たった一振りの大剣でこれほどまでに大きな体躯を持つサーベルファングの突進を受け止める事こそ不可能だが、それでも自身より遥かに体格の大きい魔獣の一撃を、盾を以て受け止める事はできる。

 だからこそ、イメルダが一層目を引かれたのは、まるで相対するこの魔獣の思考を先読みしているかのように、左右に首を振って切り刻まんとするサーベルファングの追撃を悉く無力化している人外じみたテミスの技量だった。


「クス……気になるか? 私が何故、こうまでも容易くコイツを無力化できているかが」

「ッ……!! 教えて……くれるのか……?」

「フム……」


 そんな背後の気配を感じ取ったテミスは、不敵な微笑みを浮かべると、サーベルファングの相手をしながらイメルダへと問いかける。

 すると、イメルダはピクリと肩を跳ねさせて目を輝かせると、驚くほど素直にテミスへと問い返した。

 どうせ、また何かしらの理由をこじつけた、罵詈雑言が飛んでくるのだろう。

 自ら声を掛けながらも、心の中でそう予測していたテミスは、自らの想像に反するイメルダの態度に皮肉気に歪めていた笑みを引っ込めると、チラリと戦場の片隅へ視線を向けて息を吐く。

 そこでは、サーベルファングに追い回されていた無残なほどにボロボロの冒険者を抱えたヴァルナが、戦闘中のテミスを出来る限り迂回しながら、必死の形相で安全な場所へと向かっている最中だった。


「……あいつらが逃げ終わるまでは、どうせこうして足止めをしていなければならんのだ。暇つぶしがてら簡単な解説くらいならばしてやろう」


 それを確認したテミスは、逸らしていた視線をサーベルファングへと戻すと、おもむろに淡々とした口調で語り始める。


「第一に、重要なのがこうして鍔競り合うように拮抗する事だ。別に武具を用いずとも、相手を組み伏せている時と同じだと考えろ。要は、力と力が真正面からぶつかり合っていればいい。そこでこちらへと向けられている力の流れの変わり目に合わせて……そらッ!」

「っ……!!! まさか、相手の力を受け流す要領を逆手に取っているのかッ……!?」

「ン……? あぁ、お前にはそちらの方がしっくりくるかもな。そうだ。相手の力の流れに合わせて受け流すのではなく、相手がしっかりと力を籠めるよりもわずかに早く、その出鼻を挫いてやればいい」


 テミスは事も無げに解説を挟みながら、再び振りかざさんと力の込められたサーベルファングの牙を、実際にいなしてみせた。

 すると、流石は本職の前衛と言うべきか、イメルダは独自の感覚でテミスの説明を理解したらしく、再び驚きの声を上げて息を呑んだ。

 しかし、この技術はテミスにとって酷く慣れ親しんだもので。

 彼の世界にて発達した、相対した犯罪者にすら傷付ける事無く捕える事を目的とした捕縛術は、こと敵の動きを制するという一点において恐ろしい程の威力を発揮する。

 つまり、テミスにとって凶悪なサーベルファングを捕える事は、暴れる酔っ払いを取り押さえる事とさほど変わりはないのだ。

 尤も、相手の体格差は、そもそもの肉体が持ち得る膂力の差と言い換える事もできるのだが。


「さてと……。講義にもご満足頂けたようだし? そろそろあちらの避難も終わる頃だ。決着を付けると……しようかッ!!!」


 テミスは満足気な笑みを浮かべてチラリと背後のイメルダへと視線を送ると、地面に突き立てていた大剣を引き抜き、そのままサーベルファングの顎をカチ上げるように振り上げる。

 その一撃に、サーベルファングは甲高い悲鳴のような鳴き声を上げ、振るわれた打撃の凄まじい威力にヨロヨロと数歩後ろへ退いたのだった。

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