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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1392話 膨らむ疑心

 クルヤの指揮の元、森の中を突き進む一行が戦闘痕らしき傷痕を見付けたのは、目印となった巨石から数分程度進んだ時だった。


「あったッ!! あったぞ!! 戦闘痕だッ!!」


 最前を進むイメルダが報告を発すると、一行は即座に彼女の元へと集結する。

 そこにあったのは、荒々しくなぎ倒された木々や貫き砕かれた岩など、これらの傷跡を残した者が、相応の力を以ている事を示していた。


「っ……!! これは……!! 想定外だね。恐らくだけど、さっきの個体よりもかなり巨きい……。長老(エルダー)クラスか……?」

「……貴女じゃないけれど、今更ながらあの男に怒鳴り付けたい気分だわ。長老(エルダー)クラス相当のサーベルファングを親に持つ子に手を出すなんて……馬鹿じゃないのかって」

「ハッ……全くだ。身の程を弁えない馬鹿共が。……と、言いたい所だが、なるほど。これで漸く合点がいった」


 眼前に広がる惨状を前に息を呑んだクルヤが呟きを漏らすと、チラリとテミスへ視線を送ったヴァルナが、深い溜息と共に呆れ声で口を開く。

 しかし、テミスはその愚痴とも取れるヴァルナの言葉に同意の意を示しながらも、一人周囲を見渡してから納得したかのように頷き、意味深気に笑ってみせた。


「どういう意味だ? 何かがわかったのなら話せ」

「ククッ……そう焦るな。大した事じゃない。あの三下冒険者が逃げ込んできてから、どうにも引っ掛かる点があってな」


 ガシャリと盾を地面へ突き立てたイメルダが苛立ちの籠った声をテミスへと向けると、テミスは喉を鳴らして笑いを零すと、小さく肩を竦めて語り始める。


「そもそも。だ。如何なる種族でも親が幼い子供の元を離れる事など滅多に無い。人間だってそうだ。常に自らの目の届くところで見守っている筈だ」

「っ……! なるほど。読めたよ。つまり、冒険者の彼等の目には近くに親は居いと映ったけれど、この親たちにとっては自分達の目の届く範囲だった……という事だね?」

「…………。……そういう事だ」


 だが、テミスが結論を語り終える前に、話の間隙を突いたクルヤが口を開くと、そのまま結論まで語り切ってテミスへと問いかけた。

 その内容は、テミスが補完する必要さえない程に、導き出した結論と寸分たがわぬもので。

 テミスは釈然としない思いが胸の中に沸き立つのを感じながらも、むっつりとただ頷くしか無かった。


「フム……だとするとかなり手強いな……。やはりここは陣形を先程クルヤが言っていた物に戻すべきではないか?」

「却下だ。長老(エルダー)クラスと言えど所詮はサーベルファング。怖気づくほどの相手ではない」

「勝手を言うなッ!! 奴の攻撃を受けるのは私なんだぞ!! クルヤ! このような状況で戦力を余らせておく理由など無いッ!! そうだろうッ!?」


 そんなテミスの傍らで、イメルダが思案するかのように息を吐くと、集った一行に視線を向けながら問いを投げかけた。

 しかし、真っ先にその問いを叩き落とすかのように答えたのはテミスで。

 イメルダは再び顔を怒りに歪めると、同意を求めるかの如くクルヤの名を呼んで改めて問いかける。


「そうだね。これだけの痕跡を残す相手となると、力も相当なものだろう。イメルダ一人に無理をさせる事はできない。テミス、悪いんだけれどここは――」

「――ならば我々はここで降りる。言ったはずだ。ヤトの安全を確保する事が最優先であると。あとは救助するなり討伐するなりお前達で好きにやれ」

「っ……!」

「なッ……!?」


 イメルダの問いを受けたクルヤは、少しの間考える素振りを見せた後、静かに息を吐きながら判断を下す。

 だが、筋道を立てた説明を添えたクルヤの言葉が終わる前に、テミスはピシャリとその決定を両断すると、身を翻して最後尾のヤタロウ達の方へと踵を返し始めた。


「待てッ!! 先程も我儘を言うなとクルヤに叱られたばかりだろう!! 少しは自重したらどうなんだッ!!」

「さっきの言い争いはイメルダも悪いと思うけれど、これは流石に酷いと言わざるをないわよ? 勝手が過ぎるんじゃないかしら?」

「………………」


 すると即座に、イメルダとヴァルナが口を揃えて非難の声を上げると、その声に応ずるかの如くテミスはピタリと足を止める。

 ……先程から何なんだコイツ等は?

 クルヤ達へ背を向けたまま、テミスは胸の内でそう呟くと、小さく収縮した瞳を動かして視線だけを背後へと向ける。

 道中の言動や、先程のさーべファングとの遭遇戦まで違和感は無かった。

 しかし、あの冒険者の仲間を救援に向かうと決めてから、奴等は異様に戦力を前へと集中させたがっているように見える。

 はじめは、自分達の庇護対象であるシェナをロノの元へと残してきた為かとも思ったが、こうも無理を通そうとするのならば話は別だ。


「テミ……ッ!!? っ……!」

「……? ッ……!!」


 再び諍いが始まる気配を察したのだろう。

 呆れたように眉根を寄せたフリーディアが、その名を呼びながら一歩テミスへと足を踏み出した時だった。

 テミスは瞬時に手を閃かせると、自らの身体を利用して作り出した死角でフリーディア達に合図を送る。

 それは、主に戦場にて使用される簡易的なハンドサインで。その意が示すのは、警戒と潜伏。その後、テミスは自らの腹に立てた親指を当てると、再び視線を背後へと送りクルヤ達を指し示した。

 最初は、テミスの挙動が何を示しているのか理解できていない様子であったシズクだったが、即座にテミスの意を汲んだフリーディアが彼女の耳元に口を寄せると、ピクリと目を見開いて小さく頷きを返す。


「……何とか言ったらどうなんだッ!! お前達からも何か言ってやってくれないか?」


 時間にして僅か数秒。

 テミスがフリーディア達に指示を伝える間も、背後から響く非難の声は続いていたらしく、終いには苛立ちが勝ったらしいイメルダがテミスへと歩み寄ってその肩を掴むと、その向こうに居るフリーディア達へと語り掛けた。

 瞬間。


「私に触れるな。雑魚が」


 ガシャリ……。と。吐き捨てるような言葉と共に、甲冑の打ち合わされる音が辺りへと響いた。

 それは、肩を掴まれたテミスが、自らの手甲を叩き付けてイメルダの手を振り払った音に他ならず、場は瞬時にして途方もない緊張感が張り詰めたのだった。

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