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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1391話 価値無き諍い

 木々が生い茂る道なき森の中に、ガシャガシャと鎧の音が響き渡る。

 本来ならば、自然豊かなこの場所で響くはずも無い異音。それは声高に、この地へと踏み込んだ侵入者の存在を周囲へと報せていた。


「そろそろ彼等がサーベルファングに遭遇したという辺りだ……。前方っ!! 索敵報告をッ!」

「っ……! 異常……は無いッ!! 戦闘痕やそれに類するものも見当たらない!!」

「……。右翼は?」

「……少し待って。いえ……異常は無いわ。少し獣臭い気がしたけれど、周囲に気配が無い」

「フム……左翼!」

「異常なし……だ。本当にこの辺りなのか? 倒木の一つすら見当たらんぞ」


 テミス達は壁役であるイメルダを先頭に、中央に指揮役としてクルヤ、右翼にヴァルナを据え、本来はクルヤかロノが担う位置である左翼をテミスが担う形で陣形を組んで森の中を突き進んでいた。

 その後ろからは、少し距離を置いてヤタロウが随行しており、その護衛にはシズクとフリーディアが付いている。

 当初のクルヤの提案では、最も防御の固いイメルダとテミスが先行し、フリーディアとヴァルナが両翼に展開、ヤタロウとその護衛のシズクが後に続くというものだった。

 だがテミスとしては、たとえ何が起ころうとも即座に応ずる事のできる位置である中央をクルヤに譲る以上、ヤタロウの護衛を手薄にする事はできなかった。

 故に。仮にクルヤ達が牙を剥いたとしても、一気呵成に圧し切られないように、シズクの他に自分かフリーディアを配置する事を頑として譲らなかったのだ。

 その結果。幾ばくかの言い合いを経て、クルヤが折れる事でテミスが左翼、フリーディアが護衛を務める現在の形に収まったのだが……。


「おい!! クルヤに文句を言う前に丁寧に確認をしたらどうなんだッ!? 何も無い筈がないだろう!」

「なにィ……? ならばその言葉、そのまま返してやろう。先程から鎧が木に当たっていて喧しくて敵わん」

「なんだとッ!? 甲冑を着ているのは貴様もだろうッ!! 私に責任を擦り付けるなッ!」

「ククッ……。生憎! 私の甲冑は特別製でね。確かに蒸れるし、生身に比べれば多少の動き辛さは感じるが、この程度の森を駆ける程度ならば邪魔にならんのだ……よッ!!」


 展開した各々が報告を終えるとすぐに、皮肉を口にしたテミスにイメルダが食って掛かる。

 無論。そのようにして売られた喧嘩をテミスが買わない筈がなく、隠す事の無い皮肉をイメルダへと叩き付けると、己が言葉を証明するかの如く、身軽に手近な木の上へと跳び上がってみせた。


「イメルダ。気持ちはわかるけれど、僕たちは今作戦行動中だ。そういちいち声を荒げていたら、助ける事ができる人も助けられなくなるよ」

「ッ……!!! す……すまない……」

「テミス。君もだ。仮とはいえ、今僕たちは互いに背を預けるパーティなんだ。輪を乱すような発言は慎んでほしい」

「私は売られた喧嘩を買ったまでだ。仕事にケチを付けられたのでな。意趣返しの一つもしたくなるというものだろう」

「いい加減にしないかッ!! 折角クルヤが場をまとめようとしてくれて居たというのに貴様という奴はッ!!!」

「イメルダ。良いから。……ところでテミス。彼の話が正しければそろそろ、君の左前方に大きな岩が見えてくる筈なのだけれど?」


 そんな二人を諫めるように、クルヤが言い争うテミス達の間に割って入るが、素直に謝罪をしたイメルダに対して、テミスは更に皮肉を重ねる。

 すると、更にそれに反応したイメルダが再び気炎を上げて声を荒げようとした所で、クルヤはピシャリと少し強い口調でそれを制し、穏やかな声色でテミスへと問いかけた。


「む……? チッ……木の葉が邪魔で見えんな……。っと……。ん……あぁ、左前方に巨岩在り! だ」


 テミスはクルヤの問いを受け、跳び乗っていた木の枝の上から周囲を見渡すが、生い茂った葉が視界を遮り、上手く見通す事ができなかった。

 そのため一度、テミスは地上へと飛び降りてから再び前方へと目を凝らすと、確かにクルヤの言った通り、遠くに山のように大きな岩が佇んでいるのが視界に入る。


「指示を出す僕としては、索敵をする人は喧嘩をするよりも、こういった目印になるものの報告を優先して欲しいのだけれど?」

「ぐッ……!!! っ……!! ッ~~~~!!!! すまない……」


 少し間を空けてから発せられたテミスの報告に、クルヤは淡々とした口調で咎めるように言葉を返した。

 その指摘は、例えイメルダが無用な喧嘩を売って来なければ見落とす事など無かったとはいえど、自らの仕事を果たせなかった事実に変わりのないテミスにとって痛恨の一撃に等しかった。

 途方もない失態だッ!!! 何をやっているんだ私はッ!!! よりにもよってこんな馬鹿馬鹿しいミスをしでかすなど、考え無しに喧嘩を買った数分前の自分を殴り飛ばしてやりたいッ!!

 テミスはしばらくの間、怒りと口惜しさの入り混じった感情にギリギリと歯を食いしばって身を震わせた後、低い声で謝罪を口にする。


「ん……。だから喧嘩なしだよ。これで現在の場所は特定できた。このまま少し進めば遭遇地点。戦闘痕がある筈だ」

「承知ッ!」

「わかったわ」

「……了解」


 しかし、クルヤはそれ以上テミスを責める事は無く話を終えると、即座に作戦行動の指示へと話を戻した。

 そんなクルヤの指示に応ずるヴァルナとイメルダの声を聞きながら、テミスは深呼吸と共に自らの心を深く沈めると、自らも冷たい声で言葉を返したのだった。

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