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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1389話 ヒトの正道

「随分と酷な事をしたね……テミス。正直、少し驚いているよ」


 ズズン……。と。

 クルヤ達と鎬を削るサーベルファングが、地響きと共にその巨体を地に伏した時。

 音も無くテミスの傍らへと歩み寄ったヤタロウが、穏やかな微笑みを浮かべながら口を開く。


「それは、どちら(・・・)の意味かな? まぁ、仮にどちらだとしても、私は下すべくして判断を下しただけだが……」

「どちらも《・・・・》……さ。こういう時、ヒトは得てして同族を優先するものだ。それは我々獣人族とて同じ。けれど、君の考えは少しばかり違うらしい」

「別に……ただ、気に食わなかっただけさ。自身が招いた窮地に他者を頼り、恥知らずにも被害者面をしているこの男の態度がな」


 テミスはヤタロウの問いに鼻を鳴らして答えると、チラリと背後へと視線を向けて、シズクに地面へと組み伏せられている男を一瞥した。


「大丈夫。怪我はさせていない筈だよ。随分と情熱的な懇願だったからね……シズクもつい力が籠ってしまったらしい」

「ハッ……それはお優しい事で。私ならば、剣に手をかけた瞬間に斬り捨ててしまうがな」

「おや? 斬ってしまっても良かったのかい? これでも一応、君に気を使ったつもりなんだよ?」

「そいつはどうも。確かに、後から襲い来るであろう雑務を考えると、命を救われた思いだ」


 軽い口調で応ずるヤタロウにテミスは皮肉気な微笑みを浮かべると、肩を竦めながらため息まじりに言葉を返す。

 ここに居るのが我々だけならば兎も角、酷く残念なことにこの場にはクルヤ達が居る。

 この男の存在は、既にクルヤ達に知られてしまっているし、秘密裏に消してしまう事はできないだろう。

 ならば残る選択肢としては、仲間の救援を求めるあまり襲い掛かってきたため交戦し、斬って捨てた。と素直に報告するか、このまま要救助者として町まで連れ帰るかといった所だろう。

 前者ならば、無駄に囀る荷物(・・)も減り、町へ帰りつくまでは楽ができるだろう。

 しかし、正当性の証明やら他の冒険者たちへのイメージ対策など、すぐに思い付くだけでもやらなくてはならない手続きがごまんとまろび出てくる。

 そんな面倒事を背負い込むくらいならば、この場は多少面倒でもこの男をファントまで連れ帰れば、手続きは救助報告の一つだけで済む。

 尤も。その為にはもう一つ、こなさねばならない課題がある訳だが。


「ふぅっ……!! すまない、テミス。依頼には適度に弱らせるだけとあったけれど、不意の遭遇戦だったからこちらで処理してしまったよ。って……これはどういう状況だい?」


 戦闘を終え、クルヤが一足先にテミス達の元へと報告に来たが、場の惨状を目にすると同時に苦笑いを浮かべ、首を傾げてテミスへと疑問を投げかけた。

 それもその筈。

 自分達へと助けを求めていた筈の男は、護衛であるシズクの手によって今も拘束されており、フリーディアは肩を落として俯いたまま、微動だにしていない。

 そんな状況の傍らで、テミスとヤタロウが穏やかに談笑を交わしていたのだ。

 ある意味で、理解の及ぶべくもない混沌とした状況だと言えるだろう。


「別に……大した事ではない。そこの男が自分達の保身の為に襲い掛かって来たのでな。護衛のシズクが対処をしただけだ」

「それにしては……彼女の落ち込み様が気になるのだけれど……?」

「放っておけ。ただの発作……いや、理想と現実との乖離に苦しんでいるだけさ」

「いやいや……そんな思春期を迎えた子供じゃないんだから……」

「っ……!」

「だ……旦那ッ!!! 助けてくれぇッ!!!」


 苦笑いを浮かべるも穏やかに問いを重ねるクルヤに、テミスが適当に答えを返していた時だった。

 シズクに抑え付けられていた男が突如として暴れ出し、その強固な拘束からは抜け出せなかったものの、必死で首を持ち上げてクルヤに助けを叫ぶ。


「コイツ等……イカれてやがるッ!! 俺の仲間が危ねぇって言ってンのに、のんびりとアンタ等の戦いを眺めていやがったんだッ!!」

「……と、言っているけれど?」

「イカれていやがる……意外は概ね正しいな。この愚か者共は、サーベルファングの子供を狙って返り討ちにされたと聞いている」

「っ……!! だったら――」

「――ただでさえ少ない戦力を更に二つに割き、依頼人を危険に晒してまで、自業自得で危機に陥った、どこに居るとも知れない連中を助けに行くべきだ……などと安直な愚行を宣うつもりではないだろうな?」

「っ……!!」


 半ば反射的に非難するかのように口を開いたクルヤの言葉を遮ると、テミスは真正面から鋭くクルヤを睨み付けながら、低い声で言葉を重ねた。

 クルヤ達を除いたとしても、実戦力で見れば確かに、サーベルファングと一戦を交えるには十分だろう。

 だがそれは、どこの馬とも知れない冒険者と、護衛対象であるヤタロウを共に行動させるという事で。

 それでも、エビルオルクを斃した実績があるとはいえ、サーベルファングと相対するのがテミスとフリーディアの二人では、確実にヤタロウたちの安全が担保されるとは言い難い。

 そこから更に、ヤタロウの安全を期すとなると、背後に戦えない仲間を庇うという致命的なハンデを抱えながら、サーベルファングを単独討伐する必要がある。

 その程度の単純な計算を、仮にもSランクパーティを率いるリーダーであるクルヤが、出来ないとは考え難い。

 そんな意をも込めて、テミスが沈黙するクルヤを睨み続けること数瞬。


「……失礼した。確かに君の言う通りだ。これ以上戦力を分散させるのは危険過ぎる」

「フッ……お前が階級に違わぬ判断力を持っていてくれて安堵したぞ」


 クルヤはコクリと頷くと、軽く頭を下げてテミスの判断へと賛同した。

 だがその答えに、テミスが満足気な笑みを浮かべながら頷くと、クルヤは即座に頭を上げて言葉を続ける。


「しかし、このまま見殺しにするというのも後味が悪い。そこで、どうだろう? 今は僕らも居る。今倒した一頭の見張りと解体はロノに任せるとして……。護衛の二人と逃げてきた彼はここに残って貰って、僕たちで救援に向かわないかい?」

「…………。フム……」


 にこやかな笑みと共に告げられたクルヤの提案に、テミスはチラリと彼等のパーティに属する魔法使いであるロノへと視線を向けた後、思案を巡らせながら静かに息を吐いたのだった。

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