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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1377話 王の希望

 宿屋での騒動から数日。

 テミスは連日ヤタロウを連れてファントの町を巡り、武具屋から食事処まで様々な店を案内した。

 なかでも、イヅルが営む彼の世界の料理を提供する飯屋はヤタロウの琴線にいたく触れたらしく、ほぼ毎日と言っていいほど足を運んでいる。

 だが、これまで満たされていなかったヤタロウの欲を刺激してしまったのがいけなかったのだろう。

 ファントの町の中を見て回るだけでは飽き足らず、今度はいち冒険者として、『狩り』をしてみたいなどと宣い始めたのだ。


「ったく……ヤタロウの奴め。気軽にとんでもない事を言いだしてくれる……」


 軍団詰所の執務室で自らの机へと向かいながら、テミスは苛立ち交じりにそう呟きを漏らすと、ガシガシと髪を掻き毟った。

 彼の世界では古来、鷹を用いて首領を行う鷹狩と呼ばれる狩猟を、将軍だの大名だのといったやんごとなき立場の連中がこぞって行ったらしい。

 つまるところ、世界は変われどそう言った連中は王城に籠らねばならないという身の上が禍して、この手の事に一種の憧れを抱くのだろう。

 しかし、いざやれと言われて実現する側としては堪ったものではない。

 仮にも他国の王たるヤタロウの安全は絶対に確保しなけれればならないが、護衛に兵を多く配置し過ぎれば、今度は得物が逃げてしまう。

 かといって、ヤタロウの守りを手薄にして怪我でもされてしまえば一大事だ。


「あぁ……クソッ……!!! こんな事ならば、冒険者ギルドにこちらの手勢を数名潜り込ませておくべきだった……。頼むから面倒な依頼は出ていてくれるなよ……?」


 それでもどうにか、ヤタロウに付く人員をテミスをはじめとする少数精鋭の面子にする事で形を付けたのだが、肝心の依頼に関しては流石のテミスといえど手の打ちようが無かった。

 無論。ヤタロウの身分を明かせば、いくらかは融通を利かせる事ができるのだろう。

 だが、それではヤタロウ自身の希望を叶える事が難しくなるうえに、余計な事を企む連中が出てくる可能性だってある。

 故に、引き受ける依頼については当日、適当なものを見繕うしか方法が無いのだ。


「何よもう……大袈裟ね。この間はお世話になったのだから、そのお礼に多少の我儘くらいすんなりと聞いてあげても良いと思うけれど?」


 苛立ちと苦悩を露にテミスが身悶えていると、傍らの机で仕事を進めていたフリーディアが呆れたように語り掛ける。

 確かに、その論には一理あるし、だからこそこうして無理を押して希望を叶えている訳なのだが……。

 しかし、王ではなく王女ではあるものの、フリーディアとてヤタロウと同じ王族という身分だからだろうか、ヤタロウが絡むとどうにもヤツの肩を持つ気がする。


「ならば、随分と高い買い物をした気分だよ。ったく……王様の気紛れを叶えるために、どれだけの数の調整が必要だと思っているんだ……」

「あらそう? 彼のお陰で誰も傷つかずにあの場を収める事ができたと考えれば安いものじゃないかしら?」

「ハッ……ならば、対人警備を密にする必要があるのは、いったい誰のおかげだろうな?」


 呻くように言葉を返したテミスにフリーディアが小首をかしげて答えると、テミスは皮肉気な笑みを浮かべて忌々し気にそう吐き捨てた。

 あの日以来、クルヤと名乗った男が率いる冒険者連中を監視すべく、旗下の兵達に警戒を促したものの、現状は奴等は真っ当に冒険者として活動しており、これといった収穫が無かった。

 だが、奴等が寝泊まりをしている宿の中や、冒険者として活動している町の外まで厳しく監視をする事はできておらず、だからこそテミスも未だこうして警戒を解けずに居る訳なのだが。


「やれやれね……。テミスはまだあの冒険者たちを疑っているの? あの人たちもそんなに暇じゃないわよ。誤解は解けたのだし、いつまでもそうやって疑っていたら、本当に彼等が言っていたように差別していることになるわ」

「フン……なんとでも言え。少なくとも、ヤタロウがこの町に滞在している間は奴等への警戒を解かん。信じて警備を緩めた結果、ヤタロウの奴が殺されでもしたら取り返しが付かんのだ。たとえほんの僅かであっても疑いが残るのならば、疑って備えて然るべしだ」

「はぁ……。相変わらず頑固なんだから……」

「そういうお前は、相変わらずのお人好し加減だな」

「っ……!! 言ってなさいッ!」


 皮肉を叩きつけたテミスに、フリーディアは肩を竦めて諭すかのように言葉を並べる。

 しかし、テミスはフリーディアの言葉を鼻で嗤うと、淡々と正論を以て叩き潰した。

 そんなやり取りを経た二人は、結局はいつも通りの憎まれ口の叩き合いに落ち着き、最後はフリーディアが鼻を鳴らして仕事に戻る事で決着がついたのだった。

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