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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1366話 給仕の役を担いて

「待たせてすまない。注文を訊こう」


 フリーディア達が話に花を咲かせるテーブルへと近付くと、テミスは微笑を浮かべながら一同へ話しかけた。

 無論。他の客であればこのような口調など論外なのだが、あくまでも友人達へ向けての接客。根拠のない恥じらいが顔を覗かせているのだ。

 だが、相手は顔見知りのフリーディアやシズク、そしてギルファーの王であるヤタロウだ。こうして、ファントを治める者としての態度が出ていても、何も不思議ではあるまい。

 そうやってテミスが自らの心情に理由を付けた時だった。


「あらテミス、貴女は今このお店の給仕さんでしょう? 知り合いとはいえお客様にその口調はいただけないんじゃないかしら?」

「ふッ……!!」

「あはは……」


 ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべたフリーディアが口を開くと同時に、傍らでその様子を見守っていたヤタロウが噴き出すようにして笑い、シズクが苦笑いを浮かべる。


「いやはや、お楽しみがあると聞いてはいたけれどこの事だったか。うん。確かによく似合っているよテミス」

「ですね! 私も久々に見ましたけれど、本当によくお似合いです!」

「ふふ。良かったじゃないテミス。それで……?」

「っ……!!!」


 口々に誉め千切るヤタロウとシズクの賛辞を聞きながら、フリーディアは意地の悪い笑みぞ崩す事無くチラリと静やかにテミスを見上げて問いかけた。

 そのとても愉しそうな視線は明らかに、先程の問いに対する答えを求めていて。

 テミスは胸の中に秘めていた羞恥心が鎌首をもたげ始めるのを自覚しながら、ぎしりと密かに歯を食いしばった。

 店の状況を鑑みれば、フリーディア達ばかりに構っている暇は無い。

 だが、フリーディアはそんな事は承知の上なのだろう。このまま粘れば恐らく、店に迷惑のかからないギリギリのところで解放してくれるはずではあるが……。


「えぇい……ッ! 覚えていろよフリーディアッ!! っ……。失礼いたしました、ご注文を承ります」


 歯噛みと共に、テミスは低い声で恨み言を呟いた後、にっこりと引き攣った笑みを浮かべて再びヤタロウ達に注文を訪ねた。

 そこには、この店で働くようになってから辛うじて覚えたこちらの世界での接客スキルは欠片も生かされておらず、あくまでも決められた文句を並べるだけの教本(マニュアル)通りのものだった。

 しかし、そんな接客でもヤタロウには物珍しく映ったらしく、キラキラと目を輝かせながら身を乗り出すと、待ちかねたかのように口を開いた。


「こ……この店のおすすめは何だろうかッ!? 是非それを頂きたいのだッ!!」

「お勧めですか? でしたら、こちらの日替わり定食でしょうか。本日は~……アサルトボアのステーキですね。柔らかくて美味しいですよ」


 そんなヤタロウに、テミスはいつもならば本日のおすすめを提供している日替わり定食を提案した後、自分がその内容を知らない事に気が付いて店の中へ素早く全力で視線を走らせた。

 その刹那の動きは誰の目にも留まる事は無く、テミスは無事カウンターの奥の壁に設えられた日替わりメニューの板を見付けると、記されていた内容と共に気持ち程度の売り文句を付け加える。


「ほほうっ!! じゃあ、それをお願いするよッ! 飲み物は皆……ワインで構わないかい? ここの支払いは僕が持とう、一番いいものを頼むッ!!」

「畏まりました。お二方のお食事は如何しますか?」

「え……あ……っ!! では、私も同じものでお願いしますッ!!」

「私は……そうねぇ……。ファイアバードのステーキを貰おうかしら。ご飯は大盛で!」

「はい。日替わりが二つにファイアバードのステーキが一つ、ワインが三つですね。少々お待ちください」


 ヤタロウに倣って注文を口にしたシズクに続いて、少し悩む素振りを見せたフリーディアも、つつがなく自らの食事を決めて注文を通す。

 それを受けたテミスは、機械的に注文を改めると、クルリと身を翻して受け取ったオーダーを厨房のマーサへと伝えるべく一歩を踏み出した。

 だがその瞬間。

 このまま、してやられっぱなしで良いのか? ここは一つ、私からも何かヤタロウ達の度肝を抜くような何かを仕掛けてやるべきでは? と。テミスの心の中に潜む悪魔が囁き声を発し、脳裏に一つの閃きを迸らせてしまう。


「折角だ。私からのもてなしとして一品、おまけ(・・・)を用意しておくとしよう」


 脳裏の閃きに従い、テミスは再びその場で一回転をしてヤタロウ達へ向き直る。

 その頃には、それまで浮かべていた給仕役の笑顔は無く、テミスは本来の不敵な笑みを浮かべてそう言い残すと、足早に厨房へ向けて立ち去って行ったのだった。


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