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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1364話 憧れの店

「おぉっ……!! 此処が話に伝え聞くあのッ……!!」


 夜。

 実務的なすり合わせを終えたテミス達は、はしゃぐヤタロウを連れてマーサの宿屋へと場所を移していた。

 ファントの町を巡るにあたって、ヤタロウは何処で用意して来たのか、上等な冒険者風の衣服を誂えて完璧な変装をしているため、この場に居る誰もが彼がギルファーの新王であるなどと夢にも思わないだろう。

 無論。そのような事情も相まって、ギルファー側の護衛はこの町の機微に聡く、最もテミス達と親しい間柄であるシズクのみで。

 そんな彼等を案内するテミスに、フリーディアが付き従っている。


「はは……彼の地にまで噂が轟いているとは……。誇らしい限りだ」

「何を言うか!! 噂を届けてくれたのは他でもない君だろう? ムネヨシ達や白銀亭の者達にも、しっかりと見て来て欲しいと強く乞われていてな」

「む……それもそうか。ならば期待すると良い。所詮私の腕など付け焼き刃程度のものだとその舌で理解できるだろう」

「ほぉっ……!! あれ以上と言うかッ!?」


 テーブルへと着くも、ヤタロウは周囲をきょろきょろと見回しながら楽し気に言葉を重ね、テミスが彼の溢れんばかりの期待を煽るように静かに笑みを零す。

 その効果はすさまじく、賑やかな店の中へと視線を彷徨わせていたヤタロウは、キラキラと瞳を輝かせると、まるで確かめるかのように傍らのシズクへと視線を向けた。


「……! えぇ、はい。こう言ってしまうとテミスさんに失礼かもしれませんが、確かにこのお店の料理は、テミスさんに作っていただいた物より数段美味しいです」

「ククッ……失礼なものか。事実さ。二人共、私が剣を振っている時間も鍋を振り、料理を提供し続けているのだ。私が足下に及ぶはずも無かろう」

「で……でもッ!! 私は好きですよ!? テミスさんのダシマキ。何といいますか、優しさの中に猛々しさがあるような、芯の通った味で」

「へぇ……? それは私、食べさせて貰った事無いかも。ねぇテミス、私にも今度作ってくれない?」


 ヤタロウの熱に中てられたのか、水を向けられらシズクは普段よりも饒舌に喋りはじめ、それを聞いて会話に入ってきたフリーディアも、何処か普段とは違う悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 尤も、お忍びとはいえ正体を知る二人にとってこの場は、王の御前である事に変わりはない。ある種の特別な場であるのは間違い無いのだが……。


「気が向いたらな。この店の厨房は、半端者である私には少々敷居が高い」

「で……でしたら!! 是非!! お館の厨房を使って下さい!! ぁ……良いですよね? ヤタロウ様ッ!?」

「もちろんだとも。願わくば、僕が居る時にして欲しいね。その時は、僕の私費でお酒も用意しておこう」

「フフッ……悪くない提案だ。っと……フム……」


 賑やかなホールの片隅でヤタロウ達との会話を楽しみながら、テミスはふと違和感に気が付いて店の中へと視線を彷徨わせた。

 店に入り、この席へと案内されて以降、本来ならば注文を取りに来るはずのアリーシャが一行に現れないのだ。

 見れば、ほぼ満席に近いホールの中を、アリーシャが忙しく駆け回っており、その様子を見かねたらしいバニサス達が、たどたどしいながらも給仕の手伝いに回っていた。


「あ~……すまない。フリーディア、少しこの場を任せる」

「……行くの?」

「あぁ。最近手伝いもできていなかったしな。それに、私がヤタロウにこの町を案内するというのならば、相応しい光景でもあるだろう?」

「そうかもしれないわね。承ったわ。任せて頂戴」

「頼んだ」


 客で込み合った店内に、至る所から響き渡る注文の声を聞いたテミスは状況を把握すると、フリーディアに一声かけてから静かに席を立った。

 今の時間帯はちょうど夕食時、所謂ピークタイムというヤツだ。

 この時間帯は普段から忙しくはあるが、今日の客は大食漢や蟒蛇(うわばみ)が多いらしく、熟練の腕を持つアリーシャの技量を以てしても、見るからに手が足りていない。

 ならば、この家に身を寄せる一人として、何よりもアリーシャの妹として、此処で一肌脱がない訳にはいかないだろう。


「……? テミスさん?」

「おぉ……? どうした? 急に立ち上がって」


 すると、突然席を立ったテミスに驚いたのか、シズクとヤタロウは揃ってテミスの顔を見上げると、首を傾げて疑問を露にする。

 ヤタロウは兎も角シズクに限って言えば、テミスがこの店の手伝いをしている事は知っている筈だ。

 だが、ヤタロウの前という事もあり、テミスがここで席を外すなどと思ってもいないのだろう。

 だからこそ。


「なに。ちょっとした余興のような物だ。楽しんでいくと良い」


 テミスはクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言い残すと、込み合った店内をすり抜けるようにして、店の奥へと消えていったのだった。

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