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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第23章

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1362話 王の仮面

 テミスとヤタロウの間に横たわっていた誤解が解けてから、ファント・ギルファー間の話は異様なほど早く進んでいった。

 その要因の一部には、今回の一件で被害者の立場であるファント側が、賠償や謝罪などを一切求めず、ギルファーにとって据え膳とも言うべき好条件であったのもあるのだろうが……。


「委細、全て承知したよ。ヤヤが率いていた者達は皆、ギルファーへ連れて帰るとしよう。本来ならば、その場で切り捨てられて居るべき者達の命を、こうして繋げてくれた寛大な慈悲に改めて感謝をさせて欲しい」

「フ……その礼はフリーディアに言ってやるんだな。お前も知っている筈だろう? 私は敵に容赦はしない質でね。ヤヤは兎も角、他の連中が生きているのは間違いなく、コイツが余計な茶々を入れてきた功績だ」

「っ……!!」

「そうか……そうだね。フリーディア殿、本当にありがとう」


 諸々の擦り合わせを終えた後、ヤタロウが感謝の言葉を口にすると、テミスは皮肉気な笑みを浮かべて、自らの傍らに控えるフリーディアを顎で指し示した。

 すると、ヤタロウは素直にテミスの言を受け入れて頷いた後、水を向けられたが故にピクリと肩を跳ねさせたフリーディアへ、礼と共に頭を下げる。


「……いえ。人として、当然のことをしたまでです。ですのでどうか、頭をお上げになってください」

「……! ほぉ……。敵兵を、しかも獣人族である我が国の兵を救う事を当然のことである……と」

「はい。例え互いに憎み合い、刃を交えた相手であっても。憎しみを乗り越え、赦し合う事で手を取り合い、平和な未来へ共に歩む事ができると確信しております」

「クク……。と、まぁ、こいつはいつもこの調子なんだ。あまり褒めるなよ? ヤタロウ。図に乗られると私が面倒だ」

「フ……つくづく不思議だね。こうして思い一つを取っても、君たちはまるで正反対だ。なのに、肩を並べている姿には何故か違和感を感じない」


 ヤタロウの感謝に、フリーディアは慣れた様子で穏やかな笑みを浮かべて言葉を返すと、その言葉に従って頭を上げたヤタロウが興味深げに言葉を続ける。

 そこに釘を刺すように、皮肉気な笑みを浮かべたテミスが口を挟むが、ヤタロウはそれにすら目を細めて意味深な笑みを浮かべると、とても面白そうに言葉を続けた。


「ハン……まぁいいさ。それより、今回はどれくらいこちらに滞在できるんだ? 私がこちらに戻って来た時の事を思うと、王であるお前があまり国を空けるのは望ましくないだろう?」


 ヤタロウの言及を一笑に伏した後、テミスは肩を竦めてこれからの事へと話を進める。

 友の来訪を歓迎すべく心待ちにしていたテミス個人としては、こちらの方が本題とも言うべき話題で。

 だが、ギルファーの事情を少なからず知っているテミスだからこそ、このままヤタロウが急ぎギルファーへと帰還してしまう可能性すら考慮しているのだ。

 しかし……。


「ふふふ……それがそうでもないんだよ。ムネヨシたちがとても頑張ってくれていてね。しかも、猫宮夫妻も助力してくれている。少なくとも、十日はこちらで過ごす事ができるよ」

「ほぉっ……それは素晴らしいッ!! ……待てよ? さてはヤタロウ。お前、この会談……相当粘る(・・)つもりだったな?」


 テミスの問いに、ヤタロウは得意気な笑みを浮かべると、胸を張って堂々と長期の滞在を宣言した。

 その言葉に、テミスも驚きの表情と共に感嘆の息を漏らすが、すぐにファントに到着したばかりのヤタロウの態度を思い出し、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「時と場合によっては……ね……。尤も、そんな心配は杞憂となってくれた。おかげで僕は、夢に思い描く程に待ち焦がれた、待望の日々を手に入れる事ができた訳さ」

「ハッ……!!! 立派に王様なぞをやっているからもしやと思ったが、そうも簡単に性根は変わらんかッ!」

「当り前だよッ! 王としての責務を果たすべく、日々頑張ってきたのも全てはこの時の為ッ!! さぁ、どこから案内をしてくれるんだい? シズクたちから話は沢山聞いているんだッ! 変わった食べ物を沢山扱っているというお店かな? それとも、驚くほど質のいい武具を取り扱っている武具屋かいッ?」


 そんなテミスの笑みに染められるかのように、ヤタロウもまるで悪戯を企む子供のような笑みを浮かべると、突如として熱の籠った言葉で声を大にして喋りはじめる。

 無論。突然、王としての姿をかなぐり捨てたヤタロウには、その正体を知っているテミスとシズク以外ついて行けるはずも無く。

 とても愉しそうな笑みを浮かべて応ずるテミスと、密かに苦笑いを浮かべているシズクの周囲では皆、豹変したヤタロウに呆気にとられていた。


「…………。えぇっと……。ごめんなさい。少し話についていけないというか……。私いま、すごぉ~く嫌な予感がしているのだけれど……」

「クククッ……!! そう焦るな。私とてただお前を呼んだ訳では無い。色々と考えてあるさ」

「本当かいッ!! 嬉しいよッ!! あぁ……凄く楽しみだッ!! 本当の事を言うと、この町に着いてから胸の高ぶりが止まらないんだよッ!! そうだ!! 護衛の皆も、こちらに居る間は好きに過ごして構わないからねっ!!」


 だが、誰よりも先に我を取り戻したフリーディアが、恐る恐るといった様子で問いを口にするも、その問いが目に見えてはしゃいでいるヤタロウやそれに乗っているテミスの耳に届くはずも無く、虚しく虚空へと吸い込まれていく。

 その反応で、これから起こるであろう事と、現状を察したフリーディアが、深い溜息を吐こうと大きく息を吸い込んだ時だった。


「こっちよ。入りなさい。テミス様ぁ~? 連れてきました……ケド……って……」


 扉の向こう側から、間延びしたサキュドのくぐもった声が聞こえてきたかと思うと、拘束されたヤヤを連れたサキュドが、ガチャリ。と。部屋の扉を開けて戻って来たのだった。

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