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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1354話 不可能を選べ

 捕虜とは荷物に等しい。

 自由を許せば反抗や逃走の危険を孕み、拘束すれば部隊の足を鈍らせる。

 その数が一人か二人程度ならば、気絶させるなりして馬に積んでしまえばいいのだろう。

 だがその数が、怪我人を含む数十名にまで膨らんでしまえば別の話。

 最早たったの四人で管理できる次元を超えているし、そんな者達を連れたまま救援に赴くなど不可能であるのは言うまでもない。


「普通ならば、始末するか……見棄てる(・・・・)場面なのだろうがな」


 現状に始末をつける策を模索しながら、テミスは深い溜息と共に呟きを漏らす。

 生き残ったとはいえ、ここは幾つもの死体が転がる戦場だったのだ。大地に転がる屍の数が少しばかり増えた所で、戦死者として扱われるのが関の山だ。

 加えるのなら、わざわざ手を下さずとも、重症者に処置を施す事無くに放置するという手も有効だろう。これならば、罪の意識すらなく『荷』を減らす事ができる。


「だが……あの馬鹿がそんな事を許す訳も無い……か……」


 手当てを受ける獣人たちから蔑みの視線を向けられて尚、必死で救護に駆け回るフリーディアを目で追うと、テミスは再びため息を零した。

 そもそも、負傷者の手当てや事後の処理をすべきだと言い出したのはフリーディアだ。

 あの馬鹿なら、捕えきれないのならばこの場で逃がすなどという、人道精神に溢れた戯れ言を垂れ流し始めかねない。

 そんな事をしてしまえば、ファントに恨みを持つ一団がこの地に生まれるのは必至。

 武力しか頼るものの無い彼等は、近隣の町や村を襲って糊口を凌ぎ、恨みを以て力を付け、ファントへの報復に走るだろう。


「ハァ……いっその事、牧羊犬よろしく追い立ててやろうか……。二列……いや、三列に並ばせて歩かせれば、対処しきれん数ではないが……」


 半ばやけくそのような案を捻り出すと、テミスはそれを実現するために具体的な方策を練り上げていく。

 こちらの手数は四人。馬に乗って四方を固めれば、ひとまず管理先導する事はできるだろう。

 問題は、まず間違いなく逃げ出そうとする連中が出てくる所だが、最悪のパターンとして、比較的に軽傷の者全員が千々に逃げ出したとして、皆殺しを前提とするならば、サキュドと私、そしてシズクだけで対応できるはずだ。


「移送するだけならば良い……のだが……」


 我ながら正気とは思えぬほどにふざけた案である。

 だが、次の問題点を前にして、テミスは片手で額を叩くと、全て投げ出してしまいたいと叫ぶ心に活を入れた。

 そう。テミス達は今、一行に帰還しないヴァイセ達を救援すべく、彼等が向かったであろう村へと向かっている最中なのだ。

 このままファントへ帰還するだけでも相当な無茶だというのに、この連中を連れていては救援などどう考えた所で不可能な訳で。

 結局の所、獣人たちを取るか、ヴァイセ達を取るかの二択となる。


「ハァ……クソ……勘弁してくれ。どうしろって言うんだ」


 煮詰めた所で代わらない結論に、テミスは片手で荒々しく髪を掻き毟ると、吐き捨てるように苛立ちを零す。

 そんなテミスの視界の端で、突如としてキャンプファイヤーかのような大きな炎が燃え上がった。

 恐らくは、遺体の最終処理として、サキュドが魔法を放ったのだろう。

 つまり、あの火が消えるまでには結論を出す必要があるという事だ。

 幸い、嘘か真かはわからないが、こちらに協力的な者も少なからず居る。加えてここに、決着が付いて以来、放心したように座り込んでいるヤヤの身柄を人質と取れば……。


「ハッ……!!!」


 捕虜とした獣人たちを、こちらに協力させられないでもないか……?

 そんな楽観的な考えが脳裏を掠めた刹那、テミスは鋭く息を呑んで、生まれ出でそうになった案を脳裏から掻き消した。

 馬鹿馬鹿しい。こんな能天気な発案など、まるでフリーディアではないか。

 激しく頭を振ったテミスが、そう自らを罵倒した時のことだった。


「おぉ……? なんだぁ……? ありゃぁ……。お~いッ!! そこの人ら、どうかしたのかよッ!?」


 テミス達の戦っていた場所から少し離れた場所を通る街道の向こうから、一台の馬車が姿を現すと、どうやらこちらに向けられたらしい叫び声が微かに響いてくる。

 しかし、その声の方へと視線を向けてみるも、声を掛けてきたらしい馬車は辛うじて米粒ほどの大きさに視認できるほどで。


「……? あの馬車……この距離で良くこちらを見付けられたな……。だが……協力を取り付ける事ができれば或いは……」


 そんな新たな乱入者に、テミスは僅かな違和感を覚えながらも、降って湧いた希望に小さく笑みを浮かべたのだった。

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