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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1353話 動かぬ心と進み行く時

 戦いの後に広がっているのは紛う事無き地獄だ。

 命を落とし、動かぬ屍となった者。深手を負い、身を走る苦痛に呻きながら、死を待つ事しかできぬ者。

 そして、手傷を負い、戦いを続ける事こそできなくなったものの、命を落とすにまでは至らぬ者。

 そんな者達の無念や恨みが、戦いが終わって尚この足元を僅かに漂う朝霧の残滓のように滞っているのだ。

 国同士の戦いのような、相手を全滅させる事の無い類の戦いならば、そういった敗者たちの後処理(・・・)は残った者達が担う役割だ。

 だが、今回の戦いの相手であるヤヤ達には、最早その役を担う事ができるほどの余力すら残されておらず、必然的にその役割はテミス達が担わざるを得なかった。


「…………」


 厭な役割だな……。

 テミスは一人、戦場であった平原の真ん中に立つと、辺りへ向けてを鋭い視線を放ちながら胸の中でひとりごちる。

 たとえ命を救う為の人道的な行為とはいえ、つい先ほどまで本気で殺し合っていた間柄なのだ。相当な変わり者でない限り、救護する側もされる側も、人心がそう簡単に割り切る事ができる筈も無いのは必然というものだろう。

 だからこそ、傷の治療や後片付け(・・・・)を行っている間に、不意打ちや脱走を図る者を出さないための役割ではあるのだが。


「やれやれ……頭で理解してはいても、どうにも自分だけ楽をしているように思えてしまうな」


 生き残った敵の兵士達から恨みや憎しみの籠った視線を受けながらも、献身的に応急処置を行って回るシズクとフリーディアの姿を眺めながら、テミスは自嘲気味にクスリと笑みを零す。

 尤も、ただ立っているだけのように見えて、周囲の様子を逐一把握すべく常に気を張っていなければいけないため、かなりの重労働ではあるのだ。


「申し訳ありません、テミス殿。本来ならば、私が統率を取らねばならないのですが……」

「なに……気にするな。私も必要に迫られて役割を果たしているだけだ」

「ありがとうございます。なにぶん、血の気の多い連中が多く、私では間違いを起こす者が出てしまいかねません故」

「……儀礼的な挨拶は良い。我々はただ、やるべき事を果たすだけとしよう。お前とて、下げたくもない相手に頭を垂れるのは気分の良いものではないだろう」


 そんなテミスの元へ、敵の部隊の中でもひと際年長者であった男が歩み寄ると、静かに膝を付いてから口を開く。

 だが、テミスは一瞬だけ男へチラリと視線を向けただけで、叩き付けるような冷たい口調で言葉を返した。

 儀礼的な服従などただのポーズに過ぎない。どうせ気を許す事ができないのであれば、腹の探り合いに無駄な時間を割くよりも、素直な感情を向けられていた方が幾ばくかマシというものだ。


「いえ……確かに、思う所が無いとは申しませんが、私がテミス殿を尊敬する心に偽りはありませぬ」

「尊敬……ね……」

「はい。我等獣人族は元来、真に強き者に従い、忠を尽くすが至上の悦び。あえて誤解を恐れず言葉とするならば、その類い稀なる強さに惚れ込んだ……とでも言いましょうか」

「ククッ……。随分と惚れっぽい奴だな? いつの日か私が、何処ぞの誰ぞに敗れる日が来ればどうなる事やら……。まぁいい……そちらに任せていた作業(・・)は終わったのか?」


 素っ気ないテミスの態度に、男は再び深々と首を垂れると、厳かな口調で言葉を重ねた。

 並べたてられた言葉はどれも、テミスを褒め称える歯の浮くような文言の数々が並べたてられてはいたが、確かに今はその言葉に偽りは無いらしい。

 だからこそ、テミスは早々に話を切り上げると、淡々と実務的な話へと話題を切り替えた。


「確かに滞りなく。死した者たちの遺品をまとめる事ができました。我等敵兵の遺体など打ち棄てられても文句は言えぬ所、寛大な配慮を賜り、物言えぬ同胞たちに代わり、深く感謝を申し上げます」

「フン……私に礼など要らん。礼を言うならば、あそこで手当てに走り回っている大馬鹿者(お人好し)に言ってやれ」


 再び、大仰な言葉と共に告げられた感謝の言葉にテミスは小さく鼻を鳴らすと、負傷兵達の手当てに奔走しているフリーディアを示してみせる。

 事実。この戦いで戦死した者達の遺品を家族や、仲間達の元へと返すように譲らなかったのは他でもないフリーディアなのだ。それが無ければ、遺体の処理と共にまとめて焼き払っていた私が、礼を言われるのはお門違いだろう。


「しかし……どうしたものかな……。フリーディアの奴、我々がここに居る理由を忘れていなければ良いのだが……」


 そんな事を考えながら、テミスは身振りで男を下がらせると、この後の事を考えた時、避けては通ることの出来ない難題を前に、深い溜息を吐いたのだった。

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