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126話 白銀と黄金

 翌日。

 久々に宿で目を覚ましたテミスは、清々しい気分で朝日を眺めていた。


「フッ……まさに、驚天動地の大騒ぎ……というヤツだな」


 見つめた先にある城下ではきっと、フィーンの号外が町を賑わせているのだろう。


「用は済んだ……面倒な事にならないうちに帰るかな」


 テミスは目を細めて呟くと、ばさりと外套を羽織って部屋を出る。

 別にこの町に留まりたいなどと思うはずも無いのだが、私のこの世界の生活の中では、比較的長く滞在したこの部屋には、ほんの少しだけ愛着があっただけに後ろ髪を引かれる気分だ。


 フリーディアを救うという目的が達成された今、白翼騎士団が私を見逃す理由は無い。あのフリーディアが帰り際を闇討ちするなどと言う卑劣な手を用いるとは思えないが、念には念を入れて嘘の滞在先を吹き込んである。


「ではな主人。世話になった」

「もう、行かれるのですね……まるであなた様は、この町を……フリーディア様を救いに来た聖女様のようだ」

「止せ。偶然だ。またこの町に来れれば寄らせてもらうよ。ご主人の作る食事は美味かったからな」


 朗らかな笑みを浮かべる主人とあいさつを交わすと、テミスは宿の外へと足運んだ。帰りは馬が居ないから、あの酷い旅路を再び辿る羽目になるが、これでようやくファントへと帰れる。


「さらばだ。次に会う時は……また戦場だな」


 テミスは不敵な笑みを浮かべて呟くと、一陣の風が通り抜け、テミスの外套をはためかせた。


「っ……待ちなさいよっ!」


 しかしそこに、息を乱したフリーディアが凄まじい速度で駆け寄って、風に泳いでいたテミスの外套をむんずと掴む。


「貴女……嘘を教えたわね?」

「……ああ。お前と言う担保が無くなれば、約束を反故にした所で白翼騎士団の懐は痛まんからな」

「見くびらないでっ! 私達騎士はそんな真似しないわっ!」


 往来で叫び声をあげるフリーディアの姿に、朝の町を歩く人々の視線が集まりはじめる。いち早く配られたフィーンの記事で一躍悲劇のヒロインとなった彼女は、今や時の人なのだ。


「わかったから声を荒げるな。人目を避けたい私としてはちと都合が悪い」

「っ――そうだったわね。リヴィア(・・・・)?」

「はっ……嫌味の一つも言えるほどには回復したか」


 ニヤリとした笑みを浮かべたフリーディアがそう言うと、テミスは鼻で嗤って外套のフードを外して歩き始める。途端に、キラキラと陽の光を反射する銀髪が解き放たれ、それを見ていた町の人間が感嘆のため息を漏らす。


「こうして肩を並べていると、いつかの日を思い出すな?」

「ええ。こうなる事を知っていたら、意地でも行かせなかったのだけれど」


 二人が歩み始めると、その翻る対照的な二色の髪が放つ光が後を引き、門に辿り着く頃にはその周囲に人だかりができていた。


「大した人気ね? 英雄さん?」

「私より、君の方が目当てだと思うがな?」


 二人はそれだけ言葉を交わすと不意に黙り込み、互いの顔を見つめ合った。その光景は、何も知らない周囲の人間から見れば絵画のように感じただろう。


「……一応訊くが、共に来る気は無いか?」

「いいえ。貴女こそ、ここに留まる気は無いの?」


 テミスがそう尋ね、フリーディアが訊き返す。すると、途端に周囲の人間がざわめき始め、視線に含まれる好奇の色が強くなった。


「フフッ……愚問だったな」

「そうね……お互いに」


 そうとだけ言葉を交わすと、テミスは背筋を伸ばしてフリーディアに背を向ける。ここで別れれば再び刃を交わすのみだが、こうして話ができただけでも僥倖という物だろう。


「本当にこのまま行くつもり? 馬くらいは用意するけど」

「いいさ。受け取る理由も無い。いつかのように歩いていくよ」


 その背に問いかけたフリーディアに、テミスは振り返る事無く言葉を返した。

 フリーディアを救い出したあの戦いは、白翼騎士団が独力で行ったものと言う事になっている。その方が彼等の英雄的行為が際立つし、何より謎の協力者などが存在しては怪しすぎる。


「……この借りは、いつか必ず返すわ」


 テミスがそのまま門から街道へと歩み出ると、その後ろを追いかけて来たフリーディアが小さな声で宣言する。気を遣っているつもりか、町の連中は門の中で静かに見守っているから大丈夫だろうが、何とも大胆な真似をしてくれるものだ。


「期待せずに待っておくさ。では、またな(・・・)


 テミスは皮肉気な笑みを浮かべて剣を示すと、立ち止まって見つめるフリーディアに背を向けて一歩を踏み出した。


 ――その刹那。


「っ――!?」


 テミスの肩がピクリと震え。歩み出した足がピタリと止まる。


「フリーディア様っ!!! 大変ですっ――!!」


 同時に、町の衆をかき分けて現れたミュルクが門の中から飛び出して、焦った声で彼女の名前を叫んだ。しかし。その声すらテミスの耳には届いていなかった。


 テミスが立ち止まった理由。それは、突如頭の中に響いたマグヌスの声だった。


「テミス様ッ! 今すぐファントにお戻りくださいっ! 敵襲っ……人間共の襲撃ですッ!」

「何だとッ!?」


 思わず叫びをあげたテミスは、驚愕の表情でフリーディアの方を振り返る。しかしそこには、同じように驚いた表情でテミスを見つめる二人の姿があった。


 その頭上で、青空に身を隠した天上の星が、キラリと愉悦するように輝いたのだった。

本日の更新で第四章完結となります。


この後、数話の幕間を挟んだ後に第五章がスタートします。


四章は今までとは少しだけ毛色の違うお話でしたが、いかがでしたでしょうか?

テミスの正義、フリーディアの正義、そして白翼の騎士達の正義など。様々な正義が絡み合ったこの章も、お楽しみいただけていればとても嬉しいです。


続きまして、ブックマークして下さっております94名の方、評価いただきました7名の方、そしてセイギの味方の狂騒曲を読んでくださった皆様、皆様から執筆の活力を戴く事で、楽しく物語を描く事が叶っております。改めましてこの場でお礼申し上げます。ありがとうございます。


まだまだ、この先もテミス達の物語は続いていきますので、末永くお付き合いいただけると嬉しいです。


さて、自らの掲げた正義を果たすためにロンヴァルディアへ赴いたテミス、しかしテミス不在のファントが何者かからの襲撃を受けています。果たして、平穏なファントを、自らの居場所をテミスは守る事ができるのか? はたまた、ファントを襲うのは何者なのか? セイギの味方の狂騒曲第5章。ご期待ください!




2019/11/30 棗雪



1/31 誤字修正しました

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