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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第22章

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1351話 悪無き正道

 絶叫と共に放たれたヤヤの一撃。

 その一撃には、テミスの首を落としかけた初撃ほどの鋭さこそないものの、この戦いが始まってから一番の気迫を纏っていた。


「っ……!!!」


 ビリビリチリチリと肌を焦がす濃密な殺意。この一閃を以て、絶対に目の前の敵を殺すという必殺の意志。

 剥き出しになった感情が込められたヤヤの一撃を前に、テミスはゾクゾクと己の背を駆け抜ける怖気を味わいながら、ニヤリと不敵に唇を吊り上げる。


「ククッ……」


 この一撃を待っていた。

 偽りの怒りや、謀略の纏わり付いた薄っぺらな憎しみなどに意味は無い。

 純然たる復讐の意志。己が身の限界すら超えさせる程の怨讐と、如何なる不条理さえもはね返す強い意志。

 こんな、気高く美しい在り方こそ、真なる復讐者の姿と言えるだろう。

 なればこそ。全力全霊を以て相手をするに値するッ!!!


「ハアァッッッ!!!」


 テミスは胸の内で猛々しくそう叫ぶと、駆け登ってくる一対の斬撃に応ずるべく、気合の声と共に漆黒の大剣を猛然と振り下ろした。

 彼女の想いがいかに美しく気高いからといって、むざむざと殺されてやるわけにはいかない。

 ヤトガミは己が欲した力のままに人々を虐げ、世界を貪らんと企んでいた。

 そんなヤトガミの前に私が立つは必定。強欲のままに他者の幸せを喰らう悪を討ったあの戦いを、今も間違っていたとは微塵も思わない。

 だが、如何に巨悪であったとはいえ、ヤヤにとっては唯一無二の父にして、大切な家族で会ったのだろう。ならば、父親を想い、刀を振るうヤヤの想いも正しき想いだ。


「ァァァァァァァッッ!!!!」


 ギャリィィィンッ!!!! と。

 重なり合う二人の咆哮と共に、ひと際力強い剣戟の音が戦場に響き渡る。

 それは、真っ向から相対した正義のぶつかり合う音であり、決して相容れる事の無い意志がせめぎ合う音だった。


「私はッ!!! お前をッ!!! 絶対に許さないッ!!!」


 ヤヤの絶叫と共に、ミシミシ、ギシギシと軋みをあげながら一対の刀が漆黒の大剣を圧し返し、天へ駆け昇がらんとする。

 まるで刀に込められた気迫がヤヤの背を押しているかの如く、放たれた斬撃にはこれまでにない重さがあった。

 だが。


「カァァァァァッッッッッ!!!!!」


 気合一閃。

 テミスは全身に、まるで長くたなびく白銀の髪が逆立ったのではないかと錯覚するほどの気迫を纏うと、振り下ろした大剣に力を込めてヤヤの刀を圧し返した。

 確かに、父親を討たれたヤヤが、父親を討った私を怨むのは正当な道理だ。

 だがそれならば、道を違えた父親を諫め、正しき道へと引き戻す役をヤヤが担うべきであるのも道理。

 元より他人である私には、紡いだ想いなどまるで無い。所詮は代役……相対して討ち取る他に手段は無かった。

 しかし、これ程の想いを抱き、腕の立つ彼女ならば……。万に一つ……否。億に一つ、今とは異なる未来を掴み取る事ができる可能性もあったかもしれない。


「その怨讐。怒り。悲しみ……全てこの背に背負ってみせようッ!!!」

「ッ……!!! ぐ……ッ!!!! くぁッ……!!」


 ヂャリィンッ……!! と。

 テミスが猛々しくそう吠えた瞬間。ヤヤの両手から刀と脇差しが弾き剥がされ、けたたましい音を奏でて地面へと突き刺さる。

 同時に、鈍重な風切り音を奏でながら漆黒の大剣が宙を薙ぎ、ドズリと鈍い音を立てて深々と地面に突き立った。

 そのすぐ傍らでは、両の手から己が武器を失ったヤヤが、まるで魂が抜けてしまったかのように呆然と佇んでいて。

 数瞬。そのまま時が止まったかのような沈黙が訪れた後、ドサリと軽い音を立てて、ヤヤがその場に膝を付く。

 武器を失った両手は力無くだらりと垂れ下がり、あれほど煌々とした光を宿していた瞳は最早虚空へと向けられており、止めどなくあふれる涙が静かにヤヤの頬を濡らしていた。


「…………」


 決着だ。

 互いに生き残ってこそいるものの、誰の目から見てもテミスの勝利に間違いは無かった。

 だからこそ、テミスは黙したまま深々と地面に突き立った大剣を引き抜くと、ぶおんと一振り宙を薙いで刀身に付いた土を払い、ゆっくりと背中へと収める。

 そして、膝を付いて座り込んだまま動かないヤヤから数歩離れた後、おもむろに足を止めたテミスは、ヤヤを振り返ることなく厳かな雰囲気と共に口を開く。


「また……何度でも挑んで来い。お前の胸の内を焦がす憎しみが消えるその日まで。正々堂々たる仇討ち。真っ向からの決闘であれば、幾らでも受けてやる」

「…………」


 テミスの言葉に、ヤヤはその場を動く事も、言葉を返す事も無かった。

 だが、テミスはそれを気にかける様子もなく、そのまま悠然とした足取りで、戦いを見守っていた仲間達の元へと戻っていったのだった。

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